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しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

安土往還記 辻邦生著 新潮文庫

2016-01-02 | 日本小説
背教者ユリアヌス」を読んでちょっとがっくりもしたのですが、一作で辻邦生を評価するのも乱暴なような気もして手に取りました。
本作も「背教者ユリアヌス」同様に高校時代から読みかけで読み終わらないでいた作品です。

「背教者ユリアヌス」はあまりに長いため本作なら文庫で211ページと(字は小さいですが)読みやすそうな長さかつ、登場人物が馴染み深い「織田信長」ですから「読みやすいかなぁ」と思って買った記憶があります。
他にも辻邦生作品は何作か買ってあるのですがすべて未読です、読みたい作家だけど読めない作家というか…。

内容紹介(裏表紙記載)
争乱渦巻く戦国時代、宣教師を送りとどけるために渡来した外国の船員を語り手とし、争乱のさ中にあって、純粋にこの世の道理を求め、自己に課した掟に一貫して忠実であろうとする“尾張の大殿(シニューレ)”織田信長の心と行動を描く。ゆたかな想像力と抑制のきいたストイックな文体で信長一代の栄華を鮮やかに定着させ、生の高貴さを追求した長編。文部省芸術選奨新人賞を受けた力作である。


上記の内容紹介を読むといかにも面白そうな展開なので高校生の私も気軽に手に取った記憶があります。
といいながらも高校生の私には宣教師たちの心根などがちょっと難解に感じ読み切ることができなかったのですが今回は興味深く読むことができました。

未発見のヨーロッパの船員の手記という体裁をとっています。
こういうテーマ、描けそうで、いざ描こうとすると調べることも多くなかなか難しいんでしょうねぇ。
本当の手記のような雰因気を感じました。

信長と宣教師たちや語り手たるヨーロッパ人との交流にあたっての信長の心根の推定も自然な感じではありますが果たして本当かどうかは今となっては知る由はないですよねぇ。
その辺違和感感じると「信長」という日本史の超有名人物だけに読みにくいかもしれません。

私はまぁこういう考え方もありだなぁと楽しく読めました。
途中まで密度の濃い描写だったのが安土城に移ってから本能寺までのところが「ちょっと薄くなったのかなぁ」とも感じましたがまぁこの作品はこれでいいのかもしれません。
楽しめました。

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背教者ユリアヌス 上・中・下 辻邦生著 中公文庫

2015-12-26 | 日本小説
楡家の人びと」読後に読みたくなったのが本作、北杜夫の盟友辻邦生の代表作(といってもいいのでは)です。

「楡家の人びと」同様中学か高校(多分高校)時代に入手し途中まで読みかけていて長らく未読となっていた作品です。
当時の国語の先生が夏休みのお薦めの本として挙げていて手に取った記憶があります。

そのとき上巻の途中まで読んでいて面白かった記憶があるのですが…。
当時の私の読書力ではその後読む気力が出ず未読のまま30年近くたってしまいました。
今回読んだ本も当時入手したもの

3冊組のものを地元の古本屋で入手したものです。
引っ越し繰り返しながらも「読もう読もう」と思い持ち歩いていました。
奥付見ると昭和49年12月初版、昭和53年1月 6版のもの。
古い...。
1969年~1972年まで「海」に連載され初刊は1972年(昭和42年)です。

内容紹介(裏表紙).
上:ローマ皇帝の家門に生まれながら血をあらう争いに幽閉の日を送る若き日のユリアヌス。やがて訪れる怒涛の運命を前にその瞳は自負と不安にわななく。
毎日芸術賞にかがやく記念碑的大作

中:けがれなき青年の魂にひたむきな愛の手をのべる皇后エウセビア。真摯な学徒の生活も束の間、副帝に擁立されたユリアヌスは反乱のガリアの地へ赴く。
毎日芸術賞にかがやく記念碑的大作!

下:永遠のローマよ。日の神は今わが生を見棄てられた! ペルシャ兵の槍に斃れたユリアヌスは、皇帝旗に包まれてメソポタミアの砂漠へと消えてゆく。
毎日芸術賞にかがやく記念碑的大作!


読後のとりあえずの感想は「30年越しでやっと読めた」という満足感と「もっと素晴らしい作品かと思っていたのに期待外れだった」残念感が入り混じったものでした。
読むタイミングとしては大学生、20代くらいがベストだったのかなぁという感じ。

後半ユリアヌスがガリアに赴任してから作品に入り込めずきつかった…。
下巻は読み通すのが苦痛でさえありました。

かなり評価の高い作品なので私の読み方が悪いのかもしれませんが…。

上巻の途中までは読んだ記憶もうっすら残っており、当時も感じたのですが読みやすくかつとても面白い。
純文学というよりもギリシャ神話の神様らしきものも全編登場しますし…、超現実的な個所、運命的な暗示などが随所に登場しますし神話のパロディもしくはファンタジィ風の構成になっています。
いわくつきの「皇帝の甥」という身分のユリアヌスが本名で出歩いて友人と話をしていても誰も気づかないというようなご都合主義的展開もありますがファンタジイと思って読めば全然気になりませんでしたし、たくらみとして楽しめました。

ただ中巻後半辺り以降、ユリアヌスがガリヤに赴任し立場も運命も大きく転回してからは「哲人」かつ「読書家」ユリアヌスの理想を追い求める姿は変わらないわけですが…ご都合主義的なところは置くとしても展開が雑かつ平板になってしまったように感じました。
「理想」と「現実」の間で苦悩する姿、「悲劇」に向かって突き進んでいく姿やキリスト教徒との対立を通じた宗教と社会の矛盾などがもっと丁寧に書かれていればかなりの名作になっていたのではないでしょうか。

ユリアヌスが権力を握ってからの「青さ」的なところは私がもっと若ければ共感できたよのかもしれませんが40代オヤジとしては青年の苦悩は共感しにくいものがあったのかもしれません。
当時のローマ雰因気を伝える作品としては良い作品とは思いましたが残念ながら大傑作とは感じられませんでした。
ただ若い人にはお薦めかもしれません。

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1950年のバックトス 北村薫著 新潮文庫

2015-12-19 | 日本小説
これまた5-6月に読んだものです。

「チャンピオンたちの朝食」を読んだ後もSFに戻る気もせず…。
なんとなく「軽く読めそうな本」ということでブックオフ108円棚で見つけて購入していた本書を手に取りました。

2007年8月刊の短編集です。

内容(裏表紙記載)
「野球って、こうやって、誰かと誰かを結び付けてくれるものなんだね」忘れがたい面影とともに、あのときの私がよみがえる…。大切に抱えていた想いが、時空を超えて解き放たれるとき―。男と女、友と友、親と子を、人と人をつなぐ人生の一瞬。秘めた想いは、今も胸を熱くする。過ぎて返らぬ思い出は、いつも私のうちに生きている。謎に満ちた心の軌跡をこまやかに辿る短編集。


北村薫の短編集というかショート・ショート集(大きい文字300ペーシに23編収録)という感じのもの。
野球小説かと思って手に取ると裏切られます。

ホラーというか怪談調のもの人情もの的な落語調、共通してちょいとミステリーが味付けにつかっている感じでよくも悪くも「北村調」なので安心して読めます。
作品の出来は若干ばらつきがありますが総じていうと「すごい」とは思いませんが「なかなかいい感じ」という感想でした。(エラそうな感想ですが…)
アイディアが凝縮されている短編・ショート・ショートという様式は北村薫にあっているのかもしれませんね。

各編紹介しようと思いましたが…力足りずでタイトルのみ。
 ○百物語
 ○万華鏡
 ○雁の便り
 ○包丁
 ○真夜中のダッフルコート
 ○昔町
 ○恐怖映画
 ○洒落小町
 ○凱旋
 ○眼
 ○秋
 ○手を冷やす
 ○かるかや
 ○雪が降って来ました
 ○百合子姫・怪奇毒吐き女
 ○ふっくらと
 ○大きなチョコレート
 ○石段・大きな木の下で
 ○アモンチラードの指輪
 ○小正月
 ○1950年のバックトス
 ○林檎の香
 ○ほたてステーキと鰻

2007年の巴投げ 桜庭一樹
解説 速水桃子

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怪盗ジバコ 北杜夫著 新潮文庫

2015-09-21 | 日本小説
楡家の人びと」読んで読みたくなり本書を手に取りました。

こちらの方は「楡家の人びと」と異なり昔繰り返し読んだもの。
小学生時代に初読で高校生くらいまで、年数回は必ず読んでいた記憶があります。
なんともかんともばからしい設定がつぼにはまり大好きでした。
当時は「ある意味北杜夫の最高傑作ではないか?」などと思っていました。
当時読んだのは古本屋で200円で買ったこちら

一応初版です。

昭和42年刊。
書き込みがあったのですがこれが絶妙だったので何割かましで評価していたような感もあります。
今回はブックオフで入手した

新潮文庫版を読みました。(和田誠のイラストがいい..、埴谷雄高の解説も)
今回で「がっかりしそうだなぁ」と少々怖い思いもありながらも再読。

内容(裏表紙記載)
史上最強の怪盗が現れた! 全世界を股にかけ、これまでに盗んだ額は一国の国家予算をはるかに超える。南海の孤島のヤシの実から共産圏の金の延べ棒まで、盗めるものはなんでも盗む。48を超える国語を自由にあやつり、老若男女どんな人間にも姿を変え、その正体は誰も知らない――― ジェームズ・ボンドや明智小五郎もお手上げの「怪盗ジバコ」のユーモアあふれる活躍を描く連作8編


さすがに「大爆笑」とはいきませんでしたが...。
楽しめました。
徹底的にかっこつけないで意味性を排除した「ばかばかしい」ともいえるユーモア小説です。
若い人にはわからないでしょうが、クイズダービーで篠沢教授がいうような意味で「品がある」。
高みの見物」よりユーモアに徹している分純粋に楽しめます。

ただ「意味性」はないですが、解説で埴谷雄高が書いているように「意志性」は十分すぎる以上にあります。
「不純」な人物として描かれている人物もある意味「純粋」な意思を与えられて生かされている気がします。

登場人物すべてがなんとも愛おしい。
未読の方はお勧めです。(合わない人には徹底的に合わないかもしれませんが)

各編感想など
○怪盗ジバコ
怪盗ジバコのイントロダクション的内容。
北風に風呂敷広げています。

○クィーン監獄
フィジー諸島の小さな島に訪れたジバコをめぐる大騒動。

警察署長の名前が「ウォルター・キッコーマン」。
ちなみに巡査長は「ウナ・ギメーシ」(笑)
そこからしてなめていますが、その署長が推理小説好きで「もっとも怪しくない人物がジバコだ!」との捜査方針の中、拳銃やら機関銃やら落としながら入国するジバコの姿が印象的です。

○猿のパイプ
カラコルム登山隊に参加した作家・北杜夫氏はふとしたきっかけで伝説の猿のパイプを…。

著者得意の自虐ネタです。
カラコルムに向かう機内で北氏はご「ごはんにジャムを塗り、水に塩を入れて」食べ、横で「果物にミート・ソースを塗り、コーヒーにサラダのドレッシングをかけ」食事を食べている人間と出会うことになります。
あれやこれやありめでたく北氏はジバコの公式伝記作家となります。

感想書きにくいですが…くだらなさすぎて面白いです(笑)

○女王のおしゃぶり
日本の富豪が持つ「エリサベス1世のおしゃぶり」をめぐるジバコと日本警察陣・あの名探偵との知恵比べ。

大体「おしゃぶり」というのが馬鹿にしていますが….。
北杜夫の描く明智小五郎味わい深いです。
「それではさよならバイバイよ」で〆るのもなんとも人を食っていていい...。

○蚤男
デンマークの「蚤」のサーカス団のお話し。

本編よりも枕のヒトラーの話の方が笑えたりしますが…。
よくまぁ「蚤のサーカス」なんて発想でてきます。

○トプカピ宮殿
若きジバコのトルコでの奮闘。

これを読むと頭がシシカバブでいっぱいになります。(笑)

○007号出撃す
ジェームズ・ボンドとジバコの遭遇。

対決というか「遭遇」談でしょうか…。
007シリーズのワンパターン性を徹底的にちゃかしています。
昔は一番好きな作品でしたが今回読んで「いまいち」楽しめなかったのは年のせいでしょう。

○ジバコの恋
ジバコの組織も大きくなりすぎ末端ではいろいろ問題も…。
そんななかジバコは恋をする。

楽しい物語にも終わりは訪れます。
「007号出撃す」で007シリーズのワンパターン性を茶化していますが、変幻自在に書かれている「ジバコ」シリーズもあるパターンは出来てきます。
そこに対する反省・自戒を込めたラストでしょうか?

最後の組織すべてを捨て自力で挑むジバコの男気は印象に残ります。
この姿は意外と私の意識のかなり深いところに刻み込まれているかもしれません。
あとは「シシカバブー」も(笑)

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楡家の人びと 上下 北杜夫著 新潮文庫

2015-09-12 | 日本小説
高みの見物」を読んで感想を書き、改めて「北杜夫とは」などと考えていて…。
自分はいっぱしの北杜夫ファンの気がしていたのですが実は代表作である本書「楡家の人びと」を読んでいない。
「こりゃいかん」と思い本書を手に取りました。

中学時代に本書の単行本版(分厚い二段組みで白い装丁)を古本屋で入手したことがありました。
本書は古本屋でもなかなか安くならず当時1,000円以上して当時の小遣いでは買うのに思いっきりが必要だった記憶があります。
もっとも買うのに躊躇したのは値段だけではなく「果たして読むのかなぁ?」という気持ちもあったのですが…。

中学時代、夏休みのたびに読もうとしたことはあったのですが….。
毎回20~30ページ読んであきらめた記憶があります。

その後もなんとなく苦手意識が生じ未読のまま社会人になっても転居のたびに持ち歩いていましたが単行本はかさばるので「まぁ読むときは文庫を買おうと」30歳で結婚するときにブックオフ行きになった記憶があります。

ということで今回読むのは上下組の文庫版を2年前くらいに古本屋で買ったもの。

文庫は現在の版では第1,2,3部の3分冊になっているようです。

最近老眼が入ってきていますが、本は活字が細かくつまっている方が好きなのでこの上下版の方が好みだったりします。

内容紹介(裏表紙記載)

溢れる楽天性と包容力で患者からも一族からも信頼される、ドクトル基一郎が、誇大妄想な着想と明治生まれの絶大な精力で築いた、七つの塔と円柱の並び立つ楡脳病院。その屋根の下である者は優雅に、ある者は純朴に、ある者は漠とした不安にとまどいながら、歴史の流れの中に夢み、抗い、そして消えて行く。人間の俗人性、凡庸性を温かい心と冷徹な眼でとらえた名作。

戦時日本のまぼろしの昂揚と、続いて訪れる無一物の荒廃・・・・・。楡基一郎の築いた大病院につどう人人ののどかな呼吸も、永久に脈打つかに見えながら、いつともなく変わって、ドクトル・メジチーネの死後、才能を認められて長女龍子の夫とされた徹吉も、また、それぞれ個性豊かで愛すべき男たち、女たちも、ひとしく波濤に呑まれる。嵐の中によき市民時代への挽歌が響く。


前段でも書きましたが本書は北杜夫の代表作にして戦後日本文学全体の中でもとても評価の高い作品です。
星新一なども折に触れ「素晴らしい」と書いていた気がします。

もっと「難解」とされている作家ならともかく「北杜夫」ですからねぇ読めなかったのが永らくコンプレックスでしたが今回読了できて払拭されました。

まぁ私の成熟度では今(45歳)読まれるべき作品だったんでしょう。

感想をひとことでいえば素晴らしい作品。
日本文学の歴史に永く残る作品だと思います。

私の感想などより下巻の表紙折り返しに記載されている三島由紀夫の感想の方がよいかと思うのでご紹介。

戦後に書かれたもっとも重要な小説の一つである。この小説の出現によって、日本文学は、真に市民的な作品をはじめて持ち、小説というものの正統性を証明するのは、その市民性に他ならないことを学んだといえる。
これほど巨大で、しかも不健全な観念性をみごとに脱却した小説を、今までわれわれは夢想することもできなかった。
あらゆる行が具体的なイメージによって堅固に裏打ちされ、ユーモアに富み、追憶の中からすさまじい現実が徐々に立ち上がるこの小説は、終始楡一族をめぐって展開しながら、一脳病院の年代記が、ついには日本全体の時代と運命を象徴するものとなる。しかも叙述にはゆるみがなく、二千枚に垂らんとする長編が、尽きざる興味を以て読みとおすことができる。
初代院長基一郎は何という魅力ある俗物であろう。諸人物の幼年時代や、避暑地の情景には、何というみずみずしいユーモアと詩があふれていることだろう。戦争中の描写にさしはさまれる自然の崇高な美しさは何と感動的であろう。
これは北氏の小説におけるみごとな勝利である。これこそ小説なのだ。


いやまぁごもっともな感想で付け加えるところはあまりないような気がしますが…。

第一、二部は、ユーモア小説とも私小説とも純文学とも大衆小説にもならない非常に際どいところでバランスされた絶妙な展開。
それに比べ太平洋戦争に入る第三部は若干ステレオタイプの「戦争文学」的でもあった気もしますが...。
といって、終始市民目線から描かれる「戦争」はある意味新鮮なような(何を言っているんだか)

あと楡家の人びと(楡姓になっている人)基一郎以外、は女性が個性的で魅力的に描かれているように感じました。
対照的に男性はみんな情けない....。
この辺は著者の個性でしょうか?

手抜きな感想ですが、とにかく名作です。

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