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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「水樹と嗣子」5

2019年07月09日 | T.B.2003年

「食べたなぁ」

夜も更けた東一族の道を
1人水樹は歩く。

「あ~、
 夜の空気涼しい~」

東一族の酒場がある中心地から、
家までの道のり。

もう、寝静まっている人も多く
家が多い所では静かにしていたが
そうでない場所にさしかかると
自然と鼻歌が漏れる。

「ふふふ~ん」

ちょっと気分も大きくなったり

「んん〜春巻きぃ〜食べたぁあい〜♪」

ガサッ。

「ぁあん♪ああん〜ぁあん♪(こぶし)」

ガサガサッ!!!

「うおわっ!!!?」

草むらから聞こえた音に
水樹は思わず後ずさり
構えを取る。

「いの、イノシシ!!?」

やばーい、
こんな所にも出るんだわ。
餌も減って来たのかな?と
近年の環境変化に思いを寄せつつ。

東一族は狩りを行わない。
イノシシを倒したとしても食べない。
なので、無駄な殺生をするわけにもいかず。

「静まりたまえ!!
 山に帰りたまええええ!!」

ガサガサガサッ!!

「いやああああ!!」
「………人間、なんですけど」
「はうおお?」

草むらから出てきた人影に
腰を抜かしかけていた水樹は
はーーっと息を吐く。

「人?」

こくり。

「人間?」

こくこく。

「なんだ~、
 もう、びっくりさせちゃって」
「ごめん、なさい」

それだけ言って
身を翻してその場を去っていく。

「おおおい、ちょっと待って」

もう反射的に水樹はその後を追いかける。

「うん?」

シルエットで女の人っぽいな、と
思っていたけれど。

「嗣子じゃん!!!」

「声!!大きい!!」

やめて、と嗣子は水樹の口を塞ぐ。

「私、もう謝ったわよね」
「それは俺も悪かったよ。
 ごめんって」
「着いてこないでください」

突然の敬語がつらい。

「いやでも。
 こんな夜中に1人で危ないって」
「酔っ払いに絡まれるよりマシ」
「俺、飲んでないんだけど」
「………はあ?」

嗣子がかなり引いた顔で水樹を見る。

飲んでないで、あのテンションだったの、と。

「じゃあ、余計に
 近寄らないで下さい」
「いや、っていうかさぁ」

水樹は言う。

「また、砂漠に行くつもりだろ?」

ハッと、嗣子の表情が変わる。

「…………」
「今まで、何も無かったかもしれないけど、
 危ないから」
「…………」
「誰か、俺とか、裕樹とか
 着いて行くし」
「…………」

「何か、理由があるんだろ。
 砂漠に行きたいなにか」

それをちゃんと教えてくれたら、と
水樹は問いかける。

「あ~いや。
 教えなくても良いけど、
 とりあえず、1人は危ないから」

「…………」

嗣子は俯いたまま踵を返す。

「おい?」

「………家に帰る。
 これで、満足でしょう!!」
「あ、いや。
 安全な方が良いけど」

うーん、怒らせたな、と
村に戻っていく嗣子の背中を
水樹は見守る。


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