TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「戒院と『成院』」10

2019年12月03日 | T.B.2000年

目を覚ます。

宿のベッドは
自分の部屋とは寝心地も違い、
日の光が入ってくる方向も違う。

起き上がり、
サイドテーブルに置いていた水を飲む。

今日はいつもより遅い時間に起きた。

「………」

だからきっと、
成院の夢なんて見たのだろう。

はあ、と
戒院はひとりため息をつく。

「はい、どうぞ」
「ありがとう」

広場で再び顔を合わせたヨツバに
戒院は露店のお茶を差し出す。

昨日、相手を俺にしたらどう、と
そう問いかけた戒院に
ヨツバは何も答えなかった。

西一族に居る恋人の事を
どう考えているのか、戒院には分からない。
ただ、もう彼女は決めているのだろうと
そう思った。

少し羨ましい。

「………あふ」
「寝不足かしら?」
「まあね」

あくびをこらえた戒院に
ヨツバは尋ねる。

「ちょっと変な夢見て」
「ふうん、
 村に居る彼女の夢でも見た?」
「いや、そうだったら良かったな」
「むう?」

成院の事を夢に見るのは久しぶりだ。
そんな余裕は無かったというだけで
忘れていた訳では無い。

夢の中の成院は
この、北一族の村に居て
市場を歩いている所だった。

それを戒院は遠くで眺めている。

声は掛けられないと知っていた。
今自分が見ているのは
過去の出来事だと分かっていたから。

戒院はヨツバに向き直る。

「以前、俺を見かけた、と言っただろう」
「えぇ」

「それ、俺の兄弟だ」

「あなただったと思うけれど」

口元のホクロ、と彼女は言った。
それが目立つから気がついたと。

戒院と成院は双子。
それも
同じ顔の一卵性双生児。

それでも
1つだけ違う所があって
兄の成院には口元にホクロがあった。

「………俺には無いんだ」

今、東一族の村では
そうであるように装っているが
北一族の村に遠出する時は
今までホクロは無いままだった。

最後の抵抗。

自分は本当は戒院なんだと
ちょっとした意地だった。

だから、
ホクロをつけたまま市場に来たのは
今回が初めて。

「じゃあ、別に兄弟がいるのね」

それをヨツバが信じたかは分からない。
どちらでも構わないというような答えだった。

「うん、いた」
「いた?」

戒院は笑う。

「死んだよ。病だったんだ」

今日は饒舌だな、と自覚する。

「病人が2人。薬は1つ。
 ―――選ばなきゃいけなかった」

こんな事、村では誰にも言えない。
知られるわけにもいかない。

「俺は選ばれた。だから」

ただ、
ヨツバには冗談話のように聞こえるだろう。
それがいい。
そうなのね、と聞き流してくれるだけの人に
少しだけ、吐き出したかった。

「俺はこれからずっと
 あいつの代わりに生きていくんだろうな」

これからも、
ずっと、ずっと。
秘密を知るのは自分と大医師だけ。

「ヨツバが見かけた俺の兄は、
 探し物をしていたんだろう」

「ええ。
 無事に見つかったと
 あなたは言っていたわね」

それはきっと、
西一族の村に入るために
必要な物を準備していた姿だろう。

そうして、潜入した村で
成院は成し遂げた。


「探していたのは
 俺の薬だよ」




NEXT


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。