Sightsong

自縄自縛日記

菅原琢『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』

2009-12-27 23:40:56 | 政治

菅原琢『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』(光文社新書、2009年)によると、以下の話はウソである、あるいは、根拠を持たない。

●小泉政権の政策が農村の反発を買ったために自民党が凋落した。
●麻生は、就任前、ネット上においてや一部の若者に多大なる人気があった。
●2009年衆院選における民主党の大勝は、また揺り戻しがあるような一時的なものに過ぎない。
●若者が右傾化する傾向にある。

著者は、さまざまな世論調査のデータを分析し、マスメディアや政治評論家たちによってしばしば提示される言説が、実は、根拠が薄弱で、思い込みによるものに過ぎないことを示してみせる。主な目的は、おそらく、強靭な論理を持たない論客たちに対する批判そのものではなく、検証をしないままの「神話」によって、メディアが悪影響を及ぼし、政治家たちが自分の進むべき道を見誤っていることを指摘することにありそうだ。「この本を読み通せないというのなら、あなたは現代の日本政治について語ることも、一家言を持つことも、到底できない」とまで書くように、その指摘は相当に挑発的である。「読み通せない」どころか、ひたすら面白い。ぜひ一読をおすすめしたい。

それにしても、槍玉に挙げられているような、おかしな分析や言説においては、理系的な感覚ではとても信じ難いデータのハンドリングや解釈を行っている。これまでの政権与党にはまともなブレーンすらいなかったということか。

著者によると、小泉を支持していた都市票と、小泉政権時でもなお自民党を支持していた農村票が、既に民主党に移ってしまっており、「振り子」が多少戻ってきただけでは、自民党は回復できないという。

「そうなると、結局、民主党政権の失政を待つしかないだろう。もちろん、ただ待つだけでなく、そのときに受け皿となるべく、党を刷新し、人を入れ替え、有権者が投票したくなる政党として存在している必要がある。もっとも、二大政党制というのは片方の大政党が与党である間、もう片方がその失政を待つ制度だと考えれば、本来の政党の役割を果たせばよいだけのことである。それが自民党にできるかどうかは、ともかくとして。」

もちろんこれは皮肉と読むべきだろう。ここに書かれているような条件の片鱗すら、どう眼を凝らしても見えないからである。

なお、本書は政策の受容性と有権者の反応を「的確に」分析しているのであり、政策そのものの妥当性を説いているわけではないが、それは本書の責任ではない。


新宿という街 「どん底」と「ナルシス」

2009-12-27 00:43:34 | 関東

大学に入学するときに上京してきてから、ブラブラしたり、酒を飲んだりする街は、渋谷だったり、吉祥寺だったり、谷根千界隈だったりした。それでも、ある時期からは新宿がいちばん好きな街である。頻繁に足を運んだジャズのレコード屋やライヴハウスがあったという直接的な理由もあるが、何より三丁目から歌舞伎町のギンギンした中を歩くと何故か元気が出るのである。

昨日、友人たちと、忘年会として、三丁目のロシア料理店・バー「どん底」で飲み食いした。扉を開けるのははじめてだ。穴ぐらのような場所で居心地が良かった。

もう10年以上前の『STUDIO VOICE』(1998/9)は、「新宿ジャック1968」と題した特集を組んでいる。さっき、あらためて本棚から取り出して、寝転がって読んだ。要はかつての「新宿文化」の新宿を回顧しているものだ。たとえば大島渚『新宿泥棒日記』で共演した横尾忠則唐十郎、それから若松孝二と(元気だった)赤塚不二夫が対談している。もちろん、唐は花園神社を拠点しており、当時「新宿の三天才」のひとりとされていた。

あとふたりの「天才」は、映画の足立正生とジャズの富樫雅彦である。足立はその後パレスチナで日本赤軍と合流し、捕らえられて日本に戻されているのだが、彼のために若松孝二が赤塚不二夫に300万円を借りたというエピソードが開陳されていてひたすら興味深い。

故・富樫雅彦のことには雑誌では触れられていないが、ここでちょっと余談。さっきテレビでピアニスト・辻井伸行の姿を何気なく見ていると、新宿ピットインでの富樫雅彦や佐藤允彦のライヴのとき、客席でよく氏の姿を見かけたことがあるような気がしてきた。(勝手な勘違いかもしれない。)

別の座談会では、「ナジャ」というバーのママだった「よしお」を巡り、夜の新宿について回顧している。そうか、「どん底」はそういうところだったのか。

<平林> あの頃、新宿にくすぶっていた奴の夜から明け方にかけての行動パターンは風月堂に4、5時間、コーヒー一杯でねばり、金のある奴はナジャへ。金のない奴はどん底へだった。
<よしお> 言っとくけど値段はどん底とそんなに変わらないの! 水割り1杯で300円だった。

矢鱈と面白くてちょっと羨ましいが、所詮は別の時代のことである。しかし、新宿のエネルギーは歌舞伎町の客引きが強引でなくなった今もきっとある。森山大道も次のように発言している。

「でも今のぼくの実感でいえば現在の新宿とか時代の方がもっとすさまじいね。無数の無限の60年代がさらに凶悪化してびっしり漂っている感じ、一寸すごいよね。こんな場所を黙って見すごせないよね。」

ついでに雑誌での下らぬ発見。イラストレイターの宇野亜喜良は自分のサインをAquirax と書いていたが、どうやら浅田彰も真似していたらしい。やっぱりミーハーだったのか(笑)。間章もAquirax とサインしていたことには気付いていたのだが。

さて、どん底を出て、コーヒーを飲もうというので、久しぶりに歌舞伎町のジャズバー「ナルシス」に足を運んだ。川島ママが、あなたのブログを読んでお客さんが来たよと言って、貴重なマッチをくれた。片方は、なんと、辻まことがイラストを描いたものだという。伊藤野枝(のちに大杉栄のもとに出奔し、揃って甘粕大尉に虐殺される)と、辻潤との息子である。嬉しいクリスマスプレゼントになってしまった。


辻まことのマッチ

●参照
歌舞伎町の「ナルシス」、「いまはどこにも住んでいないの」
富樫雅彦が亡くなった