定年楽農

第二の人生を農で楽しもう

小説定年楽農44

2018-12-16 21:22:42 | 小説定年楽農
「三方良し」を心得とす
 昔、近江商人の心得に、売り手良し、買い手良し、世間良しという「三方良し」があった。
 庭先無人直売所ごときで、とてつもなく大きなことを言うのもはばかれるが、この心得は、密かに直売所「やわた旬鮮」の心得としている。
 最近、お客さんから「ありがとう」と言われるようになった。
 何がありがたいのか。多分「安価だから」ではないか。いつかは、「価格の割には品質がいいから」となって欲しい。
 最近は、日が長くなり、店頭から野菜を終う前に、夕御飯を食べる。昨日は気がつくと午後6時45分、急いで終いにいくと、暗い中で、お客さんが、ネギとブロッコリーを買っていくところでした。
 ということは、お客さんは品物を見ずに買っていっていることになる。つまり、信用されているということか。嬉しくなった。
 尤も、年金をいただいているので、農業収益がわずかでも、三方良しの気分になれる。
 つまり、「エセ三方良し」ではあるのだが。
 もう一つは、お客さんに「ありがとう」というよりは、お客さんから「ありがとう」と言ってもらえるような店にしたい。
 一郎は、「愛想をよくして売り上げを伸ばすよりも、品質を良くしてお客さんから「ありがとう」と言ってもらえるようになりたい」と思っている。
 昭子「だから、あんたの商売は「武士の商法」というんだよ」

  
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小説定年楽農43

2018-12-16 07:49:49 | 小説定年楽農
 万引き
 やわた旬鮮では、店がまわりの住宅からよく見える場所にあるからか、無人でも売れた野菜の数量にみあう金額が料金箱に入っていることがほとんどである。金額が少ない場合はごくまれだ。
 ある時には、料金箱を開けてみると、紙に包んだ100円玉が出てきて、紙には、昨日の不足分です。名前」が書かれていた。地域住民の意識の高さに感心した。
 ただ一度だけ、頻繁に金額の足りない日が続いた時があった。
 店は12時に開店するが、その直後に万引きをされる傾向がわかり、しばらく様子をうかがっていたところ、シルバー色の普通乗用車が止まり、60歳代のおばさんが野菜を買っていった。
 立ち去った後、野菜は5袋なくなっているのに、料金箱を見たところ金はゼロであった。
 後日注意していたところ、例の乗用車が駐車し、買い物をしていたので、帰るために車に戻ろうとしたところで、一郎は、出て行って、顔をよく見て、「ありがとうございます」といった。
 おばさんは、にこっと会釈し、動揺した様子は感じられなかった。
 車が去った後、料金箱を見たがやはり金はゼロだった。
 しかし、その後、そのお客さんは来なくなったのか、金額が足りない事態は収まった。
 後から思うと、あのおばさんは認知症の気があったのではないかとも思った。
 他で野菜の無人直売所をしている人に聞くと、よく万引きをされるという話を聞く。
 しかし、一郎は、かわいそうな人には、恵んであげてもいいと思っている。
 経済的に貧しい人は当然であるが、お金があっても万引きする人は、心が貧しい人と考える。
 いずれもかわいそうな人である。
 しかし、子どもが遊び半分に万引きすることがあると、そういう機会を与えてしまう事への責任を感じるが、今のところ、そのような兆候はない。
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小説定年楽農42 

2018-12-14 21:57:28 | 小説定年楽農

八幡在来種ネギ
八幡在来種ネギは、地域で自家用として昔から作られていて、緑の部分も白い部分も食し、とろけるように柔らかく、甘みのあるネギで、古くは地域で「ねぶか」とよばれていた。
しかし、近くのスーパーには、ネギといえば白ネギか、葉ネギしか売っていなく、当直売所「やわた旬鮮」では、年配者には懐かしいようで好評だ。
九条ネギと法性寺ネギを八幡在来種の隣り合わせに植え、交配して、いいとこどりのネギができないか試行錯誤をしている。
しかし、品質の判断が難しく、上手くいかない。
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小説定年楽農41 

2018-12-03 20:48:41 | 小説定年楽農

近くにスーパーマーケットが開業 
 一郎の自宅は、進行中の区画整理事業の中にあり、近くにスーパーマーケットが開業することとなった。
 一方、やわた旬鮮では、これまで品ぞろえのために、多品目の野菜を栽培、販売してきた。
 しかし、野菜はそれぞれに季節や栽培技術が異なり、多品目では、栽培管理が大変であった。
 したがって、いい野菜や、十分な量の販売が計画通りに進まなかった。
 近くにスーパーマーケットができることにより、品ぞろえをやめ、品目を絞ることにした。
 シュンギク、ナス、キュウリ、ピーマン、タマネギは、旬の時はスーパーでも安い。所得が低くても家計に影響の少ない兼業農家も市場に多く出荷している。
 キャベツ、ハクサイは、一個100円では安く、200円では高く、売りにくい。
 バレイショ、ショウガは、 種芋が高く、その割に収量が少ない。
 コッマツナは、食習慣がなく、あまり売れない。
 サツマイモは、食材としての用途が限られ、あまり売れない。
 結局残ったのは、黒大豆、ブロッコリー、碧南鮮紅五寸人参、サトイモ、ネギ、ホウレンソウを重点的に栽培することとした。
 スーパーができたおかげで、お客さんは、やわた旬鮮に寄って、足りない野菜をスーパーで買ってもらえればいい。

小説定年楽農41-2
土づくり
 多品目の野菜の栽培の弊害の他に、スーパーとは違いの分かる品質とする必要があり、よく言われている土づくりが重要だ。
 一郎は、自宅から3km離れている肉牛農家の牛糞堆肥の舞人販売から、牛の餌の空いた紙袋に自分でつめて、1袋100円を料金箱に入れてくる。

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小説定年楽農40

2018-12-03 07:32:18 | 小説定年楽農
 

 九条ネギ
 4月の始め、一郎は、昭子にせがまれて、京都の桜を見に行くことになりました。
 一郎「せっかくだから、1泊して九条ネギの産地にも行ってみたい」
 昭子「いいよ」
 一郎は、googleマップの航空写真を見て、京都市南区でネギ畑とみられる圃場をチェックした。
 近鉄京都線の上鳥羽口の西側の住宅地の中に畑がばらばらある。徒歩で行ける距離だ。
 早速、上鳥羽駅からチェックした地図を頼りに、歩いていくと、ネギを植え付けている60歳ぐらいの農家に出会った。
 一郎「こんにちは、それは九条ネギですか」
 農家「そうだよ」
 一郎「愛知県で農業をやっているんですが、九条ネギに興味をもっていて、ちょっと話をお伺いしたいと思っているんですけど、いいですか」
 農家「九条ネギといっても、一般に大きい種苗会社から販売している九条ネギとは違うから。ここの九条ネギは、組合を作っていて、特定の種苗会社から仕入れているものだから」
 一郎「その種は、だれでも売ってくれるんですか」
 農家「多分、売ってくれると思うよ。京都の伏見種苗店ていうんだ」
 一郎「出荷はどうしているんですか」
 農家「全て仲介業者を通じて出荷しており、京都では、高島屋百貨店しか売っていなく、後は東京方面にしか出していない」
 農家「でも、昔の九条ネギは、葉の緑が薄く、このネギとは違っていた」
 一郎「その苗は手に入らんでしょうねえ」
 農家「自家用に作っている人はいるとは思うが、ちょっと思い当たらんねえ」
 一郎は、種苗会社の名前は聞いたが、考えてみれば、高島屋百貨店で売られているネギに少しでも根がついていれば、栄養繁殖で十分と思った。
 帰りに早速高島屋百貨店に寄り、一束198円の九条ネギを購入して帰ってきました。
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