沖縄、辺野古に基地を建設する「ため」の環境アセスが実施されつつある。まずは、その「方法書」に関して、ひっそりと縦覧されている。私たちの意見は9月27日まで提出できるので、その前に問題点の整理をしたい。
環境影響評価法(以下、アセス法)では、事業の種類によって、規模が大きいものを「第一種事業」、それに準ずる大きさの手続きを行うか否かを個別に判断する「第二種事業」をそれぞれに定めている。「普天間飛行場代替施設建設事業」(以下、辺野古基地建設)については、対象事業のうち、「飛行場」と「埋立て、干拓」の双方ともに第一種に相当する。すなわち、法によるアセス実施が義務となっている。
アセス実施は、以下のような順序でなされる。
図1 アセスフロー (資料をもとに作成)
1999年施行のアセス法では、それ以前の「閣議アセス」から、住民意見の提出機会の増加、スクリーニング(第一種・二種の適用判断)、スコーピング手法の導入(方法書を公開し公平性を確保)、生物多様性や住民の自然との触れ合いに及ぼす影響も調査内容に加えることなどが追加変更されている。 この、スコーピングが正当・公平になされるためには、方法書を正当に作成し、住民等の意見を十分に吸い上げて反映させることが必要となる。そして、正当な方法書を作成するために、影響要因の抽出および地域特性の把握が想定されている。地域特性の把握のためには、スコーピング段階では以下のように調査の位置づけがなされている。
図2 スコーピングの流れ (出典:環境省「生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会中間報告書 生物多様性分野の環境影響評価技術(I) スコーピングの進め方について」(平成11年6月))
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環境省「生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会中間報告書 生物多様性分野の環境影響評価技術(I) スコーピングの進め方について」(平成11年6月) 2 生物の多様性分野のスコーピングの考え方と実施手順 2-1 スコーピングの考え方 6)「地形・地質」「植物」「動物」「生態系」のスコーピングの留意点 (1)スコーピング段階における調査の留意点(略)調査・予測・評価の計画立案のために必要な情報を得ることが目的であり、情報収集の手段としては、既存文献調査を中心に専門家等へのヒアリング、現地概略踏査を加えて、得られた情報を整理することになる。
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(出典:環境省「生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会中間報告書 生物多様性分野の環境影響評価技術(I) スコーピングの進め方について」(平成11年6月))
一方、沖縄防衛局(2007年9月1日の防衛施設庁と防衛省との統合に伴い、那覇防衛施設局から改称)は、「事前調査」と称して、「方法書」に基づかない調査を実施している。これはサンゴ類産卵の着床調査、ジュゴンの鳴き声の調査など非常に大掛かりなものであり、また、反対する住民が居る中での強行、自衛隊掃海母艦の利用なども鑑みれば、とても方法書作成のための調査とは位置づけられないものと言うことができる。
「事前調査」は、むしろ「方法書」確定の後に実施されるべき「現地調査」の一部として、順序を飛び越えて実施されたものとみることができる。これが、政府による強引なアセス法違反であることは明らかだ。 なぜアセス法に違反してまで「事前調査」を行うかの理由のひとつとして、サンゴの調査時期を逃すと事業自体が1年遅れてしまうことが挙げられている。
小池百合子防衛大臣(当時)との確執で話題になった守屋防衛事務次官(当時)は、昨年末(2006年12月25日)の「第2回普天間飛行場の移設に係る措置に関する協議会」において、以下のようなスケジュールを想定している。なお、協議会には、高市沖縄北方対策大臣(当時)、久間防衛庁長官(当時)、麻生外務大臣(当時)、若林環境大臣(当時)、塩崎官房長官(当時)、仲井眞沖縄県知事、島袋名護市長、宮城東村長らも出席している。
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●「方法書」に対する知事の意見: 2007年3月後半~5月中旬 ●「現地調査」特にサンゴ調査: 2007年6月(産卵)、9月(着床)、12月(成長) ※これが実施できないと「現地調査」の開始が2008年6月以降になってしまう
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(出典:「第2回普天間飛行場の移設に係る措置に関する協議会」概要より)
すなわち、昨年末時点では、「方法書」の公告・縦覧を2007年明け早々に実施する予定であったが、沖縄県との協議などが理由で遅れてしまったために、本来「現地調査」で行うべきサンゴの調査を「事前調査」として強行したということが理解される。
これが、本来のアセス法の目的から大きく逸脱し、事業の「ためにする」、本末転倒の調査であることは言うまでもないだろう。 さらに、桜井国俊氏(沖縄大学学長)は、米軍基地については、軍事機密があるために日本政府は事業内容を把握できず、アセスはそもそも成立しないとしている。
さて、「方法書」の公告・縦覧だが、沖縄県と名護市は「方法書」の受理を保留した。しかし、今度は「方法書」を送付されたため、受け取りを拒否できない状況になった。知事は縦覧終了後60日以内(~2007年11月中旬)に意見を出さなければならないが、仮に出さない場合には国から「不作為」を理由に訴えられることが考えられる(2007/8/7、沖縄タイムス)。実際には、これまでのスタンスからみても、強硬姿勢を貫く可能性は低いとみられる。
また、国民等に対する縦覧も、説明責任という面で不十分極まるもの(むしろ縦覧できないようにして時間が過ぎるのを待つ)だと言える。300頁以上の「方法書」は、沖縄県内5箇所のみで縦覧され、閲覧者への配布・貸出・コピーは認められないものとされた。「沖縄ジュゴン環境アセスメント監視団」が情報公開制度に基づき開示請求したところ、開示は2週間後、コピー代約4,000円だったという(縦覧期間が1ヶ月なのに)。環境の公共性、住民安全を確保する国づくり、他国の戦争に加担しない国に住みたいとの希望、といった観点から見ても、本土の人間に対する開示が事実上なされないことは間違っている。なお、私は、「沖縄一坪反戦地主会関東ブロック」の方にご好意で分けていただいたばかりだ。
続けて、「方法書」の中身、「事前調査」の問題点、について、順次整理していこうと思う。