北京798芸術区の続き 「罐子書屋」という書店の入口付近では、孫紅賓(サン・ホンビン)の写真展「夜・山水」を展示していた。あえてブレボケを多用した方法によって、ゆらぎや瞬きの顕在化が試みられていた。
オーソドックスな彫刻もあった。「任哲彫塑工作室」では、任哲(レン・ツェ)による昔日の武人の彫刻が並んでいた。格好いいもののそれだけ、若いオタクの作品にしか見えなかった。パッと観に格好いい作品といえば、「鯉設計工作室」に展示された抽象画もあった。
親しみを覚えた、可愛い作品が、「海峰芸術空間」に展示された、老孟(ラオ・メン)作品展。中に入ると若い女性が自分かなと思えるような女の子の絵を描いていた。あの女性が老孟なのだろうか。ちょっとブームになってもいい感じだ。
写真ギャラリーは芸術区には少ないというが、「798 Photo Gallery」と同じくらい面白かったのが、「Paris-Beijing Photo Gallery」における「群展」。4人のグループ展であり、特に亜牛(アニウ)とルー・シャンニによる作品が印象深かった。
亜牛は「Times of Fantasy」シリーズの写真で、暗く澱んだ人々の姿を示している。展示では、人それぞれの中には窺い知れない闇があるとの考えが書かれていた。コミュニケーションに対する絶望が巧みに作品に昇華されているようだ。またルー・シャンニは、中国の苗族の男達を極めて美しい銀塩プリントに仕上げている。
亜牛「Times of Fantasy」、ルー・シャンニ「Black Miaos」
映像作品もあった。張連喜(ツァン・リャンシ)による「東郭先生的”困惑”」(Long March Independent Space)では、小さい部屋のなかで、土の上を這いずり回る様々な小さい虫の映像を延々と流していた。東郭先生とは、中国の故事に出てくる、狼を助けながらも恩を仇で返されそうになる書生のことのようだが、この虫はいかに。
大掛かりなプロジェクトとしては、中国美術学院がチベットを訪れ、そこで住民から得た「絵に対する考え」のアンケート結果用紙を使ったインスタレーションや地図など、さまざまなものを寄せ集めた展示「Why Go to Tibet?」があった(Long March Space)。面白いが所詮は企画もの。
絵に対する考えの回答用紙と、それを使った寺院的インスタレーションなど
北京城にもあった「Red Gate Gallery」では、蒋巍涛(ジャン・ウェイタオ)のテキスタイルのようなピカピカの油絵の展示をやっていた。あまり好きなものではなかった。
ここまでで時間切れ、タクシーの乗車拒否に遭いつつも4台目で何とかつかまえ、北京空港に戻った。数時間ではとてもまわり切れない。また、カフェがいくつもあり、画廊は大抵無料なので、一日中居ても快適に刺激的な時間が過ごせるだろうと思った。北京市内からでもタクシーでアクセスできるので、次にチャンスがあればまた訪れたいと考えている。