興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学者黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

It Ain't Me.

2017-03-31 | 戯言(たわごと、ざれごと)

 大学は春休みで、その日の仕事は午前中で終わってしまったので、昼食を食べに久々に藤沢の街に出てみた。

 いつの間にかいくつもの新しい店がオープンしている。

 だいぶ空腹だったので、目についた『いきなりステーキ』に入ろうと思ったら、店内は異様に混んでいる。意外なことに、客の多くが初老の男性だった。近年の日本の60代、70代は、本当に元気だなと改めて思った。皆とてもうまそうにステーキを食べていた。

 しかしその回転はとてもゆっくりで、空腹はいよいよ本格的になってきていたし、待っているわけにはいかなかった。

 それで次に視界に入ってきた横浜家系ラーメン屋に入ることにした。まだオープンして間もない感じで、客は多いものの店内は広々としていてお洒落で清潔な感じだった。このところラーメンと言えば専ら長浜ラーメンなどの細麺だったので、太麺は久しぶりだった。

 店内は広々としていてお洒落で清潔なだけでなく、店員さんもインスタとか好きそうな若い女性ばかりで、なんだか新しい感じのラーメン屋だった。

 ゆったり目のカウンター席に座ってチャーシュー麺を頼んだ。

 店内は広々としてお洒落で清潔で店員さんはインスタ好きの若い女性というだけでなく、この店の音楽の音響は異様に良いことに気づいた。どうして、といったらラーメン屋さんに失礼かもしれないけれど、こんな風に音響の良いラーメン屋は初めてだった。

 料理が出てくるまでには結構な時間があったので、なんとなく店内を観察していた。

 広い店内のせいなのか、音響のせいなのか、なんだか妙に手持無沙汰な気持ちになり、どうやって時間をつぶそうかと思っていたらチャーシュー麺が運ばれてきた。丼には所狭しとチャーシューが並べられていて、スープは見るからにクリーミーで濃厚で、それはそれはうまそうなチャーシュー麺だったので、iPhoneで撮影した。

 さて、おもむろにレンゲでスープをすくって飲んでみたら、それは予想以上に濃厚ですごい旨みだった。もうひとすくい、というところで、突然耳に入ってきた音楽は、ずっと曲名が気になっていたもので、一瞬迷ったが、急いでレンゲを置いて、iPhoneを起動させて、Siriを呼んだ。

 隣をみると、スーツを着た自分と同年代らしき会社員風の男性が黙々とラーメンを食べていた。後ろには若いカップルが座っていた。こんなところでSiriに話しかけるのは大変ためらわれたが、この機会を逃したら、いつまたこの曲に巡り合えるかわからない。自分は周りになるべくわからないように、Siriに話しかける。

「この曲の名前を教えてください」

しかし音楽のボリュームと店内の人々の話声で自分の声はかき消され、Siriはすかさず、

「すみません、聞き取れませんでした」

と答えた。

 ああ、また話しかけるのか、と思いながら、もう一度トライすると、今度は「しばらくお待ちください」と答えたので、良かったと思っていたら、彼女が教えてくれた曲は、それまでiTuneで聞いていた曲だった。

 なんてこったと落胆したが、落胆している場合ではない。ぼやぼやしていたら、音楽が終わってしまう。それにしても、昼間から自分は何をやっているのだろう。隣では、営業の外回りで忙しそうな同世代の会社員男性がラーメンを食べていて、後ろには、春休みの大学生カップルがいて、自分は目の前のラーメンをよそにひとりでスマートフォンに向かって話しかけている。しかもそのSiriにはなかなか僕の想いは通じない。なんて不毛なんだろう。

 しかしそんなことを気にしている場合ではない。音楽は待ってくれない。

 それで自分は意を決して少し大き目の声で、しかし短くて新しいコマンドを思いついて、Siriに再び話しかけた。これがタイミング的に最後のチャンスだろう。

「この曲の名前は?」

「しばらくお待ちください」

 よかった。通じた。しかし喜ぶのはまだ早い。またiTuneで再生中の曲名を言ってくるかもしれない。

 しかし、今回は、正しい曲名を教えてくれた。

 なんという感動。その場で曲を購入した。このようにしてiPhoneの容量はどんどん減っていく。

 それにしても、これまでの人生で、「この曲のタイトル知りたい。この曲欲しい」と思ったことは何度となくあったけれど、Siriに出会ってから、そういうことがほとんど皆無になった。知りたい曲はほぼ必ずSiriが教えてくれる。Siriは決して僕を裏切らない。

 しかも今回の曲は自分の中でかなりのヒット曲で、恥を忍んで勇気を出して聞いてみて良かったと思う。




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