たけじいの気まぐれブログ

スローライフ人の日記風雑記録&フォト

藤沢周平著 「橋ものがたり」

2018年11月10日 10時08分49秒 | 読書記

図書館から借りていた 藤沢周平著 「橋ものがたり」 (新潮文庫)を 読み終えた。
江戸時代の 橋を舞台にした 出逢い、別れ、庶民の暮らしを描いた 10編の短編が収められた書である。
人が 橋を目当てに集まったり、待ち合わせしたり、散らばり去ったりしていた時代の物語である。

藤沢周平著 「橋ものがたり」

「約束」、
「小ぬか雨」、
「思い違い」、
「赤い夕日」、
「小さな橋で」、
「氷雨降る」、
「殺すな」、
「まぼろしの橋」、
「吹く風は秋」、
「川霧」、

「約束」
錺師(かざりし)職人幸助は 年季奉公が明け、家に戻った。5年前に 「5年後に 会おう」と 約束を交わした 幼な馴染みのお蝶に会うため 約束の時刻、約束の場所 小名木川の萬年橋に 向かう。
駒止橋、両国端、一ツ目橋を渡り 萬年橋にやってきた幸助だが、5年の間には 親方の妾とただならぬ関係を持った自責の念も有り 5年前 3歳年下のお蝶だって 18歳、変わっているかも知れない、約束を忘れているかも知れない等、期待と不安が入り混じる。
約束の時刻 七ツ半(午後5時)になっても お蝶は現れない。五ツ半(午後9時)近くになって 女中仲間のお近に促され、迷いに迷った挙句 お蝶が現れた。
「あたしに 近寄らないで・・」、「汚らわしい女よ」、「幸助さんのおかみさんになりたかった。ごめんね」。
お蝶は 母親を看病するため 身を売っていたのだ。やっぱり 双方とも 状況が大きく変わっていたのである。
翌日 幸助は母親を看病しているお蝶の家を訪れ、「5年前と人間が変わっちまったわけじゃない」
狭い台所の土間から お蝶の悲痛な泣き声が聞えてきた。
長い別れ別れの旅が終わったのだ。

「小ぬか雨」、
裏口の戸を閉めに行ったおすみが 土間で蹲っていた22歳の男 新七を匿うことになる。新七は 殺しをして 奉行所の手先から追い込まれていた男だった。おすみは 粗雑な夫 勝蔵とは違う やさしい様子の新七に 心引かれていく。
奉行所の手下に 見張られている中 おすみは 親父橋付近まで 様子見をし 新七を逃す算段をする。
「そこまで 送っていくわ。・・・」、思案橋に近づいた時、
「俺の女をどこへ連れて行く気だ」、夫の勝蔵が全てを知って 追ってきたのだ。男二人は、野獣の如く、怒号と唸り声で組み合い、気を失ったのは勝蔵。「逃げて、あたしも一緒に行く」、「そんなこと言っちゃいけません」、「逃げきれるとは考えていません。・・年とった母親にひと目会ったら自首します」、新七は 不意に身をひるがえして 橋の上を走り去った。
切れ目なく降り続ける細かい雨が心にしみる。小ぬか雨というのだろう。
おすみは 新七という若者と別れた夜のことを忘れまいと思うのだった。

「思い違い」
指物師の若者源作は 両国橋に差し掛かると落ち着きがなくなり キョロキョロ人を見分ける顔になる。朝と夕方にすれ違う女が気になるのだ。源作は きっと 川向こうに家が有って 両国広小路界隈か神田あたりに通い勤めている娘だろうと見当をつけていた。帰りが遅くなった源作は 一ツ目橋の手前で二人の男に絡まれていた女を助けたが それは気になっていた女で おゆうという名の女だった。
源作は 指物師の親方豊治から その娘 おきくとの縁談を持ちかけられる。おゆうへの思いが有って 返事を保留。おきくは妊娠していたのだ。源作の婿入り話が流れ 兄弟子兼蔵、相弟子友五郎と飲み屋へ、勢いで女郎屋に上がったが そこに おゆうがいた。
「おどろいたな」、母親が早死にし、病気の父親と弟を養うため 女中をしていた釜吉で借金し、返済出来ず 女郎になったのだった。
「素性を知って興ざめでしょう」、
20両と言えば 1年分の手間賃だ、親方に仕事を分けてもらい 家で内職しよう。源作はそう決心した。
親方の豊治は 娘おきくの尻拭いをさせようとした形跡があったが、女郎という身分を恥じたおゆうが おきくより汚れているとは言えない。つつましく あたたかい女だった。
朝になると勤務先に向かい 夕方 家に帰るという常識を 逆手にとって描いている。「思い違い」である。

「赤い夕日」
若狭屋の夫新太郎に女がいると言ったのは 手代の七蔵だった。おもんは 「奉公人が口出しするものじゃありません」と叱りつけたが 気にするようになっている。その七蔵は 掛取りの金をごまかしたという理由で 新太郎から店をやめさせられていた。
斧次郎からの使いという男が現れた。おもんは 18歳のとき 夫には言えない秘密を抱いたまま若狭屋の嫁になっていたのだ。実の父親だと思っていた斧次郎がいたが、病に倒れていると言われ 夫新之助には 内緒で 意を決して会いに行くが・・・。
斧次郎は おもんを奉公に出す時、きっぱり縁をきる覚悟で 「決して永代橋を渡ってきちゃなんねい」と 言い含めていたのだ。
「おとっつあんは?」・・斧次郎の姿は無く、斧次郎に叱責された仙助や 七蔵が居た。若狭屋から身代金をせしめる策略に はまってしまったのだ。さらに七蔵がおもんを誘惑、見張りの男と揉みあいになる。そこに夫新太郎が百両を持参、おもんを引き取る。
「ばか言え、そんな女がいたら こんな夜中にむかえになぞ行かないよ。・・・」、永代橋を渡りきったとき おもんは立ち止まって橋をふりむいた。おもんは 小走りに新太郎を追い、走りながら 赤い日に照らされた土手を 斧次郎の後からついていった20年前に似ていると 思った。

「小さな橋で」、
10歳の広次は 友だちの遊びの誘いを断って 米とぎ等 台所仕事をしている。それが終わると 姉のおりょうを迎えに行かなくてはならないのだ。4年前に父親が姿をくらましてから 広次の家はおかしくなってしまっていた。母親のおまきは飲み屋で働き帰りは遅い。姉のおりょうは 妻子持ちの重吉と 「出来て」しまい、母親が 広次を監視役に迎えに行かせていたのだ。
広次が林の中で 行々子の卵の見張りをしている時 何人かに追われている男が脇をすり抜けた。「あっ、ちゃんだ」。
父親の民蔵だった。民蔵は 金を広次に渡し 去っていった。「おれは 直ぐに江戸を出るが もう二度と江戸に戻れない身体になった・・・」「おっかあを頼んだぞ」、
家に戻ると おまきは男を引き入れていた。「おいら こんな家にいないよ。誰が一緒になんか暮すもんか」、広次は飛び出す。いつの間にか 4年前に父親を見送った小さな橋にきていた。「やっぱりここに来てたんだね」。うしろで おまきの声がした。「一緒に帰るのがいやだったら おっかさん 先に帰っているから」、怒りがおさまって眠気に襲われた時 女の子の声がした。おまきに頼まれてやってきた 遊び友達のおよしだった。
「かわいそうな広ちゃん」、二人は 体をくっつけ合って橋の上にしゃがんだまま 丸い月を見つめた。
広次は突然 「おれ およしと 出来た」と 思った。

「氷雨降る」、
50歳を過ぎて 商売から引退した吉兵衛は 家に居場所がなくなりつつあるのを感じながら日々を送っている。ある時 吉兵衛は 川を覗き込んでいる若い女を見かけ、そのまま放っておけなくなり 女に事情を聞き 馴染みの飲み屋のおくらのところに置いてもらう。
女の名は おひさ、やがて そのおひさを探して物騒な連中がうろつくようになり 家を借りて住まわせている。
女房 おまきとの溝は深まり、跡継ぎの息子からは 「これから あの人を ずっと囲っておくつもりですか」「いままで女道楽のケも無かった人が よりによって息子が嫁をもらうという時に急に女狂いを始めることないじゃありませんか」と激昂される。
おひさの家を訪ねると 夫婦約束しているという 喜作という指物師がいて、明日 二人で甲府に帰るという。
とんびに油揚げをさらわれたような、いままでひどく無駄なことをしてきたような気がした。
その日 吉兵衛がおくらの店に行くと おひさを探していた凶悪な人相の4~5人の男がきていて おひさの居場所を追求して 吉兵衛に 殴る蹴るの暴行を加えたが 吉兵衛は 明かさなかった。明日になれば おひさは江戸にはいないのだ。
低くうめき声を洩らしながら 吉兵衛は氷雨の中を歩き出した。

「殺すな」、
27歳の吉蔵は裏店に帰ってきて 一軒先の浪人小谷善左ェ門の家に立ち寄った。吉蔵の女房のお峯が いついなくなってしまうか気が気でなく、監視してもらっているのだった。お峯は 元々船宿のおかみさんだったが そこで働いていた船頭の吉蔵と関係を持ち 3年前に示し合わせて、逃げ出したのだった。しかし 逃げ隠れしてひっそり暮らす吉蔵との生活に お峯は だんだん飽きてきたのだ。
いっそ別れるか。別れてやり直すか と思う吉蔵が 雇われている船宿有明屋の船着場で 元働いていた船宿の主、お峯の亭主 利兵衛とばったり遭遇してしまう。
「お峯はどうしているかね」、「おかみさん?、何のことですか」「とぼけてもだめだよ」、知っていたのだ。
吉蔵は畏怖を感じる。顔、腹を殴られ、蹴られ嘔吐の声を吐いた。
吉蔵は お峯に 「お峯、この橋を渡ったら殺すぞ」と 低い声で言う。
お峯は 結局 利兵衛の元へ戻って行った。
「ちくしょう」、吉蔵は 出刃包丁を持ってお峯を追った。
「殺すな」、うしろから強い力で腕を掴まれた。小谷善左ェ門だった。「行かせてやれ」、「いとしかったら 殺してはならん」、善左ェ門の過去の悲しみが 止めたのだった。

「まぼろしの橋」
呉服屋美濃屋の主人和平に拾われ 美濃屋の娘として育てられた18歳のおこうは 美濃屋の跡取り息子である23歳の信次郎との結婚が決まった。おこうは 実の父親の顔を思い出せそうになることがある。信次郎と結婚してから2ケ月半程した頃 その実の父親 松蔵の知り合いだという 弥之助という男が訪ねてきた。おこうは 弥之助と話していると 弥之助が実の父親ではないかと思うようになる。
しかし おこうは 安という男に 身体を凶暴な力でねじ伏せられ 身の危険を感じる目に合うことになる。
おこうと稽古事で一緒だった田川屋の娘 おはつとは 捨てた実の父親のこと等々、なんでも話し合える仲だった。
そんな話を耳にしていた 怠け者のおはつの兄昌吉が そのネタを ゆすりたかりの連中に流して、そそのかし 仕組まれた罠だったのた。「安という男をつかまえました」、「弥之助の方は まだ行方が知れないんで探してるところですよ」、岡っ引の徳助が言う。
「もう変な男に騙されちゃいけないよ」、おこうの目に まぼろしのような橋がひとつ浮かんでいた。

「吹く風は秋」、
弥平は 賭場でいかさま(鹿追い)をやり 賭場の親分の喜之助までも騙し 江戸を逃げ出し、下総の知り合いに身を寄せていたが 7年振りに 江戸に戻ってきた。五本松の下をくぐり 無表情に 猿江橋に差し掛かった。
下総でも 賭博で稼ぎ 30両を所持していた。
弥平は 弟分で壷振りの徳次を頼って行く途中、女郎屋の前に立っていた女に声を掛ける。
慶吉という博打打ちの亭主を持ち 50両の借金のため女郎屋で働いている おさよという名の女だった。
身の上話を聞き 弥平は 亭主に会い 性根の腐った男であることを知る。
賭博場の親分喜之助は 嫌っている同業の梅市の有り金を吐き出させたら 7年前のことは勘弁してやると 弥平にいかさまを持ちかける。見事に400両を巻き上げ、借りを返した。弥平にも 30両の金を 与られた。
「おい、待ちな」、後をつけてきた梅市の手下の二人が呼び止める。「この いかさま野郎」、匕首(あいくち)を突きつけられる。
それをかわして 人気の無い、路地から路地へ走り 執拗に追ってきた一人を 匕首で刺した。
「中に 60両入っている。こいつで足を抜きな」、「これを あたいに?、どうして?」、おさよは 呆然としていた。
「あばよ、達者でな」、弥平は 振り返らず 猿江橋を渡っていた。
胸の中まで吹き込んで来るひややかな秋風だった。
「もう これっきり江戸には 戻れねいかも知れねいな」

「川霧」、
川霧が立ち込める朝の永代橋の上で 新蔵は 6年前 蒔絵師の住み込み奉公が終わったばかりの頃 永代橋の上で何度も見かけていた 20歳前後の細身の女、おさとが突然倒れ、背負って家に連れ帰ったことや、仕事から帰ると姿が消えていたこと、半年過ぎた頃の夜 ひょっこりおさとが新蔵を訪ねてきたこと、飲み屋花菱の酌取りであることを打ち明けたこと、いちゃもんがついた後 3年間、二人で暮らしいていたのに 1年半前には 突然姿を消してしまったこと等を 思い浮かべ、悲哀を感じながら眺めているところから 物語が始まる。
おさとは 素性を明かさなかったが 賭博場の親分の身代わりで 新島送りとなった辰五郎の女房で 5年の島暮らし後に江戸に戻る辰五郎を待っていたことを 新蔵は知った。
「もう探したりしちゃ いけねいのだ」、新蔵は 橋の上で 川霧を眺めながら自分に言い聞かせる。
その時 人影が走り寄ってくる。おさとだ。
「島帰りのご亭主はどうしたんだ」、「知ってたんですか」「、あの人は・・・船の上で病死したんです」、「葬式から四十九日、全部済ませて帰ってきました」、・・、
「もうどこにも行きゃしないだろうな」、「あたりまえでしょ」、
遠ざかる二人の背に その日はじめての日の光が静かにさしかけてきた。

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あさの あつこ 著 「火群のごとく」

2018年11月06日 15時30分41秒 | 読書記

図書館から借りていた あさの あつこ 著 「火群(ほむら)のごとく」 (文藝春秋)を 読み終えた。
つい最近まで 読書の習慣等 皆無だった人間、どの作者、どの作品も 目新しく感じてしまう。
もちろん あさの あつこ氏の作品を読むのも 初めて。
なんとなく手にとって 借りてきた書だか 引き込まれてしまい 一気に読んでしまった。

舞台は 江戸から遠く離れた山河豊かな わずか6万石の小藩 小舞藩(おまいはん)、
その地で 身分や立場の違いを超えて繋がる藩士の子弟、少年剣士の友情と成長過程を描いている青春時代小説である。
数々の児童文学賞を受賞している作者が 子育て中に 藤沢周平作品に魅せられて 時代小説を書くようになったと解説されているように  まさに 藤沢周平が描く 東北の小藩 海坂藩を舞台にする作品を 彷彿とさせるものがある。

あさの あつこ 著 「火群(ほむら)のごとく」

序、鵜の闇
1、薄墨の空、
2、朴の樹の下で、
3、八尋の主、
4、白い花、
5、炎上の果てに、
跋、明けてゆく道

新里林弥上村源吾山坂和次郎は 同い年の14才、同じ筒井道場に通い、身分や立場の違いを超えて 固い友情で繋がった少年剣士。性格がまるで異なる若者達の言動、交流が 明るく 青春ドラマっぽい。

代々勘定方を務めていた新里家の若き当主であった 林弥の15才年上の兄 結之丞が 突然何者かに斬殺されてしまい 新里林弥が当主となるも 元服前のため、無役、家禄は三分の一に削られる。
林弥は 父親代わりでもあり 道場の高弟として名をはせていた剣の麒麟児 兄 結之丞を誰よりも尊敬していたが 斬殺の真相は不明のままで 兄の名誉回復ならず 自分の非力、焦燥、落胆、憤怒等 悶々とした感情をいだきながら暮すしかなく、
一方で 実家に戻らず残った嫂(兄嫁)七緒への思慕がつのるばかりで 竹刀を握ることで凌いでいる。
上村源吾は 父親が 500石の江戸詰め大納戸頭の上士の家の嫡男で 父親が国元に帰ってくれば元服することになっていた。
山坂和次郎は 普請方の下士の家の嫡男、何事にも冷静な言動をするタイプ。林弥にも 兄 結之丞 斬殺真相究明に深入りするな、新里家を背負うことを優先すべき等と忠告をしている。

筒井道場に現れたもう一人の若者、林弥達と同じ年頃の樫井透馬が加わり 藩内の派閥争いの渦中へと巻き込まれていく。
樫井透馬は 小舞藩筆頭家老 樫井信右衛門の妾の子だが 長男が病死、二男も病に臥せっているため 急遽 江戸から呼び寄せられた少年剣士。過って 江戸で 出府中の新里結之丞から剣を教わったことがあり やはり 結之丞を先生と称し敬愛しており 斬殺された結之丞の真相を探る目的も持っている。

「3、八尋の主」では 巨岩から八尋の淵に飛び込み遊ぶ 林弥、源吾、和次郎、透馬、4人の少年達の情景描写や周辺の自然描写が有るが 昭和20年代、30年代の子供の頃の夏を思い出させてくれる。
その帰り道に 4人は 6人の賊に襲わるが 透馬の義母(筆頭家老 樫井信右衛門の正室)が差し向けたものだと見当をつける。

物語は後半 急展開する。
林弥の親友 上村源吾は 江戸から帰国したばかりの父親と、母親、妹と共に自刃する。
藩金横領等が発覚した中老水杉頼母派を一気に潰しに掛かった筆頭家老樫井信右衛門が、その一端に関わりのあった上村源吾の父親を江戸から呼び寄せたことは自明で 上村源吾の父親は 一家自刃の道を選んでしまった。
そして 林弥、和次郎、透馬が 源吾の最期の手紙を あけ屋のおそでに手渡して帰る途中、突然 透馬が後ろから刺客に襲われた。一瞬 林弥が 闇を払い手応えを感じ、刺客が倒れ 透馬は腕に深傷を負っただけだった。
刺客は 自分から頭巾をむしりとったが その刺客は なんと嫂(兄嫁)七緒の実兄で 生田清十郎であったのだ。
兄 結之丞が斬殺された後は よき相談相手であり、信頼もしていた義兄 生田清十郎が 刺客だったとは。
さらに 兄 結之丞を 斬殺したのも 「わしだ」、「仔細はわからぬ。わしはただ命じられただけだ、新里結之丞を葬れとな。わしは命に従った。それだけのことよ」「七緒は知らぬ・・・・」「・・・それが役目だ」。
命じたのは 中老水杉頼母であり、筆頭家老樫井信右衛門を襲い 家族全てを根絶やしにしろと命じられた・・・、
生田清十郎は そのまま四肢を痙攣させ 動かなくなった。
林弥は くしくも 兄 結之丞の仇を討ったわけだが それは思慕する嫂(兄嫁)七緒のたった一人の身内(兄)だったのだ。

「跋、明けてゆく道」では 筆頭家老樫井信右衛門の屋敷内に5人の刺客が乱入し 樫井家族の危機が迫っていたところに 林弥、透馬が掛け付け 残っていた手慣れの3人の刺客も倒された。
刺客の頭巾を取ると 林弥が通っている筒井道場の次弟 野中伊兵衛の顔が現れた。

樫井透馬は 腕の治療を口実に江戸に戻ることになり 林弥の家から旅に発つ。
和次郎と共に 透馬を見送りに出掛ける林弥は 嫂(兄嫁)七緒と 言葉を交わす。
「嫂上、帰ってきますから。どこにも行きません」、
「林弥どの」、
「では 行ってきます」。

 

 

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藤沢周平著 「静かな木」

2018年10月31日 09時40分57秒 | 読書記

図書館から借りていた 藤沢周平著 「静かな木」 (新潮社)を 読み終えた。

藤沢周平著 「静かな木」

「岡安家の犬」
「静かな木」
「偉丈夫」

あっと言う間に読み終わるような非常に短い作品 3編から成る書である。
平成10年に出版されたもので 平成9年1月に亡くなっている著者の遺作になる。
いずれも 藤沢周平作品に度々登場する 江戸時代の東北の架空の小藩 海坂藩が舞台の作品

「岡安家の犬」
海坂藩の近習組を務めている岡安家、十兵衛門は隠居の身、息子は他界し、当主は 孫の甚之丞、甚之丞の母、妹の八寿、奈美の家族5暮らし。家族全員 犬が大きで アカという犬を飼っていた。ある時、甚之丞が 妹八寿の嫁入りが決まっていた親友の野地金之助、関口兵蔵と犬鍋を食べたが それが アカの肉だったことで 友情決裂、あわや果し合いに成る寸前に。
強情な金之助、見栄っ張りの金之助は 親に置手紙をして姿を消したが 苦労してアカと似た犬を探し出して 岡安家に現れ 甚之丞も許し 八寿も喜びの涙を流す。

「静かな木」・・表題作、
5年前に隠居した布施孫左衛門は 福泉寺の境内に立つ欅の大木を見て過している。嫡男の布施権十郎は勘定方に出仕しており、二男の邦之助は間瀬家に婿入りしている。
その間瀬邦之助が 果し合いをすると聞き 孫左衛門が一計を案じる。事件の裏には 藩内に派閥争いが絡んでいたのだ。

「偉丈夫」
「海坂藩」初代藩主政慶は 二男の仲次郎光成を愛し、死没する際 藩から一万石を削って 仲次郎に与え 幕府の許しを得て 支藩とした。政慶公が死没してから70年程経って 漆の木をめぐって 本藩と支藩の境界争いが生じたが 支範「海上藩」に属していた片桐権兵衛は 本藩との掛け合い役に抜擢された。権兵衛は 六尺近い巨体の持ち主だが蚤の心臓で無口、本藩の掛け合い役 加治右馬之助は熟練、能弁。一方的に打ち負かされ 漆の山は 二分に線引きすることを承知させられそうになったが、それまで黙っていた権兵衛が 最後に 突然びっくりするような大声を発し 「それは出来申さん」、「初代藩主の遺志を曲げるとなれば 弓矢をとって一戦も辞さぬ覚悟・・・」、一転 立場が逆転、線引き問題は無かったことになる。
ユーモラスな結末だが 現代社会においても 似たような話が有るような気がする。
藤沢周平著 「漆の実のみのる国」を読んだ記憶が まだ残っているが 関連作品と言える。

 

 

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諸田玲子著 「来春まで」

2018年10月28日 18時14分16秒 | 読書記

図書館から借りていた 諸田玲子著 お鳥見女房シリーズ第7弾 「来春まで」(新潮社)を 読み終えた。

諸田玲子著 「来春まで」

第1話 女ごころ、
第2話 新春の客、
第3話 杜の森の殺人、
第4話 七夕の人、
第5話 蝸牛、
第6話 鷹匠の妻、
第7話 来春まで、

代々 幕府の御鳥見役を務める矢島家の家付き女房 矢島珠世(たまよ)を主人公とする お鳥見女房シリーズの第7番目の作品だ。
「来る者は拒まず」、ころころと良く笑い 両頬にえくぼが出来る 明るく世話好きな珠世、
そんな珠世を慕い、様々な人物が頼ってくるが 相手の立場に立って 明るさと機転、慈愛をもって対処、問題を解決していく物語である。
登場人物に 「珠世どののそばにいると 誰もが身内のように思えてくる」と 言わせる魅力的な女性なのだ。

前作「幽霊の涙」は 御鳥見役の裏の任務、密偵で相模に赴き、死地に追い込まれた嫡男久太郎の命を助け、そのために一命を落とすことになってしまった波矢とその祖父彦三に詫びと礼をするべく 珠世は相模まで出掛け 波矢の墓前で安堵するところで終わっていた。
「来春まで」では 不妊だった 久太郎、恵以夫婦にも待望の初子が恵まれる等 おめでたが続く矢島家だが 次々と難題が持ち込まれ その都度 珠世が動き、おさまっていく。

第7話(六)では 夫で御鳥見役の伴之助が隠居し その労をねぎらう宴に 矢島家に関わる大勢の人達が集まる場面となる。
御鳥見役として活躍する嫡男久太郎、妻の恵以と初子沙耶、次男で大番組与力永坂家の夫婦養子となり上方在番から帰国した久之助、妻のと猶子光之助、旗本家に嫁いだ長女幸江とその息子2人、菅沼家に嫁いだ次女君江と夫隼人石塚源太夫、妻の多津、先妻の子供5人と多門、・・・・、
珠世が手厚く看病していたシャボン玉売りの藤助は 昔の恩人 親方の子供にシャボン玉をみせるため三河に旅立ってしまい 楽しみにしていた皆が落胆するが 来春にはきっとやってくると 皆でうなづき合う。
珠世とは従姉で矢島家の居候になっている登美が茶の間と庭を見渡して言う。
「それにしても いつのまにやら・・・・、矢島家にこれほどややこが集うことになろうとは 思いもしませんでしたよ」
同じく居候の松井治左衛門も言う。
「子は宝。末広がりでめでたしめでたし」
(本書の表紙の装画は その様子を表現しているのだと思われる)
珠世が言う。
「主どの。長年のご苦労が報われましたね。あらためまして ほんとにありがとうございました」
伴之助が言う。
「なに、そなたの笑顔と労りがあったらばこそ・・・こちらこそ礼を申す」
娘達を従えて厨へ向かう珠世の口元に とびきりのえくぼが浮かんだ。

(完)

お鳥見女房シリーズ 「お鳥見女房」、「蛍の行方」、「鷹姫さま」、「狐狸の恋」、「巣立ち」、「幽霊の涙」、「来春まで」、
主人公珠世に関わる物語の展開が小気味良く 全体平易な文章が心地好く 読みやすい作品だと思う。
これまで シリーズ物の小説を一気に読み通すこと等した記憶が無く 初めての経験だ。
ある種 達成感のような?、自信がついたような? 気がしないでもない。

 

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諸田玲子著 「幽霊の涙」

2018年10月26日 13時29分51秒 | 読書記

図書館から借りていた 諸田玲子著 お鳥見女房シリーズ第6弾 「幽霊の涙」(新潮社)を 読み終えた。

諸田玲子著 「幽霊の涙」

第1話 幽霊の涙、
第2話 春いちばん、
第3話 ボタモチと恋、
第4話 鷹は知っている、
第5話 福寿草、
第6話 白暁、
第7話 海辺の朝、

代々 幕府の御鳥見役を務める矢島家の家付き女房 矢島珠世(たまよ)を主人公とする お鳥見女房シリーズの 第6弾目の作品だ。
珠世は ころころとよく笑い、両頬にえくぼが出来る 明るい真っ直ぐな性格の女性、
家族や関わりの有る人達に 次々巻き起こる問題、事件、危機に対しても 持ち前の明るさと機転、人情で対処し、乗り越えていく物語である。

前作「巣立ち」は 実の父親矢島久兵衛門が没するところで終わっているが 今作では 御鳥見役として出所する長男久太郎や、大番組与力永坂家の婿養子になった次男久之助、嫁いでいる長女幸枝君江石塚源太夫の子供達等 それぞれ成長した次世代の問題、事件、危機を中心に描かれている。
そんな彼らに対しても 決して表には出ず、少し離れた所から温かく見守りながら 手を打つところには手際良く手を打ち 大胆に行動する珠世である。
第1話から第7話まで 物語の展開は小気味好く 一気に読んでしまえるが 今作の最も大きな流れは 御鳥見役の裏の任務、密偵で相模に出掛け、殺されそうになり 一命をとり止め 無事生還する 長男久太郎の物語だ。
老中首座をめぐる 青山下野守と阿部伊勢守の不和陰謀に巻き込まれてしまった久太郎。
崖から転落させられ意識不明の状態の久太郎を助けた猟師彦三とその孫娘波矢と 約半年間過した久太郎。
その間は 行方不明の状態で 懸命に捜索が続けられるが それを案ずる矢島家の家族、夫伴之助、珠世、久太郎の妻恵以は 次第に焦りが。石塚家の次男源次郎、恵以が 相模へ捜索に向かう。
骨折も癒え、一刻の猶予ままならない事態となり 久太郎は 思いをよせていた波矢を裏切り 黙って彦三、波矢の家を去り 江戸に生還したが 以後 済まない気持ちが久太郎を苦しめる。
久太郎を追って江戸まで現れ 秘密を探っていた波矢は 事故か?殺害か? 若い命を落としてしまう。
久太郎との関わりがなければ 落とさなくても良かった命である。
かって 父親久兵衛門、夫伴之助も 同じ苦しみを抱えていたことを知る珠世は 責任感の強い久太郎の気持ちを思いやる。
江戸から外に出たことのない珠世が 辰吉親分付き添いで 彦三に詫びを入れるために 相模まで出掛ける。
波矢の墓の前に 彦三と珠世が並び合掌、珠世は 彦三に何も話していなかったが 彦三には 珠世が何故訪ねてきたかがわかっていたようで いかめしい老人の横顔がおだやかだった。
珠世が 雑司が谷から三浦半島?付近まで 1泊2日で 歩いて行く???、
ちょっと 考えられないが そこが小説の面白いところ、
出来過ぎの妻で有り 母で有り 姑で有る珠世、こんな魅力的な女性は 居るはず無いと思いながらも 憧れてしまう。

次作 「来春まで」に つづく。

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諸田玲子著 「巣立ち」

2018年10月24日 10時10分42秒 | 読書記

図書館から借りていた 諸田玲子著 お鳥見女房シリーズ第5弾 「巣立ち」 (新潮社)を 読み終えた。

諸田玲子著 「巣立ち」

第1話 ぎぎゅう、
第2話 巣立ち、
第3話 佳き日、
第4話 お犬騒ぎ、
第5話 蛹のままで、
第6話 安産祈願、
第7話 剛の者、

「お鳥見女房」、「蛍の行方」、「鷹姫さま」、「狐狸の恋」に続く お鳥見女房シリーズの第5作目の作品だ。

代々 幕府の御鳥見役を務める矢島家の家付き女房 矢島珠世(たまよ)が 持ち前の明るさと機転で 次々と引き起こる問題に対処、乗り越えていくという人情時代小説である。
「巣立ち」では 嫡男久太郎が 失脚した水野忠邦の御鷹匠和知正太夫の三女で 「鷹姫さま」と呼ばれていた恵以(えい)と祝言を挙げるところから始まり、将軍家の御鷹狩の前夜 獲物の鶴が何者かに毒殺され 御鳥見役等関係者の責任が問われかねない危急事態に 夜を徹して奔走し 危機を救った 珠世の実父 隠居の久兵衛門が疲労で倒れ 家族や掛け付けた矢島家に関わる人達に見守られ息を引き取るところで終わっている。
家族が減り、家族が増え、矢島家にも変化が有り 悲喜こもごも、苦労、悩み、嫁姑の関係も出てくる。
しかし 憎しみ、妬みを持つ人達にも 温かい愛情を施す珠世、
緊急事態にも 決して悲観的にならず 楽観的に 両頬にえくぼを浮かべる珠世、
それが 周りの人達を落ち着かせ、和ませ、魅了させる。
他人を思いやることが いつしか必ずいい結果に繋がっていくことや、人間には 人の真意を見極める聡明さどこかに有ることを、一貫して描いているように思う。
雑司が谷鬼子母神弦巻川 その周辺の のどかな風景描写が頻繁にされており その情景を想像しながら読み進めることが出来る。

一方で 大御番組与力永坂家に婿養子となり 久兵衛門がお鳥見役の裏の任務で関わりの有った女性の娘 と婚姻することになった 次男久之助は 義父甚兵衛から 異国船警戒、異国との戦いを覚悟せよと告げられる。
異国が開国を迫りくる幕末が近い時代設定になっている。

家族や関わり合う人達皆を 深い愛情で包み込み 頼られ、慕われる珠世は 読者としては こんな女性がいるはず無いと思える程 魅力的な女性に描かれている。
平易な文章で物語の展開も小気味好い。登場人物夫々のキャラクターや成長過程も 明確に伝わってくる。
読み出すと一気に読んでしまえる作品である。

次作 「幽霊の涙」に つづく。

 

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諸田玲子著 「狐狸の恋」

2018年10月19日 19時17分21秒 | 読書記

図書館から借りていた 諸田玲子著 「狐狸の恋(こりのこい)」(新潮文庫)を 読み終えた。
「お鳥見女房」、「蛍の行方」、「鷹姫さま」に続く 「お鳥見女房シリーズ」の第4作目の作品だ。

諸田玲子著 「狐狸の恋」

第1話 この母にして、
第2話 悪たれ矢之吉、
第3話 狐狸の恋(こりのこい)、
第4話 日盛りの道(ひざかりのみち)、
第5話 今ひとたび、
第6話 別の顔、
第7話 末黒の薄(すぐろのすすき)、
第8話 菖蒲刀(しょうぶがたな)

代々 御鳥見役を務める矢島家の家付き女房 珠世(たまよ)を主人公とする 情緒あふれる人情時代小説 「お鳥見女房シリーズ」の第4作目だ。
前作では 剣客浪人石塚源太夫一家が 稲垣対馬守に仕官叶い、その屋敷内に引っ越したり、次女君江が 次男久之助の幼馴染隼人と結ばれ 御徒目付け菅沼家に嫁いだりして 矢島家は 急に少し寂しくなった。
しかし 相変わらず 次々と問題が起こり その都度 珠世は 両頬にえくぼが出来る 持ち前の明るさと機転で対処、乗り越えていく。
母親として、妻として、武家の女房として こんな魅力的な女性がいて いいものかと思う程だ。
実父久右衛門、夫伴之助 嫡男久太郎、次男久之助、夫々にも 苦悩や問題が有り、珠世は 温かく包み込むように見守り、
関わり合う人達皆にも きめ細やかな情愛を注ぐ珠世である。
珠世の目下の最大の心配事は 久太郎、久之助の行く末や 結婚問題。
母親としては当然ながら 余計な口出しをせず 大きな度量で 温かく見守り しっかりフォローする姿がある。
本作品では 逞しく成長著しい 嫡男久太郎と 次男久之助の恋愛の行方や、自らの道を切り開く活躍の場面が多く描かれるいる。
登場人物のキャラクターが明確でイメージし易く、相関関係も分り易く その展開が小気味良い。
紆余曲折有った後に 矢島家には 嫡男久太郎が自ら選んだ鷹姫さまが嫁いでくることになり、次男久之助は と祝言を挙げ 他家に養子に行くことが決まっところで この物語が終わっている。
「息子たちには どのような明日が待っているのか。四角い箱の蓋を開け 珠世は古ぼけた武者人形を抱き上げた」
次作 「巣立ち」に 続く。

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諸田玲子著 「鷹姫さま」

2018年10月17日 11時32分55秒 | 読書記

天気予報通り 当地 今日も 天高い秋の空とは程遠い 雲の多い日になっている。
冷たい北風がやや強く 晩秋の気配され感じられる。
まるで猫の如く 時々 薄日が射し込む南側の窓際が 恋しくなる爺さん、
特に出掛ける予定も無かった午前中、またまた 小説に読み耽ってしまった。

読み出したら止まらなくなってしまった諸田玲子著のお鳥見女房シリーズ、
先日 図書館から借りてきた 諸田玲子著 「鷹姫さま」(新潮文庫)を 読み終えた。
「お鳥見女房」、「蛍の行方」に続く お鳥見女房シリーズの第3弾になる作品だ。

「お鳥見女房」 → こちら
「蛍の行方」 → こちら

諸田玲子著 「鷹姫さま」、

第1話 雪夜の客、
第2話 鷹姫さま、
第3話 合歓の花、
第4話 草雲雀、
第5話 嵐の置き土産、
第6話 鷹盗人、
第7話 しゃぼん玉、
第8話 一輪草、

江戸城の西北、雑司が谷の御鳥見組屋敷で暮す 代々御鳥見役を務める矢島家の家付き女房 珠世(たまよ)を中心とした 情緒あふれる人情時代小説である。随所に 雑司が谷や鬼子母神やその周辺の なんとも長閑な情景描写もあり 引きこまれる。

老中水野越前守忠邦に仕える御鷹匠和知正太夫(わちしょうだゆう)の三女恵以(えい)は 子供の頃から鷹と共に育ち、鷹の魂が乗り移ったかのように気性が強く 男装で鷹場に現れたりし 鷹姫と呼ばれていた。
その鷹姫との縁談が持ち込まれた御鳥見役嫡男である矢島久太郎は 身分の違い等を理由にして(御鷹匠は御鳥見役より格上) きっぱり辞退をしたが どこかで心魅かれているところがあり、断られた鷹姫も諦めていない。どんな展開になっていくのだろうか。

第8話では 二つの吉事が重なった矢島家が 明るい春を迎えている。
一つは 次男矢島久之助の幼馴染で 同じ道場に通う高弟同士である御徒目付菅沼家の嫡男隼人と 次女矢島君江が恋慕う仲となっていたが 紆余曲折の後の婚礼を迎えたことだ。
矢島家には それまで関わった登場人物が揃ってお祝い見送りに参集する。
紋付き袴姿の辰吉親分、石塚源太夫とその子供達、多津、伯母登美、農夫庄兵衛、兵太、筋向かいの御鳥見役古谷茂十郎、初乃夫婦、菊職人与助、おさん夫婦・・・・、

君江の乗った輿を見送った後 静かになった門前で 夫である御鳥見役矢島家当主矢島伴之助珠世(ことよ)は 
「寂しくなりますね」
「でも 君江は 果報者です。好いたお人と添えたのですから」
「女子には それがいちばんの幸せです。わたしも そうでした」
伴之助も 穏やかな目で空のかなたを見つめて
「生きていてよかったと 今日ほど思ったことはない」
一語一語、噛みしめるようにつぶやく・・・・。
お鳥見役の裏の任務で 深い心の傷を負った帰ってきた伴之助、次々と襲い掛かる事件や不安を 常に笑顔絶やさず前向きに対処してきた珠世、夫婦の情愛が滲みでているシーンだ。
もう一つは 農家の離れに住んでいた剣客浪人 石塚源太夫が 稲垣対馬守に仕官叶い 屋敷内の長屋に引っ越すことになったことだ。
かって 居候だった石塚源太夫も その5人の子供達も、石塚源太夫と祝言を挙げた 同じく居候だった女剣士多津も 珠世にとっては かけがいの無い家族同然の存在になっているのだ。

まだまだ 長男久太郎や次男久之助の行く末を案ずる珠世であるが 両頬にえくぼが出来る 持ち前の明るさと機転で 乗り越えていくに違いない。
実の父親 矢島久右衛門に気を配り、夫 伴之助を温かく包み込み、息子、娘を 広い度量で温かく見守り、関わり合う人達皆に きめ細やかな情愛を注ぐ、前向きで明るい性格の珠世、
珠世は まさに 極め付けの女性像である。

 

 

 

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諸田玲子著 「蛍の行方」

2018年10月14日 12時39分33秒 | 読書記

朝方まで降っていた雨も上がり 次第に青空が広がり出し まずまずの天気になっているが、
今日も 特に出掛ける予定も無し、のーんびり過している。

先日 図書館から借りてきた 諸田玲子著 「蛍の行方」 (新潮文庫)を 読み終えた。
「お鳥見女房」に続く お鳥見女房シリーズの第2弾になる作品である。

「お鳥見女房」こちら、 の つづき。

諸田玲子著 「蛍の行方」

第1話 ちまき泥棒、
第2話 蛍の行方、
第3話 捨案山子、
第4話 緑の白菊、
第5話 大凧、揚がれ、
第6話 雛の微笑、
第7話 裸嫁、
第8話 風が来た道、

代々 お鳥見役の矢島家の当主 矢島伴之助(珠世の夫)が 密命を帯びて沼津藩に赴き、消息を絶って1年余り経ち、留守を預かる珠世に心休まる日はないが わけ有って転がりこんだ居候 石塚源太夫の子供達や、寂寞感漂う隠居の実父 矢島久右衛門と関わりながら 明るく、立ち振る舞う姿、その生き方にじーんとするものある。
この物語の主人公は いつも 笑顔と 両頬にえくぼを絶やさない 矢島珠世(たまよ)なのだ。
不安、気苦労を抱えながらも 関わり合う人達皆に 慈悲や深い情愛を施す珠世の度量の大きさ、その存在感が大きい。
人情物時代小説である。
物語後半では 沼津藩と 老中水野忠邦との政争に巻き込まれ 危険な状態に陥った矢島伴之助を救出のため 沼津藩にのりこんだ 次男 矢島久之助、居候の子持ち剣客浪人 石塚源太夫、さらに 居候の女剣士 沢井多津が 伴之助を伴い 追っ手と息詰まる戦いをしながら、命からがら脱出し 江戸に生還するまでを描いているが 武士物時代小説の緊迫感も有って、さらに物語を面白くしている。

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諸田玲子著 「お鳥見女房」

2018年10月12日 07時58分29秒 | 読書記

10月も中旬、天高く、澄み切った青空の日々を期待しているが 当地 このところまたまた 曇や雨、曇時々雨等の日が続いている。
出掛ける気にもならないそんな日には、最近 本を読みながら ウツラ、ウツラ、舟を漕ぐことが多くなっているような気がする。
数年前までは 仕事を続けていたこともあり、とても ゆっくり読書する時間等無し、気持ちの余裕も無かったが やっと ほんの少し読書意欲がわいてきて 近くの図書館に通うようにもなっている。
気まぐれな性分とて すぐまた 他の興味関心に 時間と気持ちが奪われることも有りなのだが・・・・。

図書館から借りていた 大活字本 諸田玲子著 「お鳥見女房」を 読み終えた。

  (大活字本)、

諸田玲子著 「お鳥見女房」、

第1話 千客万来、
第2話 石榴の絵馬、
第3話 恋猫奔る、
第4話 雨小僧、
第5話 幽霊坂の女、
第6話 忍び寄る影、
第7話 大鷹狩、

作家 諸田玲子氏の作品を読むのは もちろん初めてであり、「お鳥見女房」がどのような作品なのかの事前情報も無しで ふっと手を伸ばし 借りてきた書だが、読み始めてまもなく引き込まれ 一気に読んでしまった。
どうやら 「お鳥見女房シリーズ」の第1作目で 「蛍の行方」「鷹姫さま」「狐狸の恋」「巣立ち」「幽霊の涙」「来春まで」の 続作があるようだ。

江戸城の西北、雑司が谷の組屋敷で暮す 代々お鳥見役を務める矢島家の家付き女房 珠世(たまよ)を中心とした 情緒ある人情物時代小説である。
珠世は 23歳を頭に 4人の子供を持つ主婦、小柄で華奢なのにふくよか、丸顔に明るい目許、よく笑い、両頬にえくぼが出来る、実際の歳より ずっと若く見える女性、悩み、問題も胸の内に収め 周囲を明るくする中年女性だ。
そんな珠世の圧倒的な存在感が 物語の主題になっている。
お鳥見役とは 将軍家の鷹狩りの鷹匠の下職で 鷹の餌となる鳥の棲息状況を調べたり、鷹場を巡検したり、鷹狩りの下準備したりする役職だったが 実は 遠く他国に出掛け 他藩の状況を調べたり、測量や地図を作ったりする 隠密のような危険な裏の任務が有った。
 
決して広くない屋敷に 婿である当主 お鳥見役 矢島伴之助、妻 珠世、隠居した珠世の実父 久右衛門、お鳥見役の跡継ぎ長男の久太郎、剣術に打ち込む次男の久之助、年頃の次女の君江が 住んでおり 他家に嫁いだ長女の幸江が 息子を連れて出入りするという平穏で慎ましい暮らしをしていた矢島家が ひょんなことから 事態が大きく変わる。
父親の仇討ちのため江戸に出てきていた女剣士の沢井多津と その多津の仇であり、小田原藩を脱藩し江戸に出てきていた5人の子持ち剣客浪人の石塚源太夫が 同じ日に 矢島家の居候になるという 現実的でない、やや無理な設定で 物語が始まる。
以後 様々な事件が次々を襲い掛かるが 常に笑顔を絶やさず 前向きに対処する 珠世の機転と情愛を描いている。
登場人物のキャラクター描写が丁寧に為されており イメージで 俳優(女優)の顔が浮かんくるようだ。

舞台となっている 江戸時代の雑司が谷周辺や鬼子母神の風景描写が 随所になされており、何年か前の正月に 「雑司が谷七福神巡り」で そぞろ歩いたことのあるエリアでもあり なんとなく情景想像が出来る。 

お鳥見役だった祖父は 裏の任務で 他国に出向いたまま 不帰の人となり、夫である お鳥見役 伴之助もまた 裏の任務で 駿河に出向いたまま 消息不明になってしまう等 武家の試練にも耐えなければならない立場の珠世であるが、関わる者皆に 明るく、優しく 情を施し、笑顔で接する珠世。
下級武士、小録の矢島家で 7人もの居候を1年間も養える経済力が 果たして有りや無しやとか、非現実的な物語ではあるが、全体、どことなくゆったりした時間が流れる、江戸時代版 大家族ホームドラマっぽく 単純に心地好く、面白い。

次男 久之助は 父親 伴之助の行方不明を知り 一人駿河へ旅立ち、1年も世話になった剣客浪人 石塚源太夫も ほぼ決まった松前藩の藩士への道を捨て 珠世の夫 伴之助の行方を探しに駿河に向かうところで 物語が終わっている。
果たして 伴之助は 無事生還するのだろうか。

 

 

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