シカゴのサックス奏者アリ・ブラウンが、エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンの一員として来日して吹くのを、90年代のいつだったかに新宿ピットインで観た。そのころ名物だったエルヴィンの妻ケイコ・ジョーンズによる長い長いMCでも、「スティーヴ・グロスマンとかデイヴ・リーブマンとか物足りないから、シカゴからアリ・ブラウンを呼んだのです」と大袈裟に話したのには苦笑したのだったが、アリ・ブラウンの味のある音は気に入ってしまった。
同じシカゴ人脈で固めたアルバム、ファマドゥ・ドン・モイエ+アリ・ブラウン『live at the progressive arts center』(FRAME、1981年)は、後日、中古レコードを見つけて入手したものだ。
何しろ、ホレス・シルヴァーの名曲「Peace」を演奏している。とは言いながら、アリ・ブラウンの演奏の特徴をこれと言って説明できない。ストレートでケレン味がなくて、味があって、決して名演の類ではなくても、A面、B面と聴き終わったあとに、またA面をかけてしまうような妙な魅力がある。
録音はさほど良くはないが、ライヴの臨場感はある。たぶんドン・モイエはとびきり楽しそうに太鼓を叩いているんだろうな、なんて思わされる。
そう思ってしまうのは、1997年ころに、レスター・ボウイ・ブラス・ファンタジーの一員として暴れまくるドン・モイエの姿を観てしまったからに違いない。スティックをくわえてたたき続けるモイエは存在感に溢れていた。もっとも、みんな存在感があった。チューバでブウォ、ブウォと音楽をドライヴするボブ・スチュワートは、レスター・ボウイに「He never stops!」なんて紹介されていたし、ボウイはひたすら芸達者だった。ライヴの時間中とても愉快だった。
そのとき、ビリー・ホリデイの「Strange Fruit」を演奏したと記憶しているが、ブラス・ファンタジーのアルバム『Serious Fan』(DIW、1989年)にも収録されている。しかし、それよりも個人的な目玉は、ジェームス・ブラウンの「Papa's Got A Brand New Bag」であり、ローランド・カークの「Inflated Tear」なのである。これほど悦楽的なものはあまりない。
当時のブルーノート東京は、音楽家たちに近づいて話をしやすい構造になっていた(もう何年あのブルジョアなハコに行っていないのだろう)。だが、ボウイは早々に楽屋にこもり、モイエが楽しげにCDを即売していた。ボウイのサインも欲しいんだけど、と言うと、偉いモイエは下っ端に命じて、楽屋のボウイにサインを書かせに走らせたのだった。ボウイはもう鬼籍に入っている。ますます大事なCDになってしまった。