四季の彩り

季節の移ろい。その四季折々の彩りを、
写真とエッセーでつづって参ります。
お立ち寄り頂ければ嬉しいです。

事実と、歴史を

2023年03月06日 09時40分45秒 | 日々の歩み
 三浦半島、横須賀市の東京湾側に、大津魚港から馬堀海岸を経由し走水まで延びる「馬堀海岸遊歩道」があります。ここは通称「まぼちょく」とも呼ばれ、首都圏でも指折りのランニングの聖地でもあります。ここは、すぐ脇に海を感じながら走ることができるランニングコースで、ビギナーから素敵なウェアに身を包んだベテランまで多くのランナーが集い、休日には多くのチームが群れをなしてランニングを楽しんでいます。

 かつて、木村拓哉が主人公の「教場」と言うテレビドラマがありました。その中で濱田岳が、このコースでジョギングするシーンがありました。たまたま、その撮影現場に居合わせたことにより鮮明な記憶として残っています。群青に染まる東京湾を挟んで、横浜ランドマークタワーや東京スカイツリーさらに、ベイブリッジ等、様々な景色が楽しめます。



 また、この海岸遊歩道と並行して住宅街を貫く、全長2Kmほどの「馬堀遊歩道」があります。ここは横須賀風物百選にも選定され、四季折々の花々が咲き競う「花の遊歩道」でもあり、私たちの散歩や、ジョギングの格好の場所でもあります。さらに、季節の移ろいを身近に感じられるデジイチスケッチの聖地でもあります。
 過日、この遊歩道で河津桜のデジイチスケッチをしているときに、この河津桜をお世話している方にお話を聞くことが出来ました。この方はご自身の住宅前の遊歩道に水仙から始まり、梅、河津桜、百合、紫陽花、皇帝ダリア、さらに菊、パンジー等々文字通り四季折々の花々を育て、見事に咲かせている方でもあります。



 かねてから撮影の際、時々挨拶をかわし花談義もして参りました。その時は草取りをしながら、深刻な顔をしていましたので「どうされました」とお尋ねすると、「実は見ごろになった黄水仙が20本近く、夜のうちにごっそり盗られたんですよ。しかも二回目です」と肩を落としていました。「ひどいことをする輩がいるものですね」と応じたものの、一年間丹精して育て、ようやく見ごろになった珍しい黄水仙をごっそり盗られた、その方の無念を思うと、慰めの言葉もありませんでした。
 かつて「花盗人」は狂言の演目でも、風流や風雅と言われたことがありましたが、一輪二輪でなく20本近くをごっそり盗っていく行為は、風流どころでなく犯罪でもあります。

 ロシアのウクライナ侵略をはじめ、フィリピンを拠点とした大規模特殊詐欺事件等、世情が騒がしくなり、人が人に寄せる信頼感が希薄になっている時代。「寒さに耐えて花開く春の花に心を寄せる、そんな人のために…」との想いで花を育てていると、呟くようにおっしゃるその方。その方の想いを踏みにじる輩に憤りが湧くと共に、花盗人の心の貧しさに哀しさを感じてしまいました。

 また、その方は、未だ河津桜が、この横須賀で広まる前、三十数年前になりますが、伊豆河津町の観光協会に出向き、桜の苗を譲っていただくよう何度か嘆願されたとのこと。大切な観光資源でもあり、門外不出とのことで、そのたびに断られたとの事でした。
 それにもめげず、諸々の情報を集め河津桜の苗を育てている農家さんを探り当て折衝を重ねました。気候も似ている横須賀で必ず上手に育てるからとお願いし、門外不出の苗木をとうとう譲ってもらうことが出来たと淡々と語ってくれました。

 苗木から花を咲かせ、その実からさらに苗木を育て、ボランティアで遊歩道に植えるという、正に「花守の翁」を、この地で実践してこられたとのこと。自慢するでもなく、淡々と話すその方の人柄に改めて感動するとともに、この遊歩道の花々は、このような方々の手によって守り育てられている事実と、歴史を知り、改めて感謝の想いで一杯になりました。

 四季折々の艶やかな移ろいを示す遊歩道も、このような一遇を照らすにも似た、実直で、誠実なボランティアの方々のたゆまぬ取り組みによって維持されていることを知り、改めて感謝するとともに、心して撮影しなければとの想いを新たに致しました。

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2 コメント

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これからがますます良きシーズンに (fumiel-shima)
2023-03-07 09:57:08
ポエットMさん、おはようございます。

横須賀市(ポエットMさん宅周辺)から東京湾も相模湾も望めるのは本当に羨ましい限りです
これから長い期間にわたって海、山を含む四季折々の膨大な景色や小さな花などの様子も堪能できる時間が多くなりますね。

河津桜をお世話していらっしゃる方のご苦労や、花に対する愛情のおかげで見物客は楽しめるのですね。
訪れる人たちに穏やかな気持ちで楽しく観てほしいという願いを込めて、長い間丹精込めて育てた花を夜陰に乗じて盗み去る輩がいるとは許しがたいですね。

「花盗人に罪は無し・花泥棒は罪にならない」は仰るとおり、狂言「花盗人」が由来のようですね。

花の美しさに引かれ思わず心を奪われてつい花を折って持っていってしまうという気持ちは、人として理解できる・・広い心で相手を理解して許すという意味で風流の世界では通用しても実際には明らかに窃盗の罪ですね。

ポエットMさんと花を育ててきたその方との会話が今私の眼の前でも行われ、お二人の様子や表情がはっきりと見えるような気がしました。
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fumiel-shima さんへ (ポエット・M)
2023-03-07 13:04:04
fumiel-shima さん こんにちは。
いつも心温まるコメントを頂き、ありがとうございます。
fumiel-shima さんのコメントにはホッとさせられると共に、勇気を頂いています。

おっしゃる通り、春の到来と共に海山の景観と、草花等を堪能できる良い季節になりますね。

遊歩道の「花さか爺さん」と、勝手に呼ばせて頂いている方は、
文字通りボランティアの鑑のような方です。その方の心まで踏みにじる行為には、
怒りと共に許せない想いで一杯です。

でも、その方は今日も散歩の際にお会いしましたが、淡々と花のお世話をしていました。

ドイツの宗教家、マルティンルターの名言に、
「たとえ明日、世界が滅亡しようとも今日私はリンゴの木を植える。」があります。
私は、そこまで達観は出来ませんが、「今成すべきを為す」を、
日々実践している方の後ろ姿に改めて尊敬の念を禁じ得ませんでした。
また、このような方が、身近にいることに勇気づけられます。

fumiel-shima さんもその一人です。これからもよろしくお願いします。
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