親孝行をせよ、とか、夫婦和合せよ、などのスロ―ガンを叫ぶことは、道徳や倫理とはまったく縁のないことですが、日本ではそれが分からない人が多く、困ります。
安倍政権に集う人や文部科学省に勤める役人の無知蒙昧には呆れ返ります。
なぜ、こんなにも言葉や物事の意味が分からないのでしょうか。
自分の経験をもとに、なにがよい生き方かを考えてみる、それを友人らとの対話で広げ深める、それを繰り返して、だんだんと自分の心の世界(「精神世界」)豊かにする。それが道徳を獲得するイロハですので、スローガンを掲げたり、上位者の言うことを暗記し従うのとは、まるで反対です。
自分の内なる声(本心)をよく聞き、自問自答することでつくられる生きる規範ですので、あくまでも自己の内なる良心のことで、外や上からの要請や命令ではないのです。自分が自由に思考し判断するする力を鍛え、それに責任をもつのが道徳のある人なので、盲目的に上位者に従う人は、道徳とは一番遠いのです。
だから、戦前(1940年代)につくられたアメリカ映画『日本を知れ』では、「日本には道徳は存在しない、ただ目上の人に従うだけである。」とナレーションされました。
「わが国は先進国で、西側諸国と価値観を同じくする」と安倍首相は幾度も述べてきましたが、同じどころではありません。似ても似つかない正反対の道徳観で、ひどく後進的です。
戦後70年が経っても、こういう人間精神の事柄の基本すら分からないのが哀しい日本の現実です。もう少し、きちんと本質を学習し、「思想音痴」から脱出しないと、恥ずかしい限りです。
武田康弘(フィロソファー・元参議院行政監視委員会調査室・客員調査員「日本国憲法の哲学的土台」を講義)