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「琴葉と紅葉」39

2019年12月06日 | T.B.2019年

 彼女が山を下り

 西一族の村へと戻ってから


 数日後。


 ここ最近の雨が嘘のように。
 空は晴れ渡っている。

「…………」
「…………」

「……何よ」

 琴葉は手を止め、顔を上げる。

「何か用?」
「あ、えっと」

 紅葉がいる。

「えー、っと」
「黒髪ならいないけど」
「あ。うん」

 紅葉はあたりを見る。

 彼を、探しているのか。

 琴葉は云う。

「村長のところか、狩りじゃない?」
「それ、ずいぶんと違わない?」

 琴葉は息を吐く。

「うちら、適当だから」
「何それ」
「干渉しない程度に」
「ふーん」
「生きていて、たまに帰ればいっかなって」

 紅葉は首を傾げる。

 琴葉は、ちらりと紅葉を見る。
 が
 やがて、自分の作業を再開する。

「…………」
「…………」
「まだ、何かある?」

 琴葉の言葉に、紅葉は、再度あたりを見回す。

「あの、」
「何?」
「……大丈夫だったの?」
「大丈夫? 何が?」
「この前の……」
「山に行ったときのこと?」
「あのときは……、ごめんなさい」
「ああ」

 琴葉は頷く。

「別に、気にしてないと思うよ」
「…………」
「平気じゃない?」
「……そっか」
「本当に謝る気があるんなら、あいつに云ってよ」
「……うん」

 それでも、紅葉は落ち着かない。

 琴葉は構わず、作業を続ける。

「それは?」

 琴葉は紅葉の手元を見る。

「…………」
「ねえ、琴葉」
「何?」
「面倒くさがらないでよ」

 琴葉は、水に沈めていた手を出す。
 その手には、何かの植物。

「葉っぱ?」
「洗ってるの」
「何で?」
「何でって、……薬になるから」
「へえ」

 紅葉が云う。

「先生の手伝い?」

 琴葉は答えない。

「何だ」
「……何だって、何よ」
「琴葉もちゃんとやってるんじゃない」
「どう云う意味?」

 琴葉は、植物を洗う。
 それが終わると、葉を広げる。
 乾かす。

「それで終わり?」
「乾くのを待つのよ」

 作業はまだ続く。

 琴葉は立ち上がる。

「私はそう決めたの」

 琴葉は云う。

「狩りは出来ないし、勉強は出来ないし」
「琴葉、」

 それでも、

 ちょっとだけ、出来ることをやる、と





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