(FRIDAY デジタルの記事より)わかりやすいように、編集部で小見出しをつけました。
外国語名、なぜカタカナでなく、漢字で表記したのか?
「ルーツは中国にあります。中国の文字は漢字しかありませんから、外国地名も漢字で表記します。それがどうして日本に伝わったのか。話は江戸時代にさかのぼります。
当時の日本は鎖国の影響もあり、西洋の知識に乏しく、一方で中国は西洋の国々とも交流がありました。そのため日本が近代化を進めるにあたり、当時の知識人は中国語に翻訳された漢訳洋書を通じて、西洋の知識を吸収したのです。
明治5年(1872年)には外国の国名、地名、人名の漢字表記がまとめられた『洋語音訳筌(せん)』が出版されます。本書は、漢訳洋書から例を集めて辞書として重宝され、その後の漢字表記に大きな影響を与えました」
漢字表記が中国から伝わったのであれば、日本もアメリカを『美国』と書いてもおかしくはない。なぜ日本と中国で表記の違いが生まれたのだろうか。
「中国もはじめから『美国』で統一していたわけではなく、亜米利加(アメリカ)、亜美利加(アメリカ)、米利堅(メリケン)、美利堅(メリケン)など、さまざまな表記がありました。それらは日本にも入ってきたので、日中問わず『米国』や『美国』が混在している状況でした。
中国側の状況を変えたのが、在中アメリカ人が1838年に出版した『美理哥合省国志略』で、のちに『大美連邦志略』と改版されたのです。アメリカという国を中国語で紹介した本なのですが、自国をよく見せるためにタイトルに『大美』をつけたと考えられます。
『大』は大日本帝国や大韓民国のように、偉大な国であることのアピール。『美』はアメリカを示す漢字ですが、『米』よりもよい印象を与える『美』を採用した。以降、中国では『美国』が定着していくことになります。
本書はのちに日本にも入り、明治期には知識人がアメリカの政治制度などを勉強する格好の“教材”となったのですが、どういうわけか『大美』を抜いた『連邦志略』というタイトルで出版されたんです。その影響もあってか、日本では『美国』は定着せず、『米国』のほうが定着していきました。『洋語音訳筌』でも「米利堅」を見出し語として掲げています」(陳教授)
日本でロシアの漢字表記は「魯」を使っていたが、ロシア大使館からクレームがついて「露」に変えた
漢字は音を表すとともに、意味も読み取れる文字だ。そのため「こんな漢字は嫌だ」とクレームが入ることもあるという。その典型例がロシアだと陳教授は言う。
「1855年に締結された『日魯通好条約』に見られるように、ロシアを表す漢字は『魯』が一般的でした。『ロ』シアと読むから『魯』と書いた。
それ以上でも以下でもなかったわけですが、あるとき在日ロシア大使館から“魯という字には乱暴、そそっかしいという悪い意味があるから変更しろ”と日本政府にクレームが入ったのです。
そのため代わりに『露』が当てられるようになったのですが、これには裏話があります。実は『露』という漢字には、日本側の願いも密かに込められていたようです。日露戦争の時期になってから『日露』が“日が昇る、露は消える”と解釈されるようになったのは、そのためだと言います。
韓国のソウルは「漢城(ハンソン)」だったが、「中国風の当て字はイヤ」と韓国で批判が高まり「首爾」に変えた
他にも、最近まで韓国のソウル市は中国語で『漢城』と表記されていました。600年以上続く伝統ある表記だったのですが、韓国内で“漢城という中国風の当て方は嫌だ”と批判が高まり、’05年に『首爾』に変更するように中国政府に通達しました」
勃牙利、愛蘭土、白耳義ってどこの国?
「『勃』はブルガリア(勃牙利:ボーヤーリ)。これは中国語の音訳漢字に由来し、先に触れた『洋語音訳筌』でも、『勃』は『フ』と読むと紹介されています。音を当てただけなので深い意味はない。
『愛』はアイルランド(愛蘭土:アイラントゥー)。これも音訳漢字が由来です。
『白』はベルギー(白耳義)。これも音訳漢字。『白』は日本の音読みでは『ハク』が一般的ですが、中国語では『バイ』と発音し、中国語で『ベルギー』と発音したときと近いものになります。しかし本家の中国では、ベルギーを表す漢字として、いまは『白』をやめて『比』が定着しています。(比利时:ピリシ)
『比』は日本ではフィリピン(比律賓)を表します。中国では『菲律賓:フェイルーピン』となります。外国地名の漢字表記は何種類もあって、どの漢字が定着するかは日中間で異なるので、このように“同じ漢字でも全然違う国を表す”ということが起こります。
この記事に関連して、「ドイツ兵士の見たニッポン」の著者Hさんから、以下の追加情報をいただきました。
国名の漢字表記。オーストリア・ハンガリーのことは「墺洪国」と書いたのですが、これを何と読むのか。簡単そうなことが意外にわからず、捕虜研究者の間で議論になったことがあります。オーストリア(墺太利)の「墺」が「おう」なことは当然ですが、ハンガリー(洪牙利)の方が問題で、当時の本のルビを見ても
①おうこうこく
②おうはんこく
③おうほんこく
と分れています。
①「こう」は洪水の「こう」と見るわけですね。②漢和辞典に「はん」という音はなく、意味上ハンガリーの「はん」だから。③は私が見つけたものですが、「洪」は中国語で「ホン」と発音するのでこうしたのかも知れません。しかし、ハンガリーのハンはフン族のフン。「フンガリア」とか「ホンガリア」と呼ばれたことから考えると、「おうこうこく」よりはこの方が正しいのではないかと思えます。なお、匈奴(フン族)の「匈」を使って「匈牙利」という書き方もあります。
まぁ、「墺太利・洪牙利国」の略と見て、「おうはんこく」とするのが妥当じゃないかということになりました。
なおウィーンは「維納」と書きました。昔のSPレコードで「管弦楽 維納フィルハーモニー」なんて書いてあるのがあります。「たそがれの維納」なんていう映画もありました。現地ではヴィーン、英語ではヴィエンナ。結局日本では、現地名Wienを英語式に読んで「ウィーン」としたのでしょうね。
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