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「涼と誠治」39

2019年12月20日 | T.B.2019年


「ずっと昔にだな」

 山一族が云う。

「黒髪の女性を助けたことがある」
 云う。
「今思えば、顔立ちがお前に似ていたな」
「…………」
「素性は知らないが、」
「…………」
「もしや、お前の母親だったか?」

 彼は首を振る。

 あり得ない話だ、と。

「気を付けて帰れ」

 彼は手を合わせる。
 山一族は頷く。

「お前に、山の神の加護があるように」


 彼が山を下り

 西一族の村へと戻ってきてから


 数日後。


 手当てをしてもらい
 いろいろと村長に話を聞かれ、今に至る。

 ここ最近の雨が嘘のように。
 空は晴れ渡っている。

 誠治が、彼の元へとやって来る。
 彼は、家の前で道具を手入れしていた。

 誠治は、彼の前に立つ。

「もう、いいのか」

 涼は頷く。
 同じことを訊く。

「誠治は」
「俺も平気だ」
「なら、よかった」

 涼が訊く。

「今回のことは、村長が何と?」
「ああ、……それはだな」

 誠治は、涼の前に坐る。
 話し出す。

 簡単に云うと、誠治が西一族の情報を他一族へと売ろうとしたこと。
 しかも、山一族かと思っていた相手が、裏一族だった。

 けれども、それは、誰も知るはずがない。
 その場にいたのは、涼と誠治だけだったのだから。

 涼が云う。

「村長には裏一族のことを伝えたけど」
「……だよな」

 もし、何かあって、裏一族が西にやって来るかもしれない。
 そう思うと、隠すことではない。
 報告すべきことだったと。

「村長が、そこから、誰にその話を伝えたかは知らない」
「ああ」
「上のどこまでが、裏一族の件を知っているのか」
「本当にやべぇ……」
「誠治は何と云われた?」

「うん、まあ、」

 誠治は息を吐く。

「なかったことにしてやる、と」

 そう、村長が云った。

 これをいい経験に、西のよき村長候補になれるよう、励め、と。

「たぶん、裏一族の件は、誰も知らないみたいだ」
「そうか」
「村長と、補佐役ぐらいか?」

 誠治の言葉に、涼は頷く。

「俺たちの狩りが手間取っただけ、と云う話にしてくれた」
「妥当だ」

 涼は、手入れを再開する。

「当分謹慎だけどな!」

 つまらない、と、誠治は身体を伸ばす。

「まあ、俺の謹慎が終わったら、狩りに行こうぜ」
「そうだな」
「…………」
「…………」

「涼?」





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