新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

寅さんのカバンの中身

2017年08月23日 | 日記

  
「物の始まりが一ならば島の始まりが淡路島。泥棒の始まりが石川の五右衛門なら、博打打ちの始まりは熊坂の長範・・」
 寅さんの名調子が耳にこびりついている。柴又の寅さん記念館に珍しいものが展示してあった。寅さんがいつもさげている使い古した茶色いボストンバッグの中身だ。映画では寅さんが旅立つときに、着替えを詰め込むようすが映し出される程度で、実際にどのようなものが入っているのかは謎だった。私はあの鞄は、テキ屋商売の商品を詰めるために持ち歩いているのかと思っていた。
 目立つのは目覚まし時計、これは朝起きるのに使う。汽車、電車での旅だから時刻表は必携だ。テキ屋商売に欠かせない暦。これで大安吉日ほかその日が何の日かを知る。消しゴムつき鉛筆と便せんが入っている。ときどき故郷、柴又の妹夫婦やおいちゃん、おばちゃん宛に手紙を書く。うちわと蚊取り線香がみえる。これは夏には欠かせないものだろう。ケロリンと龍角散。トイレットペーパー。むかしは公園や駅のトイレにトイレットペーパーが備えつけられていなかった。着替えとしてはだぼシャツ、ふんどし、腹巻きが入っている。昭和40年代、私の祖父などはまだふんどしを愛用していた。財布と洗面具はいまでも必需品だ。とくに十円玉は公衆電話を使うのになくてはならないものだった。左隅に目をこらすとマッチ箱が見える。冬の寒い日に暖をとるためにたき火をしたのだろうか。たき火をすることは違法ではなかった。

 話がそれるが、経済アナリストの伊藤洋一さんが自家用車で大洗港から苫小牧へフェリーで渡り、宗谷岬から日本海沿いに新潟まで旅をしている。それをほぼリアルタイムでブログにアップしてくれている。ハイテク機器を駆使しながらの旅は寅さんの鈍行列車での旅とはまったく異なる種類の旅だといえる。寅さんの持ちもののなかでも、目覚まし時計、時刻表、暦、鉛筆と便せん、十円玉はスマホひとつで用が足りてしまう。トイレットペーパーやマッチ箱もいまでは持ち歩く必要がなくなっている。洗面具と着替え、それにスマホがあればどこへでも行ける。スマホで何でもその場で調べられる時代だ。しかも伊藤さんのようにサービス精神旺盛な人は、自分の行動をほぼリアルタイムで逐一ブログで知らせてくれる。時代が変わった。
 私はどちらかといえば寅さん流の旅を好む。鈍行列車に揺られ、ふらりと田舎の駅に降り立つ。ほらほら、また寅さんの声が聞こえてきた。
「四角四面は豆腐屋の娘、色が白いが水臭い。四谷赤坂麹町、ちゃらちゃら流れるお茶の水、粋な姐ちゃん立ちションベン・・」







無敵のフェンス、破られる

2017年08月19日 | 日記

 去年の春だったか日影原農園全体に害獣よけのフェンスを設置し、無敵艦隊ならぬ無敵のフェンスを誇っていたのですが、最近イノシシに侵入されている兆候が見られます。人が出入りする場所にしていた南側一画の金網部分が下から30センチほど持ち上げられていました。また炭焼き場への入り口の閉め具合がゆるかったフェンスの下の部分だけを大きく押し広げて侵入した形跡も見られました。イノシシは入ったところからしか出られないはずで、入り口を忘れないためかフェンス沿いに足跡を残しています。フェンスの周りで暴れ回っていることは分かっていましたが、フェンスの隙間から侵入したのは今回が初めてでした。人間とイノシシの知恵比べが始まっています。





劣化ウラン弾

2017年08月13日 | 日記

 9.11後、アメリカをはじめとする国々がイラクを攻撃しているさなか、イラクに入国してヴォランティア活動をしていた若い日本人3人がイラク側の人質になった事件があった。3人はそれぞれの目的、理由で別々に活動していた。そのなかに「劣化ウラン弾による被害状況を調べにイラクに入った」という18歳の若者がいた。とても明確な目的、意図をもってイラクへ入ったことに私は強烈な印象を受け、深く感銘したものだった。それ以来、劣化ウランとはなにか、それほど重要なものなのか、ということが心の片隅にずっと引っかかっていた。

 堤未果さんの新著「核大国ニッポン」がそれに応えてくれた。劣化ウランは核兵器の一種なのだ。アメリカもイギリスも、アフガニスタンでもイラクでも劣化ウランを兵器として使用していた。
 堤未果さんによれば、核兵器は広島と長崎にだけ使われたものではない。核の定義しだいでその使用はもっと広がってくる。原子力発電所から放出され、今のところ処理しようのない使用済み核燃料が一般の兵器に流用され、劣化ウラン弾として使われている。放射性廃棄物すべてが核であるなら、核兵器の脅威にさらされている人たちは途方もない広がりを見せることになる。以下、堤未果さんの著書から抜粋しながら書いていく。

 湾岸戦争症候群という病名がアメリカでは使われているようだ。「全身の倦怠感と頭痛、発作的に出る激しい咳に血が混じる。」「頭から毛髪がごっそり抜け落ちたり、胃の痛みや関節痛、止まらない下痢や記憶障害、睡眠障害など」多岐にわたる症状をアメリカの帰還兵たちはうったえている。湾岸戦争から帰還した兵士たちに出るこれらの症状をまとめて湾岸戦争症候群と呼んでいる。劣化ウラン弾を使ったアメリカ側の兵士にしてこうだから、これを使われたイラク側、アフガニスタン側の人たちはどのようになっているか、詳細な報告はない。
 ベトナム戦争終了後に、枯れ葉剤エイジェント・オレンジが、ベトナム人たちの身体に果てしなく大きな影響を及ぼしたことがメディアに取りあげられたが、それから10年ほど経ってアメリカの帰還兵たちにもかなりの悪影響をおよぼしていることを知り、衝撃を受けたものだった。アメリカ政府はエイジェント・オレンジの悪影響をひた隠しにしてきた。今回も劣化ウラン弾の人体におよぼす悪影響をアメリカ政府は隠しているようだ。すくなくとも積極的に公表することは避けている。
 劣化ウランとはなにか。「劣化ウランとは、ウラン238を大量に含む原子力発電からの廃棄物だ。」「劣化ウランから作られたこの弾は、分厚い戦車の鋼板を貫通し、ガス化する時の高熱で戦車に乗っている兵士を即死させ、放射性ガスを放出する。」「湾岸戦争では三百二十トン、イラクでは二千二百トンの劣化ウラン弾が使用されたという。」
 「劣化ウランの粉塵を吸い込む可能性があるのは、装甲貫通型武器を使用する地上部隊の兵士たちだ。」アメリカ側の兵士たちは劣化ウランについて何も知らされていない。だから「兵士たちは何の疑いもなく劣化ウラン弾が貫通した敵側の戦車の周りで、大量の粉塵を吸いこみながら作業をし」た。アメリカ政府は自国の兵士たちにさえ劣化ウランについての正確な知識を与えない。まして敵国の人びとにはどのような兵器を使っているのか、知る手段はない。
 一次資料が揃うのはアメリカの帰還兵の病状についてのみだが、深刻なものだ。ある帰還兵についていえば、「帰国後、妻との間にできた三人の子どもたちは、全員重度の障害児だ。」「イラク戦争がもたらした最大の悲劇は「ガン」と「障害児」」「一人の患者が、肺ガンと乳ガンと血液のガンを一度に発症する。」ベトナム戦争からの帰還兵が果てしなく出るゲップに苦しみ、社会復帰できずにいる姿が小説「イン・カントリー」に描かれているが、近年の戦争帰還兵の場合は、それどころではない、症状はさらに深刻さをましていることがわかる。
 コソボに従軍した多くの兵士たちからもウラン量陽性反応が出ているという。イラク、アフガニスタンのみならず、現代の戦争では劣化ウラン弾がふつうに使われるようになっていることがうかがい知れる。
 劣化ウランは核のゴミから作られる。原発を抱える国にとって必然的に大量に出てくる不要物であり、最終処分ができずにもてあましている物質だ。それを兵器に転用できるなら一石二鳥であり、安く大量に供給することができる、とどの原発国も考えるところだろう。私たちははたしてこの悪循環を断ち切れるだろうか。






元炭遊舎代表STさんにお会いした

2017年08月09日 | 日記

 元炭遊舎代表STさんに久しぶりにお会いしました。2月の作業日以来で5か月ぶりです。健康上の問題を抱えているものの、いつもと変わらずお元気そうでした。
 その1週間後、STさんから封書が届きました。STさんの最近のご活躍のようすが分かる文書3編が入っていました。アゴラ81号に載った記事の抜き刷りが2編、他のなにかに書いたらしい短い文書が1編でした。アゴラについては「市民が作る総合雑誌アゴラ」をネット検索すれば、どのような雑誌かは分かります。
 1つは、社会福祉法人かわせみ会の活動のようすがうかがい知れる「利用者に寄り添うということは事業が広がること」と題された文書です。かわせみはSTさんが長く理事長を務めている団体ですが、その活動の詳細については私もあまり知りませんでした。これを読むことでいくらか正確に知ることができます。アゴラの記者が理事長STさんと総合施設長とにインタビューしてまとめた4ページにわたる記事です。
 2DKのアパートを借りてはじめた「かわせみの家」は、いまではりっぱな建物をもつ作業所になっています。弁当づくり、配食サービスをおもな活動にし、一日90個から130個の弁当を作っているそうです。
 グループホーム「かわせみ荘」は、かわせみの家の利用者が体調を崩して入院し、退院はしたが引き受ける家族がないところから始まったといいます。
 「ぷらす★かわせみ」は高次脳機能障害者に特化した支援施設です。
 もちろん役所からの支援なしでこのような施設を運営していくことはできません。理事長STさんのご苦労はたいへんなものでしょう。
 他の1編は原発訴訟に関してSTさんご自身がしたためられた文書です。「大間原発建設阻止訴訟と「あさこはうす」」という題がついています。1976年から青森県大間に原子力発電所を建設しようという計画が動き始めます。該当する土地所有者176人のうち175人が土地売却に応じました。ひとり熊谷あさ子さんだけが原発による公害を強く主張し、土地売却を拒否してきました。いまはその娘さん、小笠原厚子さんがあさ子さんの遺志を受けつぎ、「あさこはうす」を建設してその土地を守っています。そこへ2011年大震災による福島の事故が発生します。「あさこはうす」の意義は否が応でもその重要性を増しています。
 STさんの文章は建設主体である東電の体質から日本が抱える問題にまでおよび、アゴラ81号に6ページにわたって掲載されたものでした。






夢のオールスターチーム

2017年08月05日 | 日記


 探し求めていたマイク・ロイコのエッセーを見つけた。1988年2月のジャパン・タイムズ紙に載ったが、ロイコが休暇中のため以前に書いた名エッセーを再録したものだった。初出は1973年5月13日。内容を抜粋してみる。

 試合まえに神にお祈りしてなんの意味がある。何百万ドルが賭けられている試合のまえに、ファンたちまでもがお祈りを強要されるのは滑稽だ。クリスチャン・アスリート協会なるものが勢力を伸ばしている。テレビや新聞に登場し、その敬虔さゆえに自分たちはビッグになったのだと吹聴している。実際、スポーツで活躍している人たちは、すこしも敬虔な宗教家ではない。彼らはどうしようもない大酒飲みで好色漢で、無類のけんか好きばかりだ。その証拠としてメジャーリーグでの夢のオールスターチームを組んでみせよう。

 レフト・・ベーブ・ルース。このホームランキングを除外して夢のオールスターチームを組むことはできない。大食漢の酔っばらい、ほら吹きでけんか好きときている。そのうえ飽くなき好色家でもあった。いちどハリウッド映画に出演したことがあったが、その歳の女優たちのステイタスシンボルはベーブと寝たことだったという。ベーブは彼女たちみんなにステイタスを与えようとした。21年間プレーしてホームラン714本、打率.342、投手として93勝した。
 センター・・タイ・コッブ。23年間で打率.367。性格は卑劣で敵意むきだし、球場外でも変わらなかった。ナイフを手にけんかし、深手を負った翌日も試合には出場した。
 ライト・・ポール・ウェイナー。19年で.333。ベンチでよくコークビンをすすっていた。あるときバットボーイがこっそり一口含んで眠ってしまい、目ざめたときは悪酔いしていたという。
 ファースト・・ハック・ウィルソン。外野手であることは知っているが、守備につくときわざわざ外野まで千鳥足で歩く必要がないようにしてやろう。あるとき試合まえにロッカールームで、氷を入れたバスタブにウィルソンが浸かっていた。酔いをさまそうとしていた。ひどい体調だったけど、その日の試合では3本のホームランを打った。またある試合ではスタンドへ駆けこみ、ヤジを飛ばす客に殴りかかった。客にそれほど腹だったわけではなく、警察に逮捕されて酔いをさましたかっただけだった。1シーズン56本のホームラン、打点196はいまだにナショナル・リーグの記録だし、ビールジョッキの大きさの記録も保持していた。行きつけのバーはウィルソン用の超特大ジョッキを用意していた。
 セカンド・・ロジャーズ・ホーンズビ。生涯打率.358。酒は飲まないしたばこも吸わない。けんかもめったにしない。道楽は馬と女だった。
 ショート・・ラビット・マランヴィル。チームが宿泊しているホテルを抜け出し、タクシー運転手にけんかを仕掛けて負ける。2人目、3人目にも負け、計5人に負けた。「何をしているんだ」と尋ねると「勝てる相手を探しているんだ」とのことだった。
 サード・・ジミー・フォックス。ホームラン534本、打率.325。ベースに滑り込んだり、倒れ込んだりすることがあるのだろうか。自らのレストランを開店したとき、開店日に4日遅れて現れた。
 キャッチャー・・午前3時、リーグ役員ヴィーク家の電話が鳴った。クイーンズ区の警察がロリー・ヘムズリの身柄を確保していた。酔ってけんかしたという。ヴィークがホテルへ連れ帰った。午前8時、こんどはブルックリンの警察に保護された。ヴィークがヘムズリを球場へ送り届けることで、1日にニューヨークのすべての警察署に逮捕されるという不名誉な記録を打ち立てることだけは避けた。
 ピッチャー・・ヤンキーズ相手のワールドシリーズで、グローバー・クリーヴランド・アレクサンダーほどリラックスして投げたピッチャーはいなかった。しらふで投げていたのではなかった。投手本人は気づいていたかどうか、バッターを三振に討ちとった。ルーブ・ワッデルも投手としては上等だった。釣りと酒にふけり、最後は3匹のますと一緒にジンの風呂に浸かって死んでいた。
 監督・・これら自由人選手をとりまとめられる監督はレオ・ドゥローチャーをおいてあるまい。彼はあまりに模範的な行動ばかりで一時は野球界を追放されたことがある。いま彼に必要なものは栓抜きだけだ。