半世紀以上も前のこと、高校時代のバレーボール部夏合宿は茨城県の鹿島市でした。
合宿中は早朝に鹿島灘の海岸まで全員で遠走するのが日課で、とうちゃこすると疲
れを癒すために膝小僧まで海に入りました。そこで足首をツイストさせて砂をほじ
くり返すと、足の指先に確かな貝の手ごたえ、でもこの大きさは何だ!これが鹿島
灘の大ハマグリとの出会いでした。他の部員は砂浜の上にも見つけました。都会っ
子たちは大喜び、大ハマグリ狩りに夢中になりました。持ち帰った大ハマグリは合
宿先での豪華な一品になりました。(今は時期と場所と道具が指定されている)
私はハマグリには握りこぶし大の大きなものがあること、それが鹿島灘の名物であ
ることをこの時に知りました。
改めまして「鹿島灘の大ハマグリ」です。茨城県の大洗から千葉県の犬吠崎にかけ
て広がる鹿島灘の特産品です。鹿島灘の沿岸部は砂地が続き、10cmを超える大き
さのハマグリが獲れる好漁場となっています。ハマグリは大きいほど高値で取り引
きされる高級品なので、産地の大洗町・鹿島灘・波崎の3漁協では輪番制で計画的
に漁を行い、保護区域を設定するなど、大切な鹿島灘ハマグリを守りながら出荷し
ています。
<大ハマグリ漁>
この時期は午前4時前に漁港を漁船が出港します。水深4~6m程の浅い沿岸部が漁場
です。ハマグリ漁は船を海岸線と平行に進めるため、常に横波を受けながらの操業。
そのため、風がなく海が穏やかでなければ漁はできません。天候に左右され、輪番
制で出漁日が決められているため、ハマグリ漁ができるのは良くても年に7、8回ほ
どだそうです。「鹿島灘ハマグリ」は漁師にとっても貴重なものなのです。
(1)砂からハマグリを掘り起こす
朝7時には漁場で貝を獲るために、くし状に歯がついた「マンガ」と呼ばれ
る貝桁網を海に入れて海底の砂地を曳きます。くし状に並んだ歯が砂の中に
潜っている貝を掘り起こし、後方の網で受ける仕組みです。船尾から重いマ
ンガを投げ入れて、ゆっくり真っ直ぐ曳くのがハマグリ漁。状態の良いハマ
グリを獲るために、非常に 限られた範囲で網を曳くハマグリ漁は、漁師の経
験と勘がものをいう世界です。
マンガをウインチで引き揚げると、水が滴る網の中には、ハマグリやホッキ
貝その他ヒトデなどがどっさりと入っています。手際よくハマグリは7~8cm
程の中玉と、握りこぶしよりも大きな大玉、そしてホッキ貝などを選別して
カゴに詰めていきます。2度目の漁は場所を変えて繰り返します。1度目の経
験からより多く獲れる ポイントに見当をつけるのも漁師の腕の見せ所です。
早朝2回の操業です。
(2)漁師の目利き
6~7月の中玉サイズが美味。潮干狩りで獲れるハマグリとは比較にならない
程大きな「鹿島灘ハマグリ」は10cmを超える大玉サイズが特長ですが、漁師
のおすすめは7~8cmの中玉サイズ。その理由は、身が柔らかく、食べやすい
からだといいます。また、ハマグリの旬は春、雛祭りの頃とされています
が、産卵前の6~7月は身 が太り、旨みも濃くなり絶品です。
(3)水揚げ~入札
午前10時には市場で入札が行われ、活気に満ちた漁港の市場から「鹿島灘
ハマグリ」はほとんど豊洲市場へ出荷されていきます。
<ハマグリの豆知識>
1.一般的にはどれも「ハマグリ」と一括して呼ばれますが種類があります。
流通市場では価値や味わいが異なることから3種類に区別されているのです。
(1)日本在来種の「ハマグリ(内湾性)」:淡水と海水の入り混じる汽水域
に生息します。主に三重県や熊本県などで獲れます。市場のシェアは
5%ほどです。
(2)日本在来種「チョウセンハマグリ(外洋性)」:漢字で「汀線蛤」と書
きます。鹿島灘ハマグリに代表される大玉ハマグリにまで成長するの
がコレです。国内で収穫されるハマグリの大部分を占めますが、それ
でも絶対量は少なく都心の料亭やスシ店そして地元の食事処でしか食
べられません。
(3)外来種「シナハマグリ」:スーパーで流通しているほとんどのハマグリ
(中国産)がコレです。朝鮮半島、中国、ベトナム北部が原産。日本
在来のハマグリ と比べても、一般の人では大きさや姿形では見分けが
つきません。
現在のハマグリ市場は輸入が9割、国産1割。この内、国産ハマグリ漁は千葉県
から茨城県にかけての鹿島灘、三重県伊勢湾や瀬戸内海西部の周防灘、九州の
周防灘にかけて多く収穫されています。
2.ハマグリは縁起物
ハマグリの殻のつなぎ目は、人間の指紋のようにすべて形が違います。その
ため、他の貝殻と合わせることはできません。そのことから夫婦が一生添い
遂げる、縁起が良い食べ物として結婚式の吸い物などに利用されることもあ
ります。また、女の子が良縁に恵まれますようにという意味を込めて、ひな
祭りの節句料理にも欠かせない食材となっています。
3.宮崎県日向灘でとれるチョウセンハマグリは殻が厚く、白い碁石にも加工され
ている。
<ハマグリの栄養素>
ハマグリは低カロリー、低脂質な食品でアミノ酸、ビタミン、ミネラルが豊富
に含まれています。鉄分、ビタミンB12を多く含み、貧血予防に効果的な食材
です。アミノ酸 の一種であるタウリンも含まれ、肝機能の改善、コレステロー
ルの上昇抑制、血圧低下などの働きがあり疲労回復効果があるといわれていま
す。また、体内のたんぱく質合成に係わる亜鉛という栄養素も豊富に含まれて
おり、免疫力の向上、皮膚や髪の健康維持、味覚を正常に保つなどの働きがあ
ります。 貧血予防や皮膚や髪の健康など特に女性に摂ってもらいたい栄養がハ
マグリにはたくさん詰まっています。ハマグリの栄養を残さず食べられるお吸
い物や炊き込みご飯がおすすめです。
<好きなハマグリ料理>
焼きハマグリ。醬油をたらしたときの匂いが最高!バター炒めはハマグリを剥
かずに蒸すだけなので、案外、お手軽なメニュー。こちらも焼きはまぐり同様
に火を通しすぎないことが、ふっくらハマグリを堪能するためのポイントで
す。多くの江戸前ずしの名店では煮ハマグリの握りに鹿島灘の大ハマグリが使
われています。大粒で食べごたえがあり、旨みの濃厚な「鹿島灘ハマグリ」
は、網焼き、酒蒸し、潮汁のほか、洋食でも大活躍する食材です。
思い出しました。合宿へ向かう前に宿舎のカレーライスは美味いと聞いていたのです。
大ハマ グリが豊富に取れた鹿島灘ではカレーの具は大ハマグリが定番だったのです。
だから持ち帰ら なくても、きっと食事に出たのでしょうね。今となっては贅沢な一品
でした。
鹿島方面へ行くことがあったら、是非、地元の食堂で鹿島灘の焼きハマグリをご賞味
あれ!