中期・長期的精神力動的心理療法の特徴のひとつに、クライアントの「部分的育て直し」(partial re-parenting)というものがあります。
部分的育て直しをする事で、その人の未解決の発達性/複雑性トラウマが癒やされたり、愛着理論でいうところの「内的作業モデル」(Internal Working Model, IWM)が変容し、人格そのものの改善がみられるようになります。
この「部分的育て直し」に於いて、最も重要であるのが、クライアントとセラピストの治療関係であり、力動的心理療法の中核的なプロセスは、治療関係の展開と深まりにあります。
効果的な治療的人間関係の構築は、いつもスムーズにできるわけではなく、そのクライアントさんの抱える心の傷が大きければ大きいほど、難易度は上がっていきます。
そして、あらゆる人間関係がそうであるように、治療関係にも多かれ少なかれ、浮き沈みがあり、濃淡があります。
これがとても大事なところです。なぜなら、人には、ある種の人間関係や対人交流場面を通してしか分かり得ないその人のパーソナリティの特徴や、幼少期の親との愛着のテーマや、トラウマや、その人の情緒的なニーズというものが多々あるからです。経験的知識、体験的理解です。
皮肉なことに、こうしたものは、治療関係の一時的な悪化によって分かる場合が多いです。たとえば、その人の抱える愛着トラウマのテーマは、治療関係の中で、必然的の起こるからです。
ここで重要なのは、セラピストが、その時のクライアントの愛着トラウマの活性化に早期に気づいて、関わり方を調整していくことです。クライアントの親がその人を傷つけたやり方ではない、より共感的で健全なやり方で対応していく事です。
時折起きるこうした新しいやり取りを通してできていく治療関係を、専門的には、「新しい関係」(new relationship)と呼びます。そしてこの新しい関係を続けていく中で、修正的情緒体験(corrective emotional experience)が繰り返され、クライアントの内面世界が変わっていきます。