興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

人は毎日必ず何かを学んでいるのか?

2011-07-30 | 戯言(たわごと、ざれごと)
 かなり天狗でしかもサディスティックで異様に頭が切れるから皆から敬遠されている上司がいる。相当にくせのある人で、ほかのセラピストとの問題も絶えない人。自分が周りから避けられたり嫌われたりしていることも十分に理解している。しかしカップルセラピーに掛けては一流で、皆から一目置かれている。身長は185ぐらいで、筋肉質で、彼に脅威を感じているひとも多い。しかしそんな彼は20年のシングルファーザーで、男手ひとつで一人娘を育てているという裏側もある。人をあまり寄せ付けないそのような彼には不思議な面白さと奥行きがあって、自分ははじめから彼にどことなく興味を抱いていたように思う。2年経った今、気付いたら彼とも随分親しくなっているけれど、はじめに彼に興味を抱くようになったのは、ある引用が彼のオフィスに張ってあるのを見つけたときからだ。


 I have to disagree with the notion that
 we learn something new everyday.
 I think I've had several days in a raw
 where I haven't learned anything
 and even forgotten some things.

 私は、「我々は毎日何かしら新しいことを学んでいる」というような考えに反対せざるを得ない。思えば、何日にも渡って何も学ばなかったこともあるし、それどころか、何かを忘れてしまったこともある。

 これは実際深い言葉で、「いや、それでも人間は毎日何かしら学んでいると思うよ」、という人は多いし、ひとは大体においてそのように信じたいものだ。ある不毛な日が、ろくでもない一日が、散々な一日が、まったくもって真っ黒で最悪な日だったのではなくて、そこから何かを得たり学んだり成長したり強くなったり、その経験ゆえに以前より人に優しくなれた、というような考えで、実際これは真実だと思う。一般的に、人は、例外的な状況、たとえば脳障害、昏睡状態など、を別として、日々何かを学んでいるのだろう。

 ただ、ろくでもない日、惨めな日、さえない日に、「それでも何かを学んでいる」と言う考えに固執することでかえって苦しくなったり、生きづらさを感じたり、余計に気分がくさくさしたりした経験がある人も少なくないのではないかと思う。

 別にいいではないか。日々何かを学んでいないとしても。なんとなく淡々と流れていく時間を、過ぎていく日々を、それとなく生きることがあっても、苦境でありながらなんとか腐らずにただただ生きていく日々があっても、そこに内省する余裕や気力が全く起こらない日々があっても、「ポジティブシンキングなんて糞だぜ」って思うことがあっても、それでいいではないか。ネガティブな状況からポジティブな「例外」を見つけていくことが昨今の認知行動療法などの定石となっているけれど、いや、別にいいんだよ、何も学んでいないと感じる日がしばらく続いても。そういうスタンス。