TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「東一族と巧」6

2020年07月03日 | T.B.2000年

 雪が降っている。

 が、まだ少ない方だ。

 今のうちに畑を見ておこうと、彼は準備をする。

 暖炉に火を起こす。
 部屋が暖まる。
 彼は暖炉の横を見る。
 薪はない。

 外の置小屋にもう少しあるはずだが、
 今後を思うと、薪も集めておかなければならない。

 彼女はまだ動き出さない。

 早い時間。
 人目に付かないうちに外でやることを覚えた、自分の時間。

 彼は家を出る。
 畑に向かう。
 積もった雪が、いつもより厚い。
 なかなか、前へと進めない。

 息を切らして、彼は畑を眺める。

 もちろん、雪一色。
 先ほどより、あたりは明るくなっている。

 判りやすい場所に荷物を置き、彼は、道具だけを持つ。

 雪をかく。
 彼は首を傾げる。
 何も出てこない。
 ここは、もう、掘り上げた場所だっただろうか。

 彼は場所を変え、作物を探す。
 雪をかく。

 少し、多めに作物を持ち帰ろう。
 雪をかき、土を掘り、作物を取り出す。
 まだ、畑には十分に作物がある。
 雪が溶け暖かくなるまで、食糧は保つ。

 と、

 何かがこちらを見ている。

 巧は顔を上げる。

 静かな場所。
 ほんの少し、降っている雪。

 その中に、

 獲物。

 一羽の兎

 餌を求め、さまよっているのだろうか。

 無意識に、彼は手に持つ道具を、握り直す。

 目が合っている。
 もちろん、彼のことは気付いている。

 少しの距離。
 彼は、一歩踏み出す。

 獲物は、動かない。

 また、一歩。

 一歩。

 瞬間

 獲物は向きを変える。

「…………っ!?」

 彼は走り出そうとする。

 が

 走り去る獲物。

 追いつくわけがない。

 狩りの飛び道具も、ない。
 あったところで、扱うことは出来ない。

 すぐに、獲物の姿は見えなくなる。

「…………」

 その方向を、彼は見る。
 また、現れるわけでもないのに。

 彼は息を吐く。

 畑に戻る。
 作物をまとめ、道具を持つ。

 空を見る。
 先ほどより、雪の量が多くなっている。

 けれども、まだ、薪を集めなければならない。

 彼は歩き出す。




NEXT




最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。