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「戒院と『成院』」12

2019年12月17日 | T.B.2000年

「先生」

『成院』は医師に問いかける。

「この前、言ってたじゃないですか」
「どれのことかな」
「恋人でも作れば、と」

そうだっけ、と
医師は首を傾げる。

案外適当だな、と『成院』はあきれる。

「それで、
 いい人でも出来た?」
「いや」

そうではないけれど、と
少し考える。

「俺が、『成院』として
 晴子の恋人になる道はあるんだろうか、と」

戒院として生きることは
もう望んではいない。

ヨツバと話して分かった。

名前を捨てることも
他の村で生きていく事も出来る。
けれど、
それは選べない。選ばない。

「俺は成院が好む人と付き合わないと
 変なんじゃないかと思ってたんですが」

「まあそれは、ねぇ、君。失礼だよね。
 どちらに対しても」
「どちら?」

その相手と、そして、

「成院にも、そして君自身にも、だ」

ああ、そうなるとどちらじゃなくて
3人だったな、と医師は言う。

「だいたい、成院の好きな人って
 君に分かるのか?」
「それは、―――」

『成院』はちらりと医師を見る。
成院が想いを寄せていたのは医師の娘。

すでに恋人がいて、結ばれることの無い人を
見ているだけでよいと成院は言っていた。

そして、どうなっていたんだろう。

流行病が起こらず、
あのままの日々が続いていたら

成院は別の誰かと結ばれていたのか、
いまの『成院』―――戒院には想像が付かない。

「いいえ」

首を横に振る。

成院も医師の娘も、もう居ない。

居ないのだから、
彼らがどんな選択をするのか分からない。

「もう、俺が『成院』だから、
 俺が選んでいって良いんじゃないかな、と」

「そうだね」

医師は指摘する。

「仮に晴子が君を選んだとして、
 それは戒院ではなく、成院として、だけれど」
「それでも」
「いつか、本当の事を言うつもりは」
「ない」

それは、なかなか、

「堪えると思うが」

彼自身にも、
きっとそれでもいつか本当の事を知るであろう
晴子にも。

「………それでも」

男はいつでも勝手だものな、と
医師は言う。

「まあ、そもそも、
 晴子が君をもう一度選ぶかという問題が」

「その時は、……その時で」


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