レスター・ボウイ・ブラス・ファンタジーのことを思い出したら、チューバが効果的なグループとして連想がつながったのは、コンポステラ、ヘンリー・スレッギルのヴェリー・ヴェリー・サーカス、それから、サム・リヴァースのザ・チューバ・トリオ。
これが色違いで3枚ある
ザ・チューバ・トリオのメンバーは、サム・リヴァース(テナーサックス、ソプラノサックス、フルート、ピアノ)、ジョー・デイリー(チューバ、バリトンホルン、パイプ)、ウォーレン・スミス(ドラムス、パーカッション)。『Essence - The Heat and Warmth of Free Jazz』(Circle Records、1976年録音)は、オランダのBimhuisにおいてライヴ演奏された1日の記録であり、LP 3枚にすべておさめられている。なお、ジャケットは写真が共通で周囲は色違いである。
聴客によっては、これらの演奏をすべて聴いたのであろうが、音の記録だけで3枚を続けて聴くのはかなりエネルギーを要する。LPの裏面には、「このライヴ録音された音楽は、スタジオ録音された音楽よりも、可能なかぎり大きな音量で聴いてください」などと書いてある(笑)。
大きな理由は、やはり、リヴァースのソロである。旋律は奇怪極まり、それを蛇のように、あるいは吐き出し続ける毒液のように、うねうねと凄い速さで吹きまくる。
マイルス・デイヴィスのファンにとってみれば、なぜか短期間グループに在籍し、来日時の『イン・トーキョー』に名前を残す男、といった好ましからざる存在なのかもしれないが、私にとってはまったく逆。『イン・トーキョー』は、多くを売り払った中で手元に残す、マイルスの数少ない盤のひとつなのだ。「If I Were a Bell」での唐突に始まる異物のようなソロには笑ってしまう。もっとも、マイルスの重力圏での怪しさに過ぎないのであって、このようなオリジナルな音宇宙はもっと怪しい。
チューバも、ヴェリー・ヴェリー・サーカスやブラス・ファンタジーのような、編曲に基づきグループ全体をドライヴする役目は、ここでは全く与えられていない。とは言っても、天空を飛翔できない楽器であるから、フリー・インプロヴィゼーションの中で地上で暴れる重機と化している。これと、ソプラノサックス、フルート、テナーサックスそれぞれの音色とが絡む様子は、相当にエキサイティングである。
でも3枚連続はちょっと。