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「未央子と陸院と南一族の村」10

2020年06月30日 | T.B.2017年
東一族の村へ戻る馬車に
二人は乗り込む。

「もう一度会って確かめたら?」

その、父親そっくりの男に。

陸院は提案したが
未央子は首を横に振る。

「なんとなくだけど、
 探しても会えない気がするの」

今日の出来事は
きっと偶然がいくつも重なって、
同じ事は二度起きない。

「それに
 この馬車に乗らないと今日中に村に帰れないし」

「南一族の村に泊まればいいじゃないか」

「こんな遠出するって、
 誰にも言ってないから
 そういう訳にはいかないのよ」

「事情が事情だから仕方無いだろ」

「いいえ」

翌日帰って、
未央子どこに行っていたの?
え、外泊?
………陸院、と?

なんて。

「変な噂立っても困るし」
「何もしないって!!
 なんだよ、傷つくなぁ」

陸院は頬を膨らませて
ぷいっとそっぽを向く。

「………ふふ」

未央子も同じ様に外の景色を眺める。

遠ざかっていく南一族の村。
しばらく、畑ばかりの景色が続く。

もしかしたら、
陸院が言うように、あの人を捜して
深く問い詰めたら、
何かを教えてくれたのかも知れない。

けれど。

未央子が生まれるもっと前。

父親や母親、そして、戒院という人。
未央子には知らない何か、があったのだろう。

何かがあって、
それでも、
今の暮らしがあって。

何があったの、と
話を蒸し返すのは未央子の役目ではない。

必要な事ならば
いつかきっと、両親が話してくれる。
それを待とうと思う。

「………」

ふと陸院を見る。

「ねえ、陸」
「なに?」

血の繋がりだけが親子じゃない、とか
誰の子であっても
自分であることに変わりない、とか。

あれは
未央子に言っているようで
自分に言い聞かせているようにも思えた。

「なんでも、ない」
「なんだよそれ」

陸院の事情は陸院の物。
話すつもりも無いことを
無理に聞こうとは思わない。

けれど。

話して気持ちが落ち着くのならば
いつか、
話してくれると良いな、と思う。

今日、未央子の話を
聞いてくれたように。

帰ったら、
また、いつもの毎日が始まる。

「陸………あ、陸院は」
「いいよ」

陸院は言う。

「東一族の村に戻っても、
 未央子は俺の事、陸って呼んでよ」

揺れる馬車の中、
夕暮れ時で
陸院の表情はよく見えない。

それでも、
なんとなく、

緊張しているのだろうな、と。

いつも、
未央子にやたらと話しかけてくる
その意味が分からない訳じゃない。

「………」

どうしようかな、と
からかって誤魔化すことも出来るけれど。

「分かった」

未央子は頷く。

「声を掛けるときは
 必ず、そう呼ぶわ」


T.B.2017
東一族へと戻る馬車で。



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