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藤沢周平著 「江戸おんな絵姿十二景」

2020年09月07日 12時51分31秒 | 読書記

図書館から借りている 藤沢周平著 「日暮れ竹河岸」(文藝春秋)には 十二篇の掌篇からなる「江戸おんな絵姿十二景」と、七篇の短編からなる「広重 「名所江戸百景」 より」が 収録されているが  その内の「江戸おんな絵姿十二景」を 読み終えた。

藤沢周平著 「日暮れ竹河岸」
「江戸おんな絵姿十二景」

なんの予備知識も無く、手を伸ばして借りてきてしまった書だが、「江戸おんな絵姿十二景」は 1篇、1篇が、わずか数ページで完結する掌篇小説、十二篇の構成になっている作品である。十二篇は、一月から十二月までの季節に対応した作品になっており、各篇とも、無駄の無いとぎすまされた文章で 細やかに情景が描写され、人間味あふれるストーリー(ドラマ)になっており、お見事というしか無い。著者が著述している巻末の「あとがき」を読んで納得した。

あとがき
「江戸おんな絵姿十二景」は かなり前に文藝春秋本誌に1年間連載したもので 1枚の絵から主題を得て ごく短い一話をつくり上げるといった趣向の企画だった。一話が大体原稿用紙十二、十三枚といった分量ではなかったかと思う。いわゆる掌篇小説である。(中略)・・だから 「江戸おんな絵姿十二景」には 若干の遊びこころと 小説家としてこの小さな器にどのような中味を盛ることが出来るか、力量を試されるような軽い緊張感が同居している。(後略)。


夜の雪
政右衛門が持ってきた縁談を、おしづは他人事のように聞いている。おしづの胸の中には新蔵がいる。いつか自分の前に姿を現すような気がしているが・・。雪がやんだ。はっと耳を澄ませたが、物音は一度だけ、誰もいない夜の町を風が駆けぬけて行った。

うぐいす
おすぎは 井戸端でおしゃべり中に 2歳の子供を大火傷で失い、大工の夫勝蔵とも同居離婚状態となってしまっていたが・・・。おしゃべりを封印していたおすぎ。井戸端からうぐいすの鳴き声がして・・。再び、おしゃべりを続けながらおすぎは 一斉にいきいきと動きはじめたのを感じている。

おぼろ月
遊び友達きくえの家からの帰り道、おさとは橋の上で思い切り転び、下駄の鼻緒が切れ、手首に擦り傷を負ったが 商人風の男に親切にされ 水茶屋へ。「では 行きますか」「どこへ?」、兎のようにとび上がったおさとに、男は・・・。「気をつけてな・・」、こんないい月夜に・・・、昂りが残ったまま おさとは ゆっくり歩き出した。期待、妄想、がっかり感?

つばめ
15歳のおきちは物を掠め取って換金し、寄ってくる新吉仙太庄助等子供を見世物小屋に連れていくことに喜びを感じていたが 若い簪職人巳之吉に 巴屋で掠め取った簪を見抜かれ、「こういう真似はやめるんだな・・」、忠告される。おきちは巳之吉を訪ねるが・・・、うきうきした気分が裏切られたあとに ぽっかりと空虚なものが残った。さっき連れ立って飛び過ぎた2羽のつばめが夕日に背を光らせて地面すれすれに戻ってくるのが見えた。

梅雨の傘
懐が寒くなった経師屋清吉には 金の切れ目が縁の切れ目、おちかは手馴れた芝居演技をし、けりをつけようとする。今度は 妹女郎おとよの客種物屋の息子松次郎を誘惑、「若旦那」・・・、「おとよちゃんには 内緒よ」

朝顔
おうのは 夫忠兵衛が妾おたか宅に出かけても 一言も非難めいたことを言ったことがなく、奉公人からは天女さま等と言われていた。忠兵衛が取引先で分けてもらったという朝顔の種を蒔いたおうの、見事に咲いたが、奉公人から 夫の妾宅にも同じ花が有ることを聞き、一つ残らず花をちぎり捨て、ゆっくり家に戻った。誰もいない土蔵裏を白日が照らしていた。

晩夏の光
おせいは ヤクザな男忠助とかけおちしたが捨てられ、前の亭主伊作が気になっている。ひょっとして、まだ一人だったら・・、元の鞘に収まることだって・・・、伊作を訪ねていくが・・・、後悔しちゃいけないよ、これがあたりまえさ、おせいは胸の中でつぶやく。一つの季節の終わりが見えた。

十三夜
お才に月見のすすきを分けて欲しいと言ってきたのは隣りの女房おすえ。有ること、無いこと噂をばらまくおしゃべり女で 仕事で家に帰らないことの多いお才の亭主大工の菊蔵に女がいると言いふらしているようだ。お才も気になりだすが・・、「おーい、いま帰った。腹へった」。活け終えたすすきの穂が、月の光を浴びてまぶしく光るのに見とれた。
十三夜・・・きなこの団子、十五夜・・・あんこの団子、

明烏
花魁播磨に入れあげた雪駄屋の新兵衛は 借金で家屋敷を取られることになったことを告白する。分不相応な男の夢が叶った幸せ者で、後悔等していないときっぱり言う新兵衛。春雨の眠ればそよと起こされて乱れそめにし浦里は・・・、新内の声は明烏だった。

枯野
清兵衛の命日、向島の寺からの帰り、紙問屋山倉屋のおりせは 浅草寺門前の料理屋で男と待ち合わせる。夫清兵衛の女道楽の後始末を頼んでいる同業の紙問屋戸田仙太郎である。誘われて悪い気はしない。「今夜は 少し お酒をのみましょうか」、思わせぶりな台詞で 物語は終わっているが 短編小説だったら 続きが有りそうな。

年の市
年の市は 師走十四日、十五日の深川八幡宮の市から始まって 浅草の観音さま、神田明神、芝神明宮、芝愛宕権現、麹町平河天神と続き 江戸の町に近づく正月気分を盛り上げる。おむらは 毎年同じ店で買い物すべく浅草寺に向かった。一人息子の宗吉は 嫁のおきくが家を出てから ふてくされ家を飛び出し帰ってこない。「みんな あの女のせいだ」、おむらは、おきくが憎くてたまらない。「こら、まて その二人」、転んで散らばった物を掻き集める白髪のおむらが泣き出すと 買い物客がどっと笑った。

三日の暮色
一通り年始回りして帰った玉木屋の女房おくには 亭主喜兵衛が 元の奉公先鹿野屋へ 奉公仲間倉田屋甚助に誘われて 出直していることに腹を立てる。「ひとをなんだと思ってるのか・・・」。正月には 店先に 獅子舞い、三河万歳、鳥追い、猿回し等 門付け芸人や物もらいがやってくる。その度、おひねり、餅等を与えるが おぼくれ坊主のとなえ声が響いてきて おくには 耳をそばだてた。それは おくにが18歳の時世帯を持ち、17年前に姿を消した助造のなれの果て、荒廃した様子で 小さくふるえながら、遠ざかるその姿を見送った。

 


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