「友達が同棲している彼氏から暴力を受けている」、「娘が旦那さんからDVを受けている」けれど、当事者に自覚がなかったり、自覚はあるけれど、何らかの対策を取る様子でも、そこから抜け出す感じでもなく、理解できない、どうしたら良いかわからない、といった相談をよく受けます。こうした人たちの話を聞いていると、そのお友達や娘さんは、やっと耳を傾け始めてくれるようになったと思ったら、また聞かなくなった、少し前まで別れようとしていたと思ったのだけれど、といった困惑もしばしばみられます。これはまた、DVの被害にあっている当事者のお話を聞いていても、出てくる問題です。彼女たちは、別れたいと切に思う時期と、もう少し続けてみようかと思うときと、波があります。
アメリカの女性の心理学者、Lenore E. Walkerは、今から30年以上も前に、こうした現状について系統立てた理論を提案しました。この理論は、"The Battered Woman Syndrome"(殴打される女性症候群)というもので、アメリカでは比較的よく知られているものですが、日本ではまだあまり知られていないようなので、今回ここに紹介したいと思います。私がこの理論に最初に出会ったのは、昔、アメリカのDVの被害者のためのシェルターで働いていたときに受けたトレーニングでしたが、その後も幾度となく触れる機会がありました。ところでこのモデルは、男女のカップルにおいて、男性から女性に向けられる暴力や暴言に限ったことではありません。近年は、女性から男性への暴力やモラルハラスメントが問題になっていますし、DVは、同性愛のカップルの間にも存在します。そしてこの理論は、こうしたすべてのDVのあるカップルの関係性に見られるものです。
さて、このDVのサイクルは、大きく分けて、4つのステージがあります。これは円環していて、連続性のあるものですが、便宜上、スタート地点を設けます。今回は、スタート地点を1. Calm period/Honeymoon Period (平静期/ハネムーン期)にしますと、
1. Calm period/Honeymoon Period (平静期/ハネムーン期)
2. Tension building period (緊張感が蓄積される時期)
3.Incidedent (実際のDVの事件。Explosion 「爆発」とも言われます)
4.Reconciliation Period (仲直り期)
の4段階になります。
まず、1の平静期/ハネムーン期)ですが、この時期のふたりは比較的うまくやっています。後に紹介する、仲直り期の後ですので、緊張感もあまりありません。しかしこの時期は通常あまり長くは続きません。
この時期は時間の問題で、2の緊張感が蓄積される時期に入ります。この時期、加害者は不機嫌になったり、イライラしたり、気難しくなっていて、被害者は、相手のムードや顔入りが気になり、おどおどしながら過ごします。まるで、はれ物に触るように生きている人もいます。
さて、この蓄積されてきた嫌な緊張感はやがて一触即発というところまで張りつめて、時間の問題で、加害者は怒りを爆発させ、被害者に暴力を振るったり、暴言を吐いたりと、相手をひどく攻撃します。被害者は痛めつけられ、傷つき、最悪な精神状態に陥ります。このとき、被害者は、加害者との関係性について真剣に考えます。その関係を続けていくべきなのか、別れたほうがよいのか。また、その関係性にうんざりして、嫌になってしまっているのもこの時期です。この時期に、被害者は心理カウンセリングや公共のサービスを試してみようという気持ちになります。実際、DVのシェルターに連絡をして、助けを求めてくる方たちは、この時期にいる方たちが多いです。被害者の家族や近しい友人が、被害者が自分の置かれている状況に客観的になれていると感じるのも、この時期です。この時期が、その虐待的な恋愛関係、夫婦関係から脱出できる最大のチャンスです。
しかし残念ながら、この時期も長くは続きません。加害者は、被害者に、自らの暴力や暴言、モラハラなどについて、詫びます。謝ります。また、自己愛が強すぎて直接的に謝れない人は、花束やプレゼントを与えたり、被害者が日ごろ欲しがっていたものを与えたり、してほしいと言っていたことを叶えてあげたりします。これは、被害者が自分から離れていかないようにと、加害者が被害者のこころを操作しているわけですが、この操作については、通常、ほとんど無意識的に行われています。意図的に行っている人もいますが。こうした働きかけにより、最初は心底傷つき、相手にうんざりしていた被害者も、加害者と心的な繋がりを再び感じ始め、気分も回復し始め、加害者の謝罪や償い行為に応じるようになります。これが、第4段階の、「仲直り期」です。この時期の二人はしばしば互いに強いこころの繋がりを感じ、「二人はやり直せるかもしれない」と感じるようになります。(続く)
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