米軍北部訓練場の年内返還を「歓迎する」と評価した翁長雄志知事の8日の発言が大きな波紋を呼んでいる。翁長知事は11日になって、発言が「不適切」だったと釈明したが、意を尽くした説明にはなっていない。

 菅義偉官房長官は、知事公舎での翁長知事との会談で、北部訓練場のおよそ半分に当たる約4千ヘクタールの年内返還を目指す考えを明らかにした。

 知事公舎での会談は非公開だった。「歓迎」発言は会談後、記者団の質問に答える形で語ったものだ。

 翁長知事は「県の方針としても早めに返してくれということなので、その意味では歓迎しながら承った」と説明した。

 北部訓練場の返還は、6カ所のヘリパッドを返還対象外の区域に移設し、合わせて海への出入りを確保するため土地と水域を新たに追加提供することが条件となっている。

 日米両政府は「返還」とヘリパッドの「移設」は切り離せない、と強調する。政府のこのような論理に、県は有効に反論し得ているだろうか。

 返還は「負担軽減につながる」というのが県の基本的な立場だ。その一方で、資機材搬入のための自衛隊機投入や強引な工事、オスプレイによる訓練などについては、批判的姿勢を崩していない。

 県の姿勢につきまとってきたわかりにくさ。政府はまさにその部分に、くさびを打ち込んだのである。

 何が問題なのかを早急に整理し、説得力のある言葉で県民に説明する必要がある。

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 安倍晋三首相は、今国会の所信表明演説で、「県内の米軍施設の約2割、本土復帰後最大の返還」だと返還面積を持ち出し、負担軽減を強くアピールした。だが、その説明は一面的である。

 政府は「抑止力の維持・向上」と「負担軽減」はセットであると主張してきた。狭い沖縄でこの二つの課題を同時に達成することは不可能だ。面積が減ったからと言って直ちに負担軽減につながるわけではない。

 沖縄の基地問題が他府県と違って深刻なのはなぜか。沖縄では、人口密度の高い本島に飛行場や演習場などが集中し、空も海も訓練空域、訓練水域に覆われている。外来機の飛来も頻繁だ。

 米軍は地位協定によって基地の排他的管理権を持ち、国内法が適用できない。国会の監視の目が届かない日米合同委員会で物事が決められ、自治体は著しく自治権を制約されている。米軍がノーと言えば自治体は手も足も出ない。

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 東村高江の集落を取り囲むようにヘリパッドが配置されれば、住民は新たな被害に悩まされることになる。オスプレイの飛行訓練が動植物にどのような影響を与えるのか、その調査も不十分だ。

 米軍の訓練場の要請を優先し、情報開示も住民への説明も通りいっぺん。決まったことだからと合同委員会の密室での合意を押しつけ、米軍・機動隊・民間警備員・自衛隊が一体となって工事を強行する。おぞましい限りだ。

 あらためて移設の問題点を洗い直すべきである。