「なんじゃ、これは?」「そんなもんじゃ」という珍問答があったかどうかは知らないが、「なんじゃもんじゃ」の木という。上野原にある。
上野原駅南口が変貌を遂げている。長らく空き地だった場所にすでに観光案内所とバスターミナルが営業を開始している。もうしばらくするとスーパーマーケットとホームセンターがオープンする。ホームセンターができると便利になる。この地域に唯一なかったものがホームセンターだった。生活上の必需品がここへ行けば揃うことになる。
いっぽう私が住む藤野地域は、小さなスーパーが一軒あるのみだ。日常生活のほとんどすべてを上野原に依存している。何もないことがメリットになって、多くの移住者を迎えている。藤野駅前で聞いた噂では、「この地域には芸術家が300人いるんだって」。陶芸家、人形作家、音楽家などは知っていたが、300人もいるのかな。
「ふるさと芸術村」構想が実現したのはもう35年ほどまえだった。名倉を一周する道路が「芸術の道」に指定され、道路沿いにおおくの芸術作品が配置された。山肌に「山の目」と「グリーンラブレター」が設置されたのもこのときだった。それらはいまもある。
15,6年まえ教育特区に認定されて、自然と芸術に親しむ教育をするシュタイナー学園が開校した。検定教科書を使わないし、10歳ぐらいまで子どもにテレビを見せない、という教育方針をとる。おかげで、若い人たちが移住してきた。自家製の野菜、山菜を使う料理店ができ、最近では馬を飼っている。
地域通貨「よろづ」がテレビで紹介された。通帳を使ってモノやサービスを売り買いする。地元の畑で野菜を買い、通帳にいくら使ったかを記入してもらう。子どもをしばらく預かるサービスをしたら、通帳にプラスの代金を記入する。プラスとマイナスがバランスをとればよいが、負債ばかりが増えることもある。そのような通帳をもつ人を「この人はみんなに可愛がられている人なんだなあ」という目で見るという。地域通貨は便利というより、人と人を結びつける役目をするから「つながってる」感がここちよいらしい。
山と川しかない地域、文明に取り残された地域だった藤野を、高い文化を誇る地域といいかえたい。
東隣には、イルミリオンで多くの人を惹きつける相模湖プレジャーフォレストを擁する相模湖がある。西隣がスーパーとホームセンター、必需品がなんでもそろう上野原、その谷間でむかしながらの生活を営む藤野地域という認識だった。しかし便利さを求めてすぐ両隣へ行ける地の利のよさが藤野をいっそう引き立てている。両隣があっての藤野だという認識が必要だろう。