興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

プロフェッショナリズム

2018-03-13 | 戯言(たわごと、ざれごと)

捨て鉢になって、破壊的になっている人を前にして、どんなに凄いサイコセラピーのテクニックも無効化、無力化する。ではとにかく死にたい人に対してサイコセラピーは無意味か?「死ぬ勇気を得るために来てるんです」という人に、一体何ができる? ちょっとでも気力が回復すればそれはいつでも自殺のエネルギーになり得る。でも、良くなりたくないクライアントが良くならないのはクライアント本人だけのせい?セラピストに責任はないのか?その状況にあぐらをかいて良いのか?とにかく人生を終わらせたい、絶望の人が、一抹の希望でも抱けるようになるのがサイコセラピーだろう?絶望から希望を二人で作っていくのがサイコセラピーだろう?それこそが究極のテクニックだと思うけれど、それが常にできるわけではない。それが100%確実にできる人はいない。それでも生涯かけて100%に向けて努力するのがサイコセラピストの仕事だと思う。


安全基地 その1 (secure base #1)

2018-03-03 | プチ精神分析学/精神力動学

近年、「安全基地」という言葉をクライアントさんからよく聞くようになりました。

安全基地(secure base)とはもともと、アタッチメント理論(attachment theory, 愛着理論)の専門用語で、平たく言うと、皆さんの心の安心感の拠り所となる存在です。安全基地は、我々人間が幸福に生きるために生涯にわたって必要なものです。

これは子供であれば通常主要な養育者(多くの人にとっては母親)であり、その子の成長にとって欠かせない存在です。小さな子供は、安全基地の存在によって、安心して外の世界を探索する事ができます。外の世界を探検して、疲れたり、怖い思いをしたり、傷ついたりしたら、安全基地である主要な養育者の元に戻って、励まされ、慰められ、癒されて、元気になって再び外の世界を探索し始めます。この繰り返しで子供の心は好きしずつ強くなり、健全な精神発達が進み、親から離れていられる時間も増えてきます。自立心が芽生えます。

大人の安全基地は多くの人にとっては配偶者や恋人といったパートナーですが、親友、特別に信頼できる上司や同僚、師匠など、様々です。もちろん、大人になっても親きょうだいが安全基地という人もたくさんいます。

皆さんが、仕事や育児、勉強や訓練、様々な人間関係などで疲れたり困った時に頼ることができて、その親密で温かな関係性の中で起きる共感、励まし、サポートを受けることで、癒されて元気になり、また頑張れるようになるような、心の拠り所となる存在です。

安全基地がうまく機能している人の多くは、幸せな生活を送っています。困難なところを通っていても、自己肯定感があったり、なんとか楽観的でい続けられます。

問題は、安全基地がうまく機能していない人達で、こうした人達の多くは生きづらさを感じています。

サイコセラピストの重要な役割の一つとして、期間は様々ですが、クライアントさんの安全基地となる事が知られています。

実際、私が常に心掛けている事の一つに、クライアントにとって強力な安全基地となる事があります。

セラピーの治療関係が親密で良好であるほどに、セラピーの展開は早く、皆さんどんどん良くなっていきます。

なぜでしょう?

それは、治療関係が良好なほどに、クライアントさんは心を開いて自由になんでもセラピストに相談する事ができるからです。

決して拒絶されたり否定される事なく、無条件に受け入れられる関係性のなかで、タブーなどなく大きな事から小さな事まで何でも話せます。これは多くのクライアントさんにとって、真新しい経験であり、これ自体が「修正的情緒体験」(corrective emotional experience) と呼ばれ、この体験は、治療的、成長促進的、人格改善的な要素を持っています。

その自由な対話そのものがクライアントさんを癒し勇気付けますが、その中で私達は、問題解決に向けて様々な作戦会議とプランニングをします。この二人で考え出したプランをクライアントさんは次のセッションまでの日常生活で試して模索を続けます。

次のセッションで、うまくいったのであれば共に喜び、さらに次のステップについて話し合いますし、何らかの理由でうまくいかなかったら、別の方法を一緒に考えます。この繰り返しで、クライアントさんは次第に問題解決へ向かって前進していきます。

セラピスト自らがクライアントさんの安全基地となる事とは別に、もう一つ大事なのは、クライアントさんの日々の生活の中の大切な人との人間関係の改善、つまりは、安全基地の機能の改善という作業があります。

クライアントさんの心身の不調や人生の課題には、多くの場合、安全基地の問題が関わっています。

困っている時に頼るべき人にうまく頼れない事は、生きづらさと関連性が強いです。また、安全基地の存在そのものが現時点ではないという人もいます。いずれにしても、こういった状況で、独力で安全基地の改善や構築をする事はなかなか困難であったりします。

つまり、安全基地の改善もしくは構築のために、臨時の安全基地の存在が非常に役立つという事です。

こうした安全基地の改善や構築が治療のゴールかといえばそうとも限りませんが、例えば夫婦関係の問題でやってきたクライアントさんは、安全基地の改善、つまり配偶者との人間関係の改善が大幅に進むと、治療が完結する事も少なくありません。

それ以外のより複雑な問題や課題があっても、クライアントさん達の日常生活に強い安全基地ができることで、セラピーの展開は加速します。非常に治療促進的です。

あれ、なんだかまた営業みたいな内容になってきました。おかしいですね。。

いずれにしても、皆さんの人生において安全基地がどれだけ重要であるかはお分かりになられた事と思います。そして、非営業的な事ですが、サイコセラピーなしでも皆さん安全基地を改善したり構築したりする事ももちろん可能です。

まずはご自分の人生を見渡してみて、大切な人との関係性について考えてみてください。

あなたは、生活の中で起きた、嬉しい事、悲しい事、腹立たしい事、心配な事、どれだけその人に共有できていますか?

また、自分自身がその人にとってどれだけ安全基地でいられていますか?

ドキッとした方は、まずはこの事についてその大切な方と対話をしましょう。