夜。
クリニックを退館するときに、いつものようにフロントの名簿の自分の名前の欄に退館時間を書こうとしたけれど、そのとき自分は右肩にショルダーバックとパンパンに膨らんだトートバックを掛けていて、しかも手にはポータブルのマグカップを握っていたので、久しぶりに左手に挑戦してみることにした。
僕はときどきこうして一人ひっそりと左利きに挑戦してその不自由さに驚き楽しんだりするのだ。
しかし今夜はその目の前には僕より少し年上ぐらいのダニエーラという受付の女の人が立っていて、僕が左手で「8:40」と書くのをじーっと見ていた。ひとりで書くのも難しいのに、見ている人がいると僕の左手はさらに動きにくくなった。指先にまるで力が入らない。決して悟られてはならない。落ち着いて、冷静に、何食わぬ顔で、クールにやり過ごさねば。思わず吹き出しそうになるのを堪えながらなんとか「8:40」と書き切った瞬間、彼女が口を開いた。
"Taka, are you normally left-handed!?"
「Taka,あなた普通に左利きなの???」
しまった!見破られた!、そう思ったら堪えていた笑いが一気に吹き出して、もちろん違うよ、と答えると、彼女も笑い出して、
「絶対違うと思った!左利きって動きじゃなかったもの。見てみなさいよこの字!」、
と楽しそうに言った。そんな感じでなんだか愉快な気持ちで外に出たのだけれど、突っ込んで欲しいことを思ったとおりに突っ込んでくれる人がいるというのが嬉しかったのだと気付いた。もし彼女が突っ込んでくれなくてもそれなりにひとりで楽しかったとは思うけれど、突っ込まれたことで、楽しさの度合いも種類も違った。
今度はもっとうまくやろうと思った。
クリニックを退館するときに、いつものようにフロントの名簿の自分の名前の欄に退館時間を書こうとしたけれど、そのとき自分は右肩にショルダーバックとパンパンに膨らんだトートバックを掛けていて、しかも手にはポータブルのマグカップを握っていたので、久しぶりに左手に挑戦してみることにした。
僕はときどきこうして一人ひっそりと左利きに挑戦してその不自由さに驚き楽しんだりするのだ。
しかし今夜はその目の前には僕より少し年上ぐらいのダニエーラという受付の女の人が立っていて、僕が左手で「8:40」と書くのをじーっと見ていた。ひとりで書くのも難しいのに、見ている人がいると僕の左手はさらに動きにくくなった。指先にまるで力が入らない。決して悟られてはならない。落ち着いて、冷静に、何食わぬ顔で、クールにやり過ごさねば。思わず吹き出しそうになるのを堪えながらなんとか「8:40」と書き切った瞬間、彼女が口を開いた。
"Taka, are you normally left-handed!?"
「Taka,あなた普通に左利きなの???」
しまった!見破られた!、そう思ったら堪えていた笑いが一気に吹き出して、もちろん違うよ、と答えると、彼女も笑い出して、
「絶対違うと思った!左利きって動きじゃなかったもの。見てみなさいよこの字!」、
と楽しそうに言った。そんな感じでなんだか愉快な気持ちで外に出たのだけれど、突っ込んで欲しいことを思ったとおりに突っ込んでくれる人がいるというのが嬉しかったのだと気付いた。もし彼女が突っ込んでくれなくてもそれなりにひとりで楽しかったとは思うけれど、突っ込まれたことで、楽しさの度合いも種類も違った。
今度はもっとうまくやろうと思った。