「イスラム国」の過激な活動がイスラム教とアラブ世界全体のイメージを壊しているようだ。私が西ヨーロッパの歴史から学んだイスラム教国のアラブ人たちはそれほど過激な思想をもたず、世界の他の宗教と調和しながらこれまでやってきた人たちだった。
スペイン南端と北アフリカの北端セウタとはわずか15キロしか離れていない。このジブラルタル海峡をアラブ勢力がアフリカ側から船でわたり、イベリア半島のほぼ全土をあっという間に制圧したのが711年だった。キリスト教が支配するイベリア半島の人びとは生活が苦しく支配層にたいする不満が渦巻いていたので、アラブ勢力を歓迎する向きがあったようだ。
その後、800年近くにわたりイベリア半島はイスラムの勢力下におかれることになるが、そのときアラブ・イスラム側がとった宗教政策はきわめて寛容で穏健なもので、キリスト教徒に改宗することを強制しなかった。アラブ人たちは天文学や印刷術をはじめとする各種の科学技術や建築術、さらには航海術までヨーロッパに伝えたのではないかとされる。ゲルマン人たちが荒れ放題にしたスペインの土地に緑を取りもどさせたともいわれている。いまの建築物を見てもスペインとポルトガルがいかにおおくをイスラムに負っているかがうかがえる。
その後キリスト教徒側が失地回復運動にのりだすが、それもアラブ側の内紛に乗じてようやく1492年のグラナダ陥落で終末を迎える。その後キリスト教側がイベリア半島内に残るイスラム教徒たちにたいしてとった宗教政策は魔女狩りのような深刻な問題を引き起こした。キリスト教側のほうがむしろ寛容を欠いていた。
昨今のイスラム過激派による極悪非道ぶりをみて、イスラム全体のイメージを誤解しないようにしたいものだ。