興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

利益と損失の可能性

2006-10-06 | プチ認知心理学

人間は、ネガティブなことや不快なことに対して、
ポジティブな事象と比べて、とても敏感だと言われています。
これは人間の認知の構造によるもので、適応能力のひとつ
だと言われています。

具体的な例を挙げると:

利益の可能性と、損害の可能性が同時に生じた時に、
基本的に人間は損害の可能性のほうにより敏感だと
言われています。

例えば、今、私が皆さんに、

「ちょっと今から僕とじゃんけんしましょう。
 もしあなたが勝ったら、10万円差し上げます。
 しかし、もし僕が買った場合、10万円ください」

と言ったら、たとえ私が絶対にイカサマしないと
いう保障があったとしても、あなたは、OKしないと
思います。かなり高い可能性で、瞬時に10万円が
手に入るチャンスがあるけれど、一瞬にして10万円
失う可能性も大であり、人間はこの失う可能性の方を
優先します。

もちろん、これは利益と損失の可能性を天秤にかけて
いるわけで、それぞれの金額を変えていくことで、
選択パターンの変わっていきます。また、それぞれの
置かれている経済状況などによってもまちまちです。

でも、基本パターンとして、人間は損失の可能性に
より敏感です。実際、金額を、3000円に落としても、
OKする人は少ないのではないでしょうか。

さて、こんな話は言わずもがななことのように思うかも
しれないけれど、この記事で私が一番言いたいのは、
何かの選択を迫られたときに、感覚的にピンと来なかったり、
なんとなく嫌な感じだなと思ったり、なんだか躊躇われるな
と思ったときは、即座の選択を踏みとどまって、その
「なんとなく嫌」な直感的な感情によく耳を傾けてみる
必要があるということです。

なぜなら、我々の直感や感情というのは、言語が生まれる
はるか以前から存在していた本能的なものであり、
忘れてしまったりして記憶にないような今までの経験を
含めたさまざまな無意識と五感から直接来ているもので、
大雑把ではあるけれど、かなり正確なものである場合が
多いからです。

なんとなく気乗りしなかったり、腑に落ちないのに、
何かを選んで行動して、ろくでもない目にあった経験は
誰でも少なからずあるのではないでしょうか。

そういうわけで、「ネガティブ」な感情は、私たちを
損失から守ってくれるということにおいては、
「ポジティブ」なものでもあるのだというお話でした。