度肝を抜く「英雄」が発掘された。
ベートーヴェン交響曲3番は、クレンペラーの実に大きな演奏、磐石不動の圧倒的な存在感の1959年のスタジオ録音(全集の中の一枚)を長いこと愛聴してきたが、
新しく発売されたのは、1962年のアメリカ演奏旅行でのライブ。オケは、「華麗なるフィラデルフィア」という意表を突くもの。全体の構成も解釈も悠然たるテンポも1958年のスタジオ録音と変わらない。
ただし、熱量の大きさと力感の強さには圧倒される。二楽章の葬送行進曲がこれほどの強靭さで演奏されたことは聴いたことがない。音は地を這うよう。強奏時の強烈な迫力には唖然とする。ベートーヴェンの恐ろしいほどの慟哭、激しい怒りのような悲しみに直面させられて、全身に震えがくる。オケの個々のメンバーの上手さ・強さ・熱さも凄い。幾度も鳥肌が立つ。
三楽章のスケルツオは、、微動だにしない安定はいつも通りだが、金管の華やかな強さは、快感だ。4楽章フィナーレもクレンペラーの強固な意志は、団員に張り詰めた緊張感をもたらし、インテンポのまま白熱し、輝かしく強烈な光を放っておわる。感動が打ち返す波にように襲ってくる。
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「田園」は、一音一音、明瞭の極み。クレンペラーの意思の強さが透き通るように個々の音を際立たせ、強靭な美に溢れている。
1楽章、ホルンの音がこれほど見事に鳴り響く演奏も聴いたことがない。
2楽章は味わい深い。惚れ惚れする。
嵐の場面の緊迫感は物凄く、再び晴れゆくさまは、実に気分がよい。
評しがたい激動の天才ベートーヴェンと巨人クレンペラーの優しさと愛情の豊かさと深さがしみじみと感じられる最高の田園だ。
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(両曲ともクリアーなステレオ録音だが、高域が強調され、低音はカットされているので、再生時に補正する必要がある)
武田康弘
武田康弘