動物村の仲良し3人組が長老の家に集まりました。エン坊の妹キキの怪我を直すのに
協力してくれたガマ仙人から、ツクバノ山の話を聞けるとあって、興味津々の様子です。
長老 : キキは傷口の血が止まって安心したのか、泣きやんでグッスリと寝ているな。
ガマ仙人: もう安心だぞ。そういえば、前回ここに呼ばれて来た時は、うさぎの赤ん坊
が怪我をした時じゃったが、あの子は今、どうしているのかな?
長老 : 目の前にいるミミがその時の赤ん坊じゃよ。
ミミ : えっ、私なの?そんなことがあったの?私もガマ仙人の油で治ったの?覚えて
いないけど、お礼を言わなくっちゃ。その節はどうもありがとうございました。
ガマ仙人: そうか、君があの時の子か。大きくなったのう。
しばらくは、当時の話で盛り上がりました。その後、話が一段落した頃合を見てポン吉
がシビレを切らして問いかけました。
ポン吉: ねえ、ツクバノ山ってどんなところなの?そこでガマ仙人は何をしているの?
コン太: 僕も知りたい。
ミミ : 私も知りたい。
ガマ仙人: おお、そうじゃった!それを聴くために、ここへ集まったのじゃったな。
では、ワシの住むツクバノ山の話をしよう。あそこはワシたちガマガエルが
ガマ仙人になるための修行をする山じゃ。そこでは今も仲間が修行をして
おり、ワシは指導役じゃ。校長先生といったところかのう。
ツクバノ山は岩場や滝など、心と体を鍛える修行に必要な環境が整ってお
る。修行を終えると後ろ足の指が1本増えて6本になるんじゃ。前足の指が
4本、後ろ足が6本で、四六のガマと呼ばれておる。
このことは、すでに3人組には話したな。
ミミ : なぜ、ガマ仙人になることを目指して修行するの?
ガマ仙人: 理由はわからんが、先祖から受け継いだことじゃで、自然に修行したくなる
んじゃよ。仙人になったガマガエルたちは人間を含めて、多くの生き物た
ちの役に立っておるぞ。今回の怪我の治療もそのひとつじゃ。
ポン吉: 人間も含めてって、人間の怪我も治してあげるの?
コン太: 僕たちは人間のいるところには行ってはいけないんだよ。
ガマ仙人: ワシらは特別で人間たちと一緒に暮らせるんじゃ。なぜかというと、あそこで
はワシらは人気者なのじゃよ。ツクバノ山には口を大きく開けたガマの姿を
した巨石があり、人間たちは「ガマ石」と呼んでおる。その石は人間の通る
道沿いにあるから、人間たちはその前を通る時、立ち止まって足元にある小
石を拾い、「ガマ石」の口の中に投げ入れるのじゃ。
運良く1回で口の中に収まると願いが叶うと信じておるんだな。たまに、入る
まで何回も挑戦しておる人間もおるぞ。「ガマ石」は人間にとっては幸せを願
う場所、ワシらにとっては大切な修行場なのだ。人間たちはこのガマ石と同じ
姿をしているワシらに親しみを覚えるんじゃろうな。
ミミ : なるほどね。でも「ガマ石」がガマガエルさんの姿に似ているだけで、人間が攻撃
したり、捕まえたりしない理由になるのかな~。
ガマ仙人: 鋭い指摘じゃ。先程話に出たが、ワシの背中から出たガマの油は人間が怪我
をした時の血止めにも効くのじゃ。人間はワシらの背中からガマの油を集めて
塗り薬を作り、持ち歩ける血止め薬として使っておるのじゃ。だから、人間はワ
シらを大切にしてくれるんじゃよ。
これで一緒に暮らせている理由がわかったかな。
長老 : ツクバノ山は特別な場所なのだよ。この動物村でも人間と一緒に住めると思うの
は間違いだぞ。ツクバノ山でも、ガマ以外の動物たちは人間とは鉢合わせしない
ように暮らしているはずだ。ガマ仙人たちだけが特別なのだ。私が人間たちの生
活に詳しいのは、ガマ仙人やフクロウ博士から人間の話を聞いて学んでおるから
なんだよ。
ポン吉 : 僕たちもガマの油を薬にして持ち運べたらいいのにな~。
ガマ仙人: ワシらが出す油をどうやって薬にするのかはワシにもわからない。
人間たちは賢いからの~。
コン太: それにしても、ガマ仙人さんは人間と一緒に暮らせるんだね。すごいナ~。
ガマ仙人: それではもうひとつ、話をしよう。人間は面白いことを考えつくもんじゃ。
ガマの油が血止めに効くことを、自分たちの仲間に知らせるために変な
服装をして、独特の口上とやらを披露しながら、わざと自分の腕に傷を
つけて血を流すんじゃ。そして、その傷口にガマの油を塗って実際に血
が止まることを見せている。人間は実際に血が止まることを、目の前で
見ないと信用しないのかもしれんな。ワシにも、そのへんの人間の行動
はよくわからん。
ミミ : 口上って何?
ガマ仙人:口上とは仲間の気を自分に引きつけるための話し方じゃ。面白いからワシ
が覚えている範囲で実際にやって見せてやろう。
準備をするから待っていなさい。
物陰に隠れたガマ仙人と長老はゴソゴソと準備を始めました。3人組は何が始まるの
かとワクワクしながら待ちました。やがて変な帽子をかぶり、長い棒を持って出てきた
ガマ仙人は準備した小道具の名前や使い方を説明した後で、独特の口上を始めまし
た。
“サ~テお立会い。手前 ここに取り出したる刀は、名工・正宗が暇にあかして鍛えた
という代物である。実によく切れる。エイッ 抜けば玉散る氷の刃。それでは、腕を切
ってご覧に入れる。エイッ・・・、出た!血だ!しかし、心配はいらない。
傷口にこの「ガマの油」をひと塗りすれば、またたく間にピタリと血は止まる。”
ガマ仙人の熱演は延々と続きました。この日は夜遅くまで長老の家は賑やかでした。
仲良し3人組にまた新しい友達ができましたね。