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自縄自縛日記

武重邦夫・近藤正典『父をめぐる旅 異才の日本画家・中村正義の生涯』

2013-01-14 10:01:41 | アート・映画

記者のDさんに誘われ、東京都写真美術館で、武重邦夫・近藤正典『父をめぐる旅 異才の日本画家・中村正義の生涯』(2012年)を観る。

反逆と破天荒の日本画家・中村正義が生きた足跡を、娘の倫子さんが追ったドキュメンタリーである。

正義は、豊橋市のこんにゃく問屋に生まれた病弱な少年。絵を好み、絵の学校に入ろうとするが、中卒資格がないため断念する。戦後まもなく、中村岳陵に師事し、めきめきと頭角をあらわす。若くして日展で入賞、日展審査員も務めるが、あまりにも封建的な日本画会に見切りをつけて脱会。当時のアート界を揺るがす事件であった。その後の正義は、岳陵ら日本画界から活動の場を制限されつつも、日本画の枠を大きく超えた作品を創り続けた。

わたしが知る正義は、小林正樹『怪談』(>> リンク)に使われた「源平合戦絵巻」(東京都近代美術館蔵)であり、その映画も戸田重昌の担当した美術のひとつの材料としてみていた程度だ。ところが、これは正義が世に出したアートのひとつの通過点に過ぎないものだった。

日展に入選しはじめた初期の作品は、繊細な線と淡い色を使ったものだった。日本画の伝統を引き継いでいるとも言える。洋画家・松本竣介の世界にも共通するような、弱く抒情的な作品世界であった。

しかし、殻を力ずくで剥ぎ取って以降の正義の作品は凄まじい。どぎつい原色も多用し、さまざまなマチエールを前面に押し出したそれらは、土俗的でもあり、同時にモダンでもあった。もはや誰にも似ていないという意味では、天才の所業である。

映画の中で、水上勉が正義に寄せた文章が紹介される。「あの澄んだ眼は尋常ではない」と。「魔の岸」を視ているに違いない、と。まさに彼岸も、「魔の岸」も、地の底も、人の心の奥底も、透徹した眼で見抜いたうえで創りだされた作品群であったのだと思わされる。

既成の日本画界に闘いを挑み、日展に「東京展」をぶつけ、また締めだされていたはずの百貨店においても個展を開いてみせる。三越銀座店で展示された作品の数々には驚かされる。それは、彼岸も此岸も重なっているような、あまりにもクリアな風景画だった。どきりとさせられる世界の転換だった。

すばらしいドキュメンタリーである。川崎の美術館にも足を運んでみたい。

終わってから、Dさんたち数人と、恵比寿の鳥料理の店「N.Park」(>> リンク)で夕食。シンプルなから揚げも、凝ったおつまみもあって、いい店だった。話が楽しすぎて、東西線の終電に乗り遅れてしまった。

●参照
小林正樹『切腹』、『怪談』


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