(ANNニュース)
イスラエルとハマス大規模衝突 双方合わせて1100人以上死亡
今回のイスラエルとハマースの「戦争」を予見するような記事が今年6月、ニューズウィーク日本版に載っています。(記事の内容をわかりやすくするため、ブログ編集部が青字で小見出しや動画を追加しました。)
イスラエル極右政権の復権と報復の連鎖──止まらない民衆間の暴力
極右ネタニヤフ政権が発足し、パレスチナ側に「戦争」をしかけて衝突が激化
止まらない報復の連鎖
ヨルダン川西岸地区北部の町ジェニンで6月19日に起きたイスラエル軍との衝突は、近年に例をみない大規模なものとなった。ハマース関係者の拘束のため難民キャンプに入ったイスラエル軍の部隊は、イスラーム・ジハードの武装勢力を含む反撃にあい、激しい銃撃戦となった。
イスラエル軍はドローンに加えて戦闘ヘリコプターのアパッチを投入し、パレスチナ側では15歳の少年アフマド・サケルを含む5人が殺され、重傷者23人を含む91人の負傷者が出た。西岸地区での攻撃にアパッチが使用されたのは、第2次インティファーダ以来で20年ぶりだという。
翌20日にはパレスチナ人による報復攻撃が起きた。入植地エリでガソリンスタンドとその近くのホムス・レストランが銃撃され、イスラエル人の17歳の少年を含む4人の入植者が射殺され、4人が負傷した。実行犯の1人はその場で射殺され、もう1人は数時間後、イスラエル軍の特殊部隊により殺された。ハマースはこの銃撃事件が傘下のカッサーム旅団により実行されたことを認め、イスラエルの犯した罪に対する「当然の報い」だとの声明を出した。
パレスチナ人をイスラエルから追い出そうとするユダヤ人入植者がパレスチナ人の村を襲撃、家屋を破壊
これに対して入植者らもまた即座に報復に動いた。同じ日の晩のうちに近郊から車で集まった入植者がエリ入植地の近くの複数のパレスチナ人の村を襲撃し、住民に対して銃を向け投石をし、家屋や車、農地などに放火した。この襲撃に関連して3人のイスラエル人が逮捕されたが、その間にパレスチナ人34人が負傷し、救急車を含む140台の車が焼かれる惨事となった。襲撃を受けた町のひとつフワラは、今年の2月にも報復攻撃として入植者300人以上による襲撃を受けており、家屋36軒、車100台以上が焼かれる事件の起きた場所である。
イスラエル、パレスチナ人集合住宅の解体強行 爆破解体の映像
(2019年ネタニヤフ政権の時)
パレスチナ自治区の村と入植地との間でのこのような衝突は、これ以前にも繰り返し起きており珍しいことではない。とはいえその規模はこれまで比較的限られたものであった。最近見られる動向では、報復のサイクルがきわめて早く、より激しくなってきていることが指摘される。こうした状況を中東のメディアは連日、速報で伝えており、21日の深夜にイスラエル軍がナーブルス市内で家屋破壊を行う様子はアル=ジャジーラなどで生中継で報道された。
(国境なき医師団のニュース)
新たな展開の契機
こうした緊張の高まりの背景には、昨年末のネタニヤフ政権の復権がある。オルタナティブとして政権を握ったナフタリ・ベネット首相の早期退陣を受けて、イスラエル史上最長政権を記録したリクード党のベンヤミン・ネタニヤフは2022年12月29日、再び首相に帰り咲くこととなった。
史上最も右寄りのタカ派政権、ネタニヤフ政権が、裁判所の権限を制限する「司法改革」を強行しようとしてイスラエル全土に抗議運動
今期のイスラエル内閣では、リクード党がこれまでと同様に宗教政党のシャスと統一トーラー党と組んだだけでなく、極右と位置付けられる「ユダヤの力」党および「宗教シオニズム」党もまた与党に組み込まれた。これによりかろうじて過半数を超えて成立した現在のイスラエル政権は、史上最も右寄りのタカ派政権と呼ばれている。
右派の「宗教シオニズム」は選挙戦当時から、イスラエルの司法を「左翼に独占されている」と批判しており、組閣後早々に司法改革案を提示した。これらの法案は、最高裁をはじめとする司法の権限を、立法の権限拡大により制限しようとするもので、大きな反発を招いた。
イスラエルは中東諸国の中でも安定した民主主義を確立した国としてその立場を誇ってきたが、今回の司法改革は実現すれば三権分立という民主主義の根幹が揺るがされるとの危機感を招いた。
反対する人々が、イスラエルの国内各地で大規模な抗議集会を展開し、2023年1月から12週連続でデモが続くこととなった。おさまらない批判に対して、ネタニヤフ首相は法案の審議を一時延期することを発表した。その後、与野党間での合意が試みられてきたが成立には至らず、法案は再び提出されて抗議が再開する可能性がある。
かつては非合法だったユダヤ教宗教右派の国家安全保障大臣が、イスラームの聖地に武装して登場。パレスチナ人を挑発。パレスチナ人の「村を消し去れ」とあおる
こうしたイスラエル国内での抗議行動が国際的に注目を集める一方で、看過されてきたのがパレスチナ側との衝突の急増だ。極右政権の政治家の一部は、公然とパレスチ側との対立をあおっている。
国家安全保障大臣のイタマール・ベン=グヴィールは、かつて非合法化されたカハネ主義の支持を明言しており、着任直後の1月3日にはイスラーム教徒の聖地であるハラム・アッシャリーフを訪問してハマースを挑発する声明を出した。財務大臣と国防省内大臣を兼任するベツァルエル・スモトリッチは、1月8日にパレスチナ自治政府への付加価値税の送金を停止し、2月に起きたフワラ襲撃では「村を消し去れ」と入植者らをあおり呼びかけた。
パレスチナ人の住居を奪い、ユダヤ人を入植させる「入植地の拡大」を強行
こうした政治家個人による扇動ばかりでなく、ネタニヤフ新政権ではパレスチナ自治区内での入植地の拡大も計画されている。銃撃事件の起きたエリ入植地でも1,000戸の建設を進める案が承認された。パレスチナ人の権利を奪い生活圏を脅かす入植地の建設は、オスロ合意の際にも和平プロセスを崩壊させた要因のひとつとなっており、深刻な情勢の悪化をもたらす危険性をはらむ。
増加する民衆間の暴力
近年の動向の中で懸念されるのは、これら政府レベルの決定や扇動だけではない。イスラエル・パレスチナ双方の一般の人々の間でも、互いへの暴力の行使は拡大し、頻発する傾向にある。こうした変化は数年前から起きており、警察による歯止めも効かない状態となっている。
エルサレム市内でのパレスチナ人家族の立ち退き問題をめぐり2021年に起きた衝突では、ガザ地区からのロケット弾攻撃とそれへの報復としての空爆に加えて、一般民衆の間でも多くの襲撃事件が起きた。
衝突はパレスチナ自治区内にとどまらず、イスラエル国籍のパレスチナ人をも巻き込むものとなった。
テルアビブ郊外のリッダ(ロッド)では、通りがかったパレスチナ人タクシー運転手が車から引きずり出され、暴徒化したイスラエル人に殴打される事件が起きた。当時も首相であったネタニヤフはリッダに緊急事態宣言を出したが、騒乱は拡大し、イスラエル警察による制止によっても一時制御不能な状態に陥ったという。
これらの暴動はSNSを通して情報が拡散され、急速に広まるという性質をもつ。リッダでの襲撃も一部始終が携帯電話で録画され、動画が配信された。
右派のユダヤ人はSNS上で「イスラエル・アラブ(パレスチナ人)を襲え」と呼びかけた。これに対してパレスチナ側からの暴力行使も拡大している。ユダヤ教の礼拝施設シナゴーグや宗教施設が襲撃の対象とされ、各地で焼き討ちされたり、多数の犠牲者が出たりする事態となっている。
今年1月27日にも、東エルサレムのネヴェ・ヤアコブ地区のシナゴーグ前で銃撃事件が起こり、7人が死亡するかつてない事態となった。実行犯の男性は、これは前日にジェニンで起きたイスラエル軍による攻撃への報復だと述べた。事件が起きたのはユダヤ教の安息日で、ホロコースト追悼の記念日でもあった。
第三次インティファーダへの発展の可能性
こうした民衆間の暴力の拡大は、今後どのような展開をたどるのだろうか。イスラエル側に関していえるのは、政府による制止の有効性は低いと考えられるということである。衝突が起きるたびに、治安組織としてイスラエル警察や軍は派遣され事態の収拾を図るが、その到着以前に被害はすでに甚大なものとなっている。
また入植者による襲撃は、イスラエルの主要閣僚による個人的なお墨付きを得ており、彼らの行為を厳罰に処して抑止効果を得ることは不可能である。極右を含む連立政権が解消されない限り、入植者の専横を止めることはできない。
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