TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「水樹と嗣子」6

2019年07月16日 | T.B.2003年


夜道を進む嗣子の後ろを
少し距離を取って歩く。

「来ないで」
「あ、いや。
 もう少し人通りのある所まで」

いくら東一族の土地とは言え
夜の人気の無い道。

「慣れているから平気」
「そうなのか。
 そりゃあ、心強いな」
「バカにしてる?」

武術の心得のある水樹に言われたら
そう思うのは当然かも知れない。

「いやいや、だって、夜じゃん」
「それが?」
「お前ここがどこか分かってんのか?」

村の郊外。
静かな森沿い。

獣は出ないと言うし、
整備もされている。

月は出ていないけれど
星がその分よく見えて、
嗣子にしてみれば、落ち着く道。

「?」

まじか、と
水樹は慌てる。

「墓地の近くだぞ!!!」

言われて、そうだったな、と
思い出す。でも。

「………それが?」
「幽霊でるかもしれないし」

「え?怖いの?」

コクコク、と水樹は頷く。

「死んだ人でしょう。
 何が出来るっていうのよ」
「お前、霊魂を舐めるなよ」
「………信じる人なんだ」
「そうだよ、悪かったな」
「悪いとは言ってないわ」
「姉ちゃんの元彼とか、出るよ。
 俺がこっそりお高いシャンプー使った事とか!!」

「それは、よくわからないけど」

と嗣子は言う。

「なら、村の近くまでは
 着いてきていいわよ」

「まじで、さんきゅ」
「でも、この距離はそのままで」

それ以上近寄らないで、と
念を押す。

「うす」

ギリギリ会話ができる間隔のまま、2人は歩く。

水樹は鼻歌を歌っているが
嗣子は放っておく。
どうせ村まであと少しだし。

怖いのならば仕方無い。

「なあ、意外と話すと面白いなお前」
「………お前って言われるの嫌い」
「ごめん」

でも、と水樹は続ける。

「俺、言うほど
 嗣子が変わってるとは思わないけど、な」
「………」
「まあ、俺も同じだけど」

変わってる、って。

「全然違うわよ」

「そうかな?」
「違う!!全然!!」
「???嗣子?」

「何にも出来ない私とは違う。
 あなたは、変わっているかも知れないけど
 みんなが必要としてるもの!!」

だから、分かってない、と嗣子は言う。

「私、生まれる所を間違えたのよ。
 東一族に向いてないんだわ」
「そんな事無いって」

ぴたり、と嗣子が止まる。

「もう、村の中心に入るから。
 ここまで。
 本当にこれ以上着いてこないで」
「あ、あぁ」

嗣子は、最後に水樹にこう告げる。

「あなたが、今、
 私に構うのだって、
 珍しい物見たさだから」

「嗣子」

水樹が呼びかけるが、嗣子は振り向かず
村の中心へ歩いて行く。

1人残された水樹は、
困った様に頭をかく、と呟く。

「そういうんじゃ、無いんだけどな」


NEXT

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。