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「西一族と巧」6

2019年04月19日 | T.B.1996年


「稔は医者だもんな」
「いや、まだ見習いだけど?」
「今後の話」
「今後?」

 巧の呟きに、稔は首を傾げる。

 村内の病院にて。
 巧は予定通り、予防接種に来ていた。

「悟に何か云われたんだろう」

 巧は稔を見る。

「察しがいいな」
「さっきまで、散々ここで暇をつぶしていたからな」

 迷惑な話だと、稔は、手を動かす。
 予防接種の準備をする。

「こっちは暇じゃないんだ!」
「そんなにしゃべっていったのか」
「誰それの噂話だの、結婚の話だの」
「悟……」
「困るんだよ」
「ずいぶんと、おしゃべり好きで……」
「悟がな!」

 稔は、手をひらひらさせる。

「病院は人手が足りないんだ」
「ここの仕事なんか、やめたらいいのに」
「あのなぁ」

 稔が云う。

「俺は狩りが下手なの」
「うん」
「手に職を付けないと稼げないわけ」
「それはそうだろうけど」

 西一族は狩りが出来なければ
 他の職を持って、一族での立場を得る。

 とは云え、職はいくつかある。

「巧はいいよな。狩りが上手いから」

 巧は首を傾げる。

 稔も狩りに出ていた。
 まだ、狩りの見習いと呼ばれていたころ。
 けれども、いつの間にか、狩りには参加しなくなっていた。

 狩りが下手だったのか。
 いや、合わなかったのか。

 記憶はない。

 気付いたら、稔は、医者の見習いをはじめていた。

「……先が決まっているって、すごいな」
「先?」
「だから今後の話」
「俺が医者になること?」
「そう」
「まだ見習いだけど」
「でも、決まっているんだから、すごいよな、って」
「何。巧は結婚を考えているのか?」
「違うって。さっき悟にも似たようなことを……」
「じゃあ、何?」

 稔が訊く。

「狩りが嫌になったとか?」
「そうじゃない」
「もしや、」

 稔は手を叩く。

「なんとなーく、未来に不安を覚えている!」
「えぇえ!?」
「思春期的な??」
「そんな話にするな!」

 稔は笑う。

 そろそろ順番が来るから、と、部屋を後にする。

 前に

 そうだ、と、振り返る。

「俺はあんまり魔法は得意じゃないんだが」
「いや、普通はそうだろう」

 西一族は
 水辺の8一族中、唯一魔法を使えない。

「北一族の村で、人気の占い師がいるんだと」
「占い……」
「今後のこととか相談したらいいだろう」
「まじか……」
「遊びがてら、行ってみたらいいじゃないか」

 そんな、稔の提案。




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