定年楽農

第二の人生を農で楽しもう

小説定年楽農43

2018-12-16 07:49:49 | 小説定年楽農
 万引き
 やわた旬鮮では、店がまわりの住宅からよく見える場所にあるからか、無人でも売れた野菜の数量にみあう金額が料金箱に入っていることがほとんどである。金額が少ない場合はごくまれだ。
 ある時には、料金箱を開けてみると、紙に包んだ100円玉が出てきて、紙には、昨日の不足分です。名前」が書かれていた。地域住民の意識の高さに感心した。
 ただ一度だけ、頻繁に金額の足りない日が続いた時があった。
 店は12時に開店するが、その直後に万引きをされる傾向がわかり、しばらく様子をうかがっていたところ、シルバー色の普通乗用車が止まり、60歳代のおばさんが野菜を買っていった。
 立ち去った後、野菜は5袋なくなっているのに、料金箱を見たところ金はゼロであった。
 後日注意していたところ、例の乗用車が駐車し、買い物をしていたので、帰るために車に戻ろうとしたところで、一郎は、出て行って、顔をよく見て、「ありがとうございます」といった。
 おばさんは、にこっと会釈し、動揺した様子は感じられなかった。
 車が去った後、料金箱を見たがやはり金はゼロだった。
 しかし、その後、そのお客さんは来なくなったのか、金額が足りない事態は収まった。
 後から思うと、あのおばさんは認知症の気があったのではないかとも思った。
 他で野菜の無人直売所をしている人に聞くと、よく万引きをされるという話を聞く。
 しかし、一郎は、かわいそうな人には、恵んであげてもいいと思っている。
 経済的に貧しい人は当然であるが、お金があっても万引きする人は、心が貧しい人と考える。
 いずれもかわいそうな人である。
 しかし、子どもが遊び半分に万引きすることがあると、そういう機会を与えてしまう事への責任を感じるが、今のところ、そのような兆候はない。

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