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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と媛さん」3

2019年09月27日 | T.B.2019年


「ここが、水辺!!」
「そう!」

 彼女と彼は、水辺にたどり着く。
 この世界の中心に位置すると云う、水辺。
 その大きさは、広大。
 周辺には8一族が住んでいる。

「何だろう、……兄様」
「思った通りに申してみるがいい」
「ええ! 想像していたよりも、きちんとしてないわね、ここ!」

 つまりは、こう云うことである。

 東一族は、水辺に船場などを整備していない。
 水辺の航路を、今現在、必要としていないからである。

 水辺に乗り出していたのは、西一族との大戦中のみ。
 はるか、以前のこと。

 当然、水辺への道はもはやなく。
 基本的には誰も近付かない。
 じめじめとし、足下はぬかるんでいる。
 草や木々がうっそうと生え、何か、気持ち悪い虫とかいそう。

「でも、なーんか、道っぽいものがあるのね」
「そりゃあ、ね」

 こうやって、興味本位で遊びに来る者だっている。

「あ、こっちには何があるのかしら」
「おい! 急に動くな!」

 慌てて、彼は彼女を掴む。
 足がとられる。

「足がっ!」
「気を付けろ!」

 彼女の足が沈む。

「あわ、わわわわ」
「ふふ。まだまだだな、媛さん!」
「引っ張ってよ!」

 彼は、彼女を引く。
 やっとのことで、彼女の足がぬかるみから出る。

「びっくりしたー」
「よく見て進むんだよ」
「難しいなぁ」
「俺も前、ここでだな、」
「何?」
「ぬかるみにはまって、ここまで沈んだんだぞ!」

 彼は笑いながら、胸のあたりを手で示す。

「嘘よ!」
「嘘なもんか! お前しかはまらないって、父さんに怒られたんだぞ!」
「それはそれは……」

 胸を張って云うことではない。

「それで、どうやってぬかるみから出たの??」
「相方に助けてもらった」
「相方?」
「務めのね」

 務めとは、東一族それぞれが行う仕事のようなものである。
 人は変わるが、通常ふたりから3人で、務めを行う。

「よかったわね」
「うんうん。あのときは本当にどうなるかと」
「だって、あなたしかはまらない……」

 以下略。

 彼は水辺近くをうろうろする。

「どうしたの?」
「ここにさ、」

 彼が指を差す。

「いつか見たときに、舟があったんだけどなぁ」
「舟?」
「そ、舟!」
「舟!!」

 彼女の目は輝く。

 が、あたりを見渡しても、舟はない。

「ずいぶんと旧かったから、つないでいた縄が切れたのかな」
「沈んだとか?」
「そうかも」

 彼女は息を吐く。

「残念……」
「媛さん、舟乗りたかった?」
「乗りたかった!」
「うーむ」
「ねえ。舟、乗り、たい!」

 彼は考える。

「南一族だと、割と誰でも舟を持っているから、そこに行けば……」
「おお! 行こう!」
「いや、行こうって、」
「行こう行こう!!」
「いやいや。村を出るのは、人生の障害がでかいなぁ」
「人生の障害……、とは」

 難しい言葉で、まとめてみた。




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