興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

ドキュメンタリー映画 『442』

2010-08-01 | 戯言(たわごと、ざれごと)
 今日は映画『442:Live with Honor, Die with Dignity』を見に、妻と2人で近くのSan Pedroという町のWarner Grand Theatreという古くておごそかな雰囲気の映画館へ行った。

 これは第二次世界大戦時の日系アメリカ人の442連隊の兵役体験を中心に、当時の日系人の強制収容所の体験などをその生存者に焦点を向けて淡々と深々に、そのいまだ広く知られていない事実に迫るドキュメンタリーフィルムだ。

http://442film.com/

 世の中には本当に多くの反戦映画が存在する。

 しかし今日見た映画はそのどの映画にも見られなかったような強烈なメッセージを感じた。

 日本軍のパールハーバー攻撃により、日系アメリカ人は、ほかの誰もがかつて経験したことのない悲劇を経験することになる。はじめは問題児扱いされた日系アメリカ人部隊は、次第にアメリカでどの部隊よりも有能で信頼のおける英雄として知られていくことになるのだけれど、彼らが他の部隊と決定的に違うのは、敵と戦うこと以外に、「敵性外国人」という人種差別や偏見とも戦わなければならなかった、ということだという。

 戦後、第33代目アメリカ大領領トールマンは彼らをたたえて言った。

"You fought not only the enemy but fought prejudice and you won"

と。
 この映画ほどに、戦争の空しさ、おかしさ、矛盾、無意味さを直球のストレートに、何の装飾もなく、それでいて強烈なインパクトで投げかけてくる映画を自分はかつて見たことがなかった。ここに出てくる日系人の生存者をはじめとする誰も、「戦争はいけない」などとはいわない。
 しかし彼らの信じられないような精神力、本物の絶望と地獄を体験して生き残ったもの独特の底知れぬ明るさとユーモア、自分たちの文化への誇り、他者への深い慈悲とリスペクトなどが、そうしたメッセージを、絶対的なものとして投げかけてくるのだ。
 
 生きるって何だろう。人生の意味ってなんだろう。
 そういう普段なんとなく考えるともなく考えていることについて、自分のちっぽけな世界観とは別次元のレベルから、そのひとつの答えを見せてもらった気がした。
 生きることとはどうやら、幸福であること、満たされること、そういうこととは独立して存在している。そこに意味があろうとなかろうと、それがどんなに楽しかろうと辛かろうと、それとは関係なく、彼らは寿命が尽きるまで、シンプルに淡々と、誠実に、生き続けている。そんな彼らが本当に美しかった。

 この映画、上映機会が限られているようだけれど、もし機会があったら是非見てください。僕はこれを見てなんだか人生観が変わってしまったような気がします。彼らの底知れぬ悲しみと底抜けの明るさに、生きる勇気をもらった気がします。