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歩いても 歩いても (2007/日)(是枝裕和) 90点

2008-07-24 13:22:58 | 映画遍歴
現代版小津の東京物語とも言えようか、この映画は家族の姿を現代という立脚点から探り出すことに成功している。

完全な家族映画であります。ある夏の日に兄妹がそれぞれ家族を連れて親の家にやってくる。料理のこしらえから始まる会話の妙。母親、娘の突っ込みと受け。ほとんどアドリブではないか、と思われるほど自然でしかも険のある会話。どこの家でも心当たりのある空気のいぶり方が素晴らしい。

樹木希林がYOUの髪を触り額を見せてしまうところはどう考えてもアドリブ。この辺りに二人の女優の闘いのようなものも感じる。仕方なくぐっと我慢しているYOUの表情が面白い。

やはり家族の描写となると焦点は女になる。家の実質頭として母親の強さを維持している機関銃のような突っ込みに言葉でさらりと返す長女と血縁でないためにどんどん溜めなければならない長男の嫁。元祖「東京物語」からは50年たつけれど家族の関係は不変のようだ。

長男の喪失の状況がそのうち明らかにされる。今日は15年目の命日らしい。まだその喪失を受け入れない両親。人命救助で助かった少年も命日だけには焼香に来るが家族の前で針のむしろである。母親の執念が恐ろしいシーンである。

誰もがこの映画を見て自分の家族と照らし合わせるだろう。それほど身近な題材である。ある家族が一同に会し、長い一日を送る。何かがほつれ、何かが修復する。それぞれの若い家族も歳月が過ぎてまた新たにそれぞれの子供たちと同じ家族物語を紡いでいく。それが人生なのだろう。それが生きていくということなのだろう。長い川の流れのようなものを感じる。

館内は満席で、立ち見もあった。ちょっとした仕草で笑いが出ている。みんな、自分を映像の画面にすっぽり預けている。俳優の表情は我らの表情でもある。音をすべて拾っていた映像はハイ日常的ですこぶるリアリティがあり、自分があたかもそこに居るように思ってしまう。

人間への愛着も感じれば、同時に愛憎も受ける。人は出会いそして別れていくのである。それもまたよきかな。真夏の暑い時にふと見る家族への想いに僕は長い長い人生のリフレインを感じました。秀作です。

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