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自縄自縛日記

ノーム・チョムスキー+アンドレ・ヴルチェク『チョムスキーが語る戦争のからくり』

2015-08-18 23:17:02 | 政治

ノーム・チョムスキー+アンドレ・ヴルチェク『チョムスキーが語る戦争のからくり』(平凡社、原著2013年)を読む。

ヴルチェクの試算によれば、大戦後、5,000-5,500万人もの人間が、西側諸国(アメリカとヨーロッパ)の植民地主義によって命を奪われたのだという。驚くべき数字だが、それは、アメリカがヴェトナムや中南米や中東で繰り広げてきたことを総合的・統合的に見れば、想像できなくもない。

東南アジアでは、ヴェトナム戦争があり、カンボジアやラオスへの大規模な攻撃があり、インドネシアでの政変に伴う共産主義者(とみなされる人々)の大規模な虐殺があった(ジョシュア・オッペンハイマーの映画『アクト・オブ・キリング』で追跡された。倉沢愛子『9・30 世界を震撼させた日』に詳しい)。中南米は長らくアメリカの「裏庭」であった。アフリカでは、ルワンダ大虐殺後のコンゴの政変に介入している。中東でも飽くことなく戦争を繰り返している。

本書で訴えていることは、西側中心のメディア報道があまりにも偏っていること、別々の地域での欧米の政治的介入を同列に並べてみるべきことである。たとえば、1965年・インドネシアにおけるスハルトによるクーデターと、1973年・チリにおけるピノチェトによるクーデターとを、アメリカの植民地支配という文脈で同時に語ること。これは決して陰謀論ではなく、個々の史実の積み重ねであると言うべきである。そして、この文脈の中に安保法制を置いてみると、日本がどのような流れに入っていく可能性があるのか、より多くの判断材料を得ることができる。

ところで、さまざまな指摘が盛り込まれた折角の対談を、このように翻訳するだけで出すべきだったのか。解説を充実させて、歴史の流れや当時の政治力学を確認しながら読むことができるようにできなかったのか。邦訳が何か月も遅れたわりには、勿体ないつくりである。

●参照
ノーム・チョムスキー講演「資本主義的民主制の下で人類は生き残れるか」(2014年)
ノーム・チョムスキー+ラリー・ポーク『複雑化する世界、単純化する欲望 核戦争と破滅に向かう環境世界』
(2013年)
ノーム・チョムスキー+ラレイ・ポーク『Nuclear War and Environmental Catastrophe』(2013年)
ノーム・チョムスキー『アメリカを占拠せよ!』(2012年)


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