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「海一族と山一族」51

2018年06月12日 | T.B.1998年

山一族の使者としての役目を果たしたアキラが
トーマの元に立ち寄る。

「人の被害は無かった。
 それだけで何よりだ」

が、と
アキラが言う。

「山一族は山火事の後始末に追われている。
 長同士が話し合うのは
 それが落ち着いてからだな」

村への被害は
山一族の方が甚大だ。

「そちらは、どうだ」

アキラの問いかけにトーマが答える。

「港が一つ焼けたが
 村の被害は少ない」

物の被害は少なかったが。

「海一族の司祭が主犯だったんだ、
 山一族との対話で、実は裏一族だったからでは
 済まないだろう、と頭が痛い」
「そうだな」

裏一族の事は解決した。
だが、それで
急に海一族と山一族が仲良くなるという訳でも無い。

少しずつ、変えていくしかない。

「それに司祭の後任もまだ若い、
 これからどうしていくのか、と
 はっきりしていない事も多くて」
「海一族の長の横にいた奴か」
「めっちゃ緊張してただろ」
「あぁ、口上で舌を噛んでいた」

だよな、と2人は笑う。

「あと」

うん、と改まってトーマが言う。

「俺がカオリを匿っていたのが
 問題になっていて」

「………それは」

すまない、とアキラが
申し訳無さそうな顔を浮かべる。

「なぜ、すぐに長に報告をしなかったのか、と」
「なんと言っていいのやら」
「それで、罰を受ける事になったんだが」

「罰!?」

待て、とアキラが言う。

「なぜ、罰を受ける事になる。
 俺達は、お前は
 裏一族の儀式を阻止したというのに」
「それはそれ、これはこれという訳だ」
「なんなら、山一族側から抗議を」

落ち着け、とトーマが言う。

「その、罰なんだが」

「海一族の代表として
 山一族の村へ使いに行く事になった」

「………は?」
「これから互いの一族で
 何度もやりとりが出てくるだろう。
 その都度俺が便りを届ける事になる」

「社会勉強として
 恋人の1人でも作ってこい、と」

アキラはトーマの方を
強めに小突く。

「驚かせやがって」
「その時は村を案内してくれるんだろ?」
「あぁ、歓迎する。
 肉は食べられるか?」
「う、いける、と思う。
 鳥は食べれるんだけど」
「残念ながら山一族は鶏肉を食べない。
 イノシシや、そうだな、熊とか」
「熊!?」

どんな味なんだ、と
おっかなびっくりしているトーマを
アキラがからかう。

と、

一羽の鳥が鳴き声を上げながら
アキラの肩に留まる。

「時間だ」
「……そうか、帰るのか」

今日の滞在は挨拶程度の物。
個人的に与えられた時間は少ない。

だが

「こちらに来るときは
 事前に文でも寄越せ。
 ………カオリも会いたがっている」
「ああ!!」
「待っているぞ」

アキラの背に、トーマは手を振る。
次会うときは山一族の村で。


T.B.1998
「海一族と山一族」完

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