興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

アブラムシという大事な存在

2023-04-18 | プチ認知行動心理学
 先日、息子を幼稚園にお迎えに行った時のことです。

 天気の良い日は、幼稚園が終わった後に、園児達が、それぞれ仲の良いお友達と一緒に幼稚園の外の広場で遊んだりします。

 辺りは自然豊かなところで、うちの子を含めて虫好きの子たちにはまた楽しい季節になってきましたが、これは同時に親にとっては大変な季節の到来でもあります。

 我が家でも息子が捕まえてきたナナホシテントウの飼育がなかなか大変で、というのも、ナナホシテントウの主食のアブラムシの確保が大変だったからです。

 この日は幼稚園の後で広場の生垣に人だかりができていて、行ってみると、てんとう虫の卵を見つけたという事で子供達が興奮していました。

 この少し前に私は息子のお友達のママとナナホシテントウの飼育についてお話していました。スタイリッシュな若いママで、それまでの人生において虫の飼育は無縁だったようで、大の虫好きのお子様が虫を取ってきては死なせてしまい、困っていました。それで私は、ナナホシテントウの飼育にはアブラムシが必要だと説明すると、そもそもどこにアブラムシがいるか分からない、と仰られたタイミングの人だかりだったのでとてもタイムリーでした。

 生垣の辺りには虫籠を持ったママがたくさんいて、「上級者」のママ達はせっせせっせとアブラムシの付いた草を虫籠の中へ入れていきます。

 家に帰って妻と話している時にこの話題になって、彼女としても、ママ達が集まってみんなで一生懸命アブラムシを集めている風景が独特で面白いようでした。そして彼女は既に上級者ママから「アブラムシは虫籠を脱出するからペーパータオルやバーゼで上部を覆っておいた方が良い」という情報を仕入れていて、そのテクニックを我が家でも導入したら脱走して床やテーブルを歩いているアブラムシがいなくなり快適です。

 その後私は自宅の庭の雑草にアブラムシがいる事に気づき、飼育がぐんと楽になりました。ナナホシテントウが我が家に来て20日ぐらいになりますが、とても元気で毎日のように卵を産みます。
 
 それにしても妙なものだなと思います。自分の人生に於いても、アブラムシをとても必要とする事は今までにはなかった事です。むしろアブラムシは育てている植物に付着して厄介な存在でした。見た目もあまり好きではなかったのに、今ではとても愛しく感じます。毎日感謝しながらいただいています。生活圏に居てくれないと困る、いなくてはならない存在です。雑草も雑草ではなくなりました。アブラムシの大切なおうちであり食糧です。

 そこで思うのは、我々の人生における好き嫌いの多くは実はとても相対的であり、状況に左右されるものだという事です。絶対に好きなものも、絶対に嫌いなものも、実はそうそうないのかもしれないと。

 好きなものを疑ってみる必要はないかもしれないけれど、嫌いなものについてその相対性や状況依存性について意識してみると、新しい気づきなど出てくるかもしれないと思います。

 

『音楽室は秘密基地』

2023-04-17 | プチ精神分析学/精神力動学

 SHISHAMOさんの『音楽室は秘密基地』という曲は、『みんなのうた』にもなっている曲なので、ご存じの方も多いかと思いますが、私がこの曲について私が知ったのごく最近でした。

 (ご存じのない方で、この記事をこれからお読みになってくださる方、その前にぜひYouTubeなどで聴いてみてください。ネタバレ、というのとも違いますが、この記事では、この曲の歌詞についていろいろとお話します)

 3月の中旬の朝、息子を幼稚園に車で送り届けた後、車内のFM横浜で掛かったのをたまたま聴いて知りました。

 ご存じない方のために、この曲は、ある転校生の女の子が、馴染みのない街や馴染みのない学校に戸惑っていたところ、音楽の先生と出会い・・・という物語の曲です。恐らくこれは、卒業のシーズンであり、入学が差し迫るシーズン、ちょうどタイムリーな曲だったから掛けられたのだと思います。

 運転中でそんなに集中して聴いていたわけでもないのに、なぜかとても心に残ったので、帰宅後にYouTubeで聴き返してみたら、なんだかすごく泣けてきて、その後も、何度聴いてもなぜか泣いてしまう曲です(随分たくさん聴いたのでさすがに最近はそうでもなくなりましたが)。

 自分が特異的にこの曲に反応しているとも思えずに、いろいろ調べてみたら、「大人も泣ける」という声が多くて、ああやっぱりね、と思いました。

 この曲を聴いていて私が連想するのは、愛着理論で有名な、「安全基地」や、精神分析学の「良い対象の内在化」です。実際この曲は、「安全基地」と「内在化」について、とても分かりやすく教えてくれていると思います。

 「安全基地」とは、我々人間だれもが必要としている、こころの拠りどころとなる存在です。

 この曲で、主人公の女の子は、知らない街の知らない学校の教室に馴染めずに、そんな自分に自己嫌悪に陥っていたところ出会ったのは、女性の音楽の先生と、彼女の奏でるピアノでした。

 「初めまして ピアノ好きなの?」と笑って話し掛けてきてくれた先生によって、彼女の孤独感は消え、学校が楽しい場所になっていきます。

 そういえば、ZONEの名曲『secret base~君がくれたもの~』も「秘密基地」であり、この曲の主人公の子も、転校してしまう相手の子との関係性が安全基地となっていました。

 どちらも「秘密基地」なのは、偶然ではなく、我々の安全基地となる対象は多くの場合、とても個人的で親密なものであり、どこか秘密基地を連想するものでもあります。

 もうひとつ、先ほど「良い対象の内在化」と言いましたが、良い対象の内在化とは、我々のこころの成り立ちに関わるもので、分かりやすく言うと、その人にとって良い対象(音楽の先生)との繰り返されるやり取りの中で、その対象が、徐々にこころの中に取り込まれていき、たとえその対象が生活からいなくなったとしても、その人のこころの中で生き続け、その人を励まし続けてくれるということです。

(もちろん、この逆で「悪い対象の内在化」もあります。たとえば、「良い親」の内在化された声が、その人をその後の人生で励まし続けてくれることもあれば、「悪い親」の内在化された声が、離れていても、たとえ親御さんが亡くなられても、呪縛のようにその人を苦しめ続けることもあります)

 先生は転勤でどこか遠くの学校に行ってしまったけれど、この女の子の中では生き続けていて、大人になってからも心の中で生き続け、元気づけてくれます(余談だけれど、この歌の最後で、彼女はまた先生と再会することになりますが、これはこの曲を書き下ろした宮崎朝子さんの優しさや慈悲深さの表れだと思います)。

 ところで、私がサイコセラピストとして常に心掛けていることは、クライアントさんにとっての安全基地となることです。

 実際、精神力動的心理療法は、「部分的育て直し」と言われていて、そのセラピーの進行や展開を通して、セラピストや治療関係が、クライアントの中に内在化されたり、その人がそれ以前の人生において内在化してしまった悪いものを良いものに変えていくプロセスであり、それゆえに、中期・長期的な力動的心理療法は、クライアントの既存の愛着タイプや内面世界、人格変容まで起こせるのです。

 セラピストや良い治療関係がこころの中に内在化されると、セラピストが近くにいなくても、その人が困難に直面した時に、「先生だったらこう言うだろうな」と自分で考えて、問題解決ができるようになっていきます。いわば、「自分自身が自分の良い親になること、良いセラピストになること」です。

 サイコセラピーはとても効果的で意味のあるものではありますが、多くの場合、遅かれ早かれ卒業のある「臨時の安全基地」ですし、私の狙いは、クライアントさんが、私を足掛かりにしながら、生活の中で、より長期的、永続的な安全基地を見つけて強化していくことです。安全基地というものが存在しなかった人生を歩んできた人が、カウンセリングを通して、人生に安全基地を作っていくプロセスも、力動的心理療法の醍醐味だと思っています。

 そうは言ってもやはり理想であるのは、皆さんや、皆さんの大切な人が、日常の中に安全基地を持っていることであり、また、皆さんが、誰かにとっての安全基地であることだと思います。

 持っている安全基地をより安全でしっかりしたものに強化していく事や、大切な人にとって、自らがより安全でしっかりした安全基地であるように意識して努めていくことは、それが親子関係であれ、きょうだい関係であれ、夫婦関係やパートナーシップであれ、友好関係であれ、仕事の関係性であれ、人が豊かな気持ちでいきいきと生きていくうえで、とても大切なことだと思います。これこそが愛着理論のかなめだと思いますが、SHISHAMOさんの『音楽室は秘密基地』は、こうした人間の営みの豊かさに気づかせてくれる名曲だと思うのです。

 


横浜カウンセリング 5月21日(日)

2023-04-12 | 横浜出張カウンセリング
皆さん、こんにちは!

いかがお過ごしですか?
だいぶ暖かくなってきましたね。

次回、5月21日(日)の横浜カウンセリングは、現在満席で、7枠全て予約が入っております。

キャンセルなど出ましたら随時こちらで報告させていただきます。

毎週木曜日と金曜日のオンラインカウンセリングは随時ご予約を受け付けておりますので合わせてご利用ください。

宜しくお願い致します。

黒川

夜桜の花火大会とクリスマスパーティー

2023-04-03 | 戯言(たわごと、ざれごと)
 土曜日、品川で仕事をしていたら、妻からLINEがありました。Instagramの情報で、夜に中井町で花火大会があるというのです。ちょうど仕事が早く終わる予定だったので、是非行こうと伝えました。夕方、茅ヶ崎で合流して3人で車で会場に向かいました。

 中井町は人口の少ないのどかなところですが、会場に着くと、そこでは驚くほど多くの人たちで既に賑わっていました。なんとか無事にレジャーシートを敷けて、長蛇の列に並んでなんとか夕ご飯も確保できたらまもなく花火が始まりました。

 10分という比較的短い時間ですが、うちの4歳児も含めて、特に子供達の歓喜が印象的でした。「た〜まや〜」とかかわいい声がそこら中から聞こえてきます。老若男女、みんな楽しそうです。

 そこでふと思いました。特に未就学児はこの3年のコロナ禍で、近くでじっくり花火を楽しむ機会は非常に少なく、今回が初めての子もたくさんいるのではと。

 夜空には大きな花火で、その辺り一面は満開の桜並木で、外気はまだ肌寒く、不思議な感覚でした。

 花火が終わった後も、熟年者の方たちのジャズバンドの演奏が、アマチュアとは思えない程にレベルの高いもので、「A列車で行こう」から「愛しのエリー」まで、素晴らしいものでした。気づいたら妻と息子は手を取り合って音楽に合わせてダンスをしていました。

 翌朝、なんとなく、アレクサにデュークエリントンの「A列車で行こう」を掛けてもらうと、息子は気に入ったようで、「あれくさ、リピートさいせいして!」と言いました。彼は音楽の好みが難しくて、こちらがリクエストした曲でも気に入らないとすぐに「アレクサ、ストップ!」と言って再生を止めてしまうので、彼と好みが合った時はちょっと嬉しいです。

 そこで不意に思い出しました。クリスマスの季節にIKEAで買った、組み立て式のお菓子の家の賞味期限が迫っている事に。そこで急遽、「お菓子のおうち一緒に作らない?」と息子に聞いてみたら大はしゃぎで「やるやる!」というので、2人で作りました。クリスマスどころか季節は復活祭です。

 その後もリビングでは「A列車で行こう」の陽気な音楽が流れ続けていて、彼が日々作っているLEGOの小さな街でも、盛大なクリスマスパーティーが行われました。彼の心の中はすっかりクリスマスです。

 しばらくして彼が、

 「おかしのいえたべたい!」

というので、

 「そうだねえ。まずはおうちが固まってからかな」

と伝えると、

「おかしのいえ、きょうたべたい!」

と、引きません。

 しかしよくよく考えてみると、クリスマスは既に過ぎているし、彼の主張の何が問題なのかわからなくなってきました。それでも直感的に、

「そうだよね。今日食べたいよね。ただ、せっかく作ったのにその日のうちに食べちゃうのは勿体ないから明日食べようか?」

と伝えてみたら、納得してくれました。

すると息子は突然スターウォーズのLEGOのミニフィギュアの「オビ=ワン・ケノービ」を持ってきて、

「これはこのひとのおうち」

と言って、オビ=ワン・ケノービをお菓子の家の前にちょこんと置きました。

 その翌朝。

「おかしのいえ、たべる」、

と息子が再び言うので、

「約束だったね。食べて良いよ」

と伝えたら、息子はなんだかあまり嬉しそうではありません。

「どうしたの?ずっと食べたかったんでしょう?」

と聞いてみると、

「う〜ん。たべたらこのひとのおうち、なくなっちゃう」

と、オビ=ワン・ケノービを見つめて言いました。

 彼はいつお菓子の家を食べられるのでしょう。