新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

劣化ウラン弾

2017年08月13日 | 日記

 9.11後、アメリカをはじめとする国々がイラクを攻撃しているさなか、イラクに入国してヴォランティア活動をしていた若い日本人3人がイラク側の人質になった事件があった。3人はそれぞれの目的、理由で別々に活動していた。そのなかに「劣化ウラン弾による被害状況を調べにイラクに入った」という18歳の若者がいた。とても明確な目的、意図をもってイラクへ入ったことに私は強烈な印象を受け、深く感銘したものだった。それ以来、劣化ウランとはなにか、それほど重要なものなのか、ということが心の片隅にずっと引っかかっていた。

 堤未果さんの新著「核大国ニッポン」がそれに応えてくれた。劣化ウランは核兵器の一種なのだ。アメリカもイギリスも、アフガニスタンでもイラクでも劣化ウランを兵器として使用していた。
 堤未果さんによれば、核兵器は広島と長崎にだけ使われたものではない。核の定義しだいでその使用はもっと広がってくる。原子力発電所から放出され、今のところ処理しようのない使用済み核燃料が一般の兵器に流用され、劣化ウラン弾として使われている。放射性廃棄物すべてが核であるなら、核兵器の脅威にさらされている人たちは途方もない広がりを見せることになる。以下、堤未果さんの著書から抜粋しながら書いていく。

 湾岸戦争症候群という病名がアメリカでは使われているようだ。「全身の倦怠感と頭痛、発作的に出る激しい咳に血が混じる。」「頭から毛髪がごっそり抜け落ちたり、胃の痛みや関節痛、止まらない下痢や記憶障害、睡眠障害など」多岐にわたる症状をアメリカの帰還兵たちはうったえている。湾岸戦争から帰還した兵士たちに出るこれらの症状をまとめて湾岸戦争症候群と呼んでいる。劣化ウラン弾を使ったアメリカ側の兵士にしてこうだから、これを使われたイラク側、アフガニスタン側の人たちはどのようになっているか、詳細な報告はない。
 ベトナム戦争終了後に、枯れ葉剤エイジェント・オレンジが、ベトナム人たちの身体に果てしなく大きな影響を及ぼしたことがメディアに取りあげられたが、それから10年ほど経ってアメリカの帰還兵たちにもかなりの悪影響をおよぼしていることを知り、衝撃を受けたものだった。アメリカ政府はエイジェント・オレンジの悪影響をひた隠しにしてきた。今回も劣化ウラン弾の人体におよぼす悪影響をアメリカ政府は隠しているようだ。すくなくとも積極的に公表することは避けている。
 劣化ウランとはなにか。「劣化ウランとは、ウラン238を大量に含む原子力発電からの廃棄物だ。」「劣化ウランから作られたこの弾は、分厚い戦車の鋼板を貫通し、ガス化する時の高熱で戦車に乗っている兵士を即死させ、放射性ガスを放出する。」「湾岸戦争では三百二十トン、イラクでは二千二百トンの劣化ウラン弾が使用されたという。」
 「劣化ウランの粉塵を吸い込む可能性があるのは、装甲貫通型武器を使用する地上部隊の兵士たちだ。」アメリカ側の兵士たちは劣化ウランについて何も知らされていない。だから「兵士たちは何の疑いもなく劣化ウラン弾が貫通した敵側の戦車の周りで、大量の粉塵を吸いこみながら作業をし」た。アメリカ政府は自国の兵士たちにさえ劣化ウランについての正確な知識を与えない。まして敵国の人びとにはどのような兵器を使っているのか、知る手段はない。
 一次資料が揃うのはアメリカの帰還兵の病状についてのみだが、深刻なものだ。ある帰還兵についていえば、「帰国後、妻との間にできた三人の子どもたちは、全員重度の障害児だ。」「イラク戦争がもたらした最大の悲劇は「ガン」と「障害児」」「一人の患者が、肺ガンと乳ガンと血液のガンを一度に発症する。」ベトナム戦争からの帰還兵が果てしなく出るゲップに苦しみ、社会復帰できずにいる姿が小説「イン・カントリー」に描かれているが、近年の戦争帰還兵の場合は、それどころではない、症状はさらに深刻さをましていることがわかる。
 コソボに従軍した多くの兵士たちからもウラン量陽性反応が出ているという。イラク、アフガニスタンのみならず、現代の戦争では劣化ウラン弾がふつうに使われるようになっていることがうかがい知れる。
 劣化ウランは核のゴミから作られる。原発を抱える国にとって必然的に大量に出てくる不要物であり、最終処分ができずにもてあましている物質だ。それを兵器に転用できるなら一石二鳥であり、安く大量に供給することができる、とどの原発国も考えるところだろう。私たちははたしてこの悪循環を断ち切れるだろうか。






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