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ハッピーフライト (2008/日)(矢口史靖) 80点

2008-12-12 14:35:03 | 映画遍歴
予告編からは考えられない完成度の高い映画です。結構、飛行機オタクっぽい内容がてんこ盛りなんですが、映画の常道どおりの作り込みで、コメディタッチにしてあるものの、芯がびしっと効いているので思えば堅物のドラマでもあります。

最初から最後までANAの監修が入っていると言えるほど、そりゃあ見事なまで一機の飛行機の搭乗から着陸までの哲学を描いているのです。それを多彩な出演者で繰り広げているから観客にまんまと娯楽映画と思わせているが、実質的には完璧なANAのコンプライアンス(企業倫理・法令遵守)映画です。

通常は航空機映画といえば描かれるのは機内関係(機長、スチュワーデス、乗客)、そして管制塔が主だったものだった。ところがこの映画では企業の裏側を完全暴露している。

搭乗口から見た乗客への客観性観察、バードパトロールなる専門員、保守体制の厳格性(用具一つなくしても全員で探し回るシーン(これに時間をかけ過ぎ))、そしてクレーム客の苦情処理とその対応(このチーフパーサーの対応はどの企業でも参考になる。このシーンはバイブル的。)、ベテランのオペレーション・ディレクターの役割、機長の弁当選び、等々恐らくANAの飛行マニュアルに必須のものだらけでしょう。

これ等のことを通常の描写でやってのけると企業PR映画で全く面白くも何ともないものになってしまうんだけれど、矢口史靖は反転して完全エンターテインメントに作り変えた。その演出力、構成力はただただ驚くばかりである。

ラストの、搭乗係の田畑智子がもういないはずの喫茶店で力なく佇んでいるところに、あの黄色いバッグを携えた男が入り口から入ってくるシーンは観客が一番見たがるシーンなのにアンフォーカスして影のような描写にしてしまっている。この後日談があるものばかりと、エンドクレジットを固唾を呑んで見ていた観客がかなりいたと想像させるばかりである。何とこしゃくでうまい名手であろうか、、。

矢口史靖監督、こんなにテクニシャンだったんだね。いやあ、恐れ入りました。こんなペテン映画だったら、僕はどんどん受け入れます。でも、この映画の好評はANA上層部が一番喜んでいるのではないでしょうか、、。

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