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「高子と彼」7

2019年04月23日 | T.B.2002年

その日は早く仕事が上がり、
高子は家路へと歩く。

そう遠くはない
病院から自宅への道。

「おおい、高子」

配達途中の尚とばったり出くわす。

「そろそろ雨が降り出しそうだ」
「ええ。
 その前にと急いでるのよ」

二人は空を見上げる。
朝と雲行きが変わっており、
雲が立ちこめて来ている。

「尚も配達。
 ………まだ多そうね」
「様子を見て今日は途中で終わりだな」

ああ、そう言えばと
高子は言う。

「この前はありがとう」
「うん?」
「お茶、美味しかったって
 倫子に伝えておいて」
「ああ」

その事なんだけど。と
尚は切り出す。

「なあ、高子。
 北一族の村に出掛けようか」
「ええ?」
「行ってみたいと言ってただろ」
「それは言ったけれど」
「倫子が、どうも無理そうで。
 だから俺と行こうか?」

「大丈夫よ。
 用事があるなら一人でも行けるから」

ああ、困ったなと内心高子は焦る。
昔からの尚の悪いクセだ。

「でも、手助けがあった方が」

「そういうのは」

ふと、肩に手が置かれ
高子と尚の間に人が割り込んでくる。

「止めた方が良いんじゃないか。
 変な噂が立つ」

「湶」

「おいおい、
 変な意味なんて無いぞ」

ええ、と高子は頷く。

「分かっているわ。尚はいつも親切にしてくれるから。
 でも、本当に大丈夫よ。気にしないで」

それに、と続ける。

「確かに変な噂が広まったら
 尚にも倫子に悪いから」
「………高子にも悪い噂が広まる」
「そんなもんか?」
「そうだ」

いいから、と
高子は湶の腕を引き、歩き出す。

「それじゃあ」
「ああ、それじゃあな」

暫く歩いて後ろを振り返ると
なんでもないように
尚は配達の荷物を運んで歩いて居る。

「………」
「………」

はあ、とため息をつく高子に
湶が言う。

「立ち聞きしていた訳じゃ無いんだけど」
「………」
「声が聞こえてきて」
「ええ」

「余計なことをした?」

「いいえ、助かったわ」

昔からと高子は言う。

「悪気はないのだけど。
 ちょっとああいう所があるの」
「もっときっぱり断るべきじゃないのか」
「こっちにも
 人付き合いがあるのよ」

ふぅん、と湶は言う。

「もっと、きちんと
 断る理由を作ればいいのに」

「え?」

「いや、なんでもない」


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