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「涼と誠治」34

2019年07月26日 | T.B.2019年


 数名の山一族は、馬で、一気に崖を下りる。

 一歩間違えれば、命はない。

 けれども彼らは、手慣れたように、崖を下りる。

「いたか!?」
「いや、こちらには!」
「やはり、裏には逃げられているな」

 馬に乗ったまま、山一族はあたりを警戒する。
 裏一族の気配は、もはやない。

「落ちたと云う、西一族は?」
「もはや、助からんだろう」
「村へ戻るか」

 ひとりが、馬を動かす。

 が

「待て!」

 別の山一族が、何かに気付く。

「いるぞ!」
「何!?」
「どこだ」

 山一族は集まる。

 ひとりが、馬から下りる。

 さやを持つ。
 叩く。

「死んでいるのか」
「当たり前だろう」
「死んだな」

 黒髪の西一族が倒れている。
 ひとりだけ。

「ひとりなのか?」
「そのようだな」
「声はふたりしたんだが」

 再度、さやで、西一族を叩く。
 けれども、動かない。

「あの上から落ちてきたんだぞ」
「雷に、当たったか」
「残念だったな」

 と、

 山一族は一歩下がる。

「……どう云うことだ」

 倒れている黒髪の、指がわずかに動く。

「生きて、る」
「ありえない」

 山一族は顔を見合わせる。

「どうする?」
「奇跡じゃん」
「なら、」

 ひとりが頷く。

「この状況を聞き出せるわけだ」
「ははっ」
「山へ連れて行くか」

 もうひとり、馬から下りる。
 ふたりで、西一族を馬に乗せる。

「とにかく、山へ戻ろう」
「族長に、こいつを差し出せ」
「行くぞ!」

 雨が降り続いている。

 馬が走り去る。
 が
 ひとりだけ残る、山一族。

 辺りを見回す。

 この場に残る感覚に、気付く。

「……何だろう?」

 山一族は首を傾げる。

 この、感じたことのない、

「魔法の痕跡、は」






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