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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と媛さん」2

2019年09月20日 | T.B.2019年


「ところで」

 彼が訊く。

「何で護衛が必要なんだ?」
「護衛じゃないでしょ」

 彼女は涼しげに云う。

「遊び相手だもの」
「お前、本気で云ってる?」

「ねえ、水辺はこっちでいいの?」

「いや、こっちが近道だ」

 彼は指を差す。

 そこはまごうとなき

「獣道……」
「おう!」

 彼は目を輝かせる。

「わくわくするだろう?」
「うーん……」
「わくわくするな!」
「汚れそう……」
「行っくぜー!!」
「おいおい、乙女心は、」

 彼は、先へと進み出す。

 彼女は、その背中を見る。

「おーい来ないのかー!」
「むーん」
「置いていくぞー」

 もはや護衛の意味なし。

「おっ、木の実発見!!」
「行く!!」

 彼女は、獣道へと入る。

 木の枝やら、泥の付いた草で、彼女の服が汚れる。

「木の実どこ?」
「お前、お腹がすいているのか?」

 彼は指を差す。

「あそこだ!」

 木の上に、橙色の実が成っている。

「わあ、おいしそう!」
「よしよし、待ってろ」
「兄様、採れるの?」
「いや、採れるだろ?」

 手を伸ばしても届かない位置。

 彼は、せっせと樹を登る。
 こう云うことは、得意だ。

 実のところに来ると、彼は実を集める。

「おお、うまそう!」

 下にいる彼女は、彼を見上げる。

「たくさんほしいわ!」

 云う。

「お父様にもあげたい!」
「任せろ!」

 彼は実をたくさん抱え、樹から降りる。

「ほら媛さん!」

 云いながらも、彼はさっそく口にする。

「うまい!」

 彼女は、実と彼を交互に見て、その食べ方を真似する。

「うまい!」
「だろ!?」

 彼女と彼は、しばらく食べる。

 余った実は、彼が布に包む。

「手が、べたべた」
「うむ」
「べたべたするぅ」
「拭けばいいじゃないか」

 ほら、こう!

 彼は、つまり、その。
 服で拭き拭きする。

「なるほどね!」

 彼女は頷く。
 なるほどね、ではない。

「じゃあ、行くか!」
「はいっ!」

 彼は布を抱え、片手に食べかけの実。
 彼女も実を食べながら、歩き出す。

「…………」
「…………」
「どうしたの?」
「いや、何か悪寒が」
「…………」
「…………」
「風邪?」

「ま、いっか!」





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