ポレポレ東中野で富山妙子さんを追った2本のドキュメンタリーを観る。
『自由光州』(前田勝弘監督)は光州事件(1980年)の翌年に撮られた作品。また『はじけ鳳仙花』(1984年)は、あの土本典昭さんが筑豊の炭鉱における強制労働をモチーフにリトグラフを刷り続ける富山さんの姿を撮った作品であり、いちど電話でお話したことのある土本さんの声に驚いてしまう。音楽担当に高橋悠治・三宅榛名の名前を見つけてうれしい。
版画には迫りくる力がある。やはり映画から連想するのは戦前からのアジアにおける民衆版画運動の歴史であって、1930年代に魯迅が抗日運動として育てた木刻運動、その魯迅が高く評価していまも沖縄の佐喜眞美術館に収蔵されているケーテ・コルヴィッツ、1950年代シンガポールでの木版画運動、富山さんと同様に光州事件に刺激されたホン・ソンダムの版画作品、朴京勲による済州島四・三事件の版画作品。
じっさいここにはたしかなつながりがあって、『こころの時代』枠で2015年に放送された『沖縄でコルヴィッツと出会う』では、民主化運動に参加して投獄されたふたりの兄(徐勝・徐俊植)をもつ徐京植さんが橋渡しをしてソウルで、また『世界史のなかの中国』などを書いた汪暉さんが橋渡しをして中国で、コルヴィッツ作品の展示がなされたことに言及がなされていた。
どちらの映画でも、富山さんが本人にも説明できないものに衝き動かされているようにみえた。3年前に99歳で亡くなった富山さんの仕事を少し紐解きつつ、たしかに汎アジアの力をもつものだと実感した。